2016年12月4日日曜日

囮捜査 11

 遺伝子管理局の職員は遺伝子学者ではない。だから、マザーコンピュータの方程式と言われてもぴんと来ない。 ダリルが言うには、最初のクローンがコロニーで製造された時、人として形成する為の遺伝子情報を記録する時に手違いがあって、X染色体にX染色体を拒否する情報が組み込まれてしまったと・・・

「もういい、わかった。」

とポール・レイン・ドーマーはダリルを遮った。

「つまり、そのミスに誰も気が付かないまま、200年以上も地球人は苦しんでいたと言うことだな?」
「コロニー人のミスでね。」
「最初は、本当に環境汚染が原因の染色体異常だったのです。それを修復する為のクローンの染色体が狂ったまま登録されてしまいました。
 もし誰かが気が付いていれば、ドームは100年ほどで役目を終え、ドーマーも取り替え子も必要なかったのです。」

 ラナ・ゴーンは目を伏せて言った。

「本当に、地球に対して、私達は取り返しの付かないようなことをしてしまいました。」
「でも、修復する手立てがある訳ですよね?」

 ダリルが尋ねた。

「それに今、長官や貴女が取り組んでいるのでしょう?」
「ええ・・・地球上の全ドームだけでなく、宇宙でも全力で修復プログラムの構築に取り組んでいます。JJとジェリー・パーカーの協力で判明したことです、早急に役立てなければなりません。」

 ポールは冷ややかだった。

「しかし、俺たちの世代では何もない。俺たちの生活は少しも変わらない、と言うことですね?」
「そうです。ごめんなさい。」
「貴女のせいじゃありません。」

 ラナ・ゴーンはポールがニヤリと笑ったので、驚いた。ポールが言った。

「俺はドームから追い出されるのかと一瞬ひやりとしましたよ。俺はここの暮らししか知りませんからね、外で暮らせと言われたら、途方に暮れて泣きます。それに・・・」

 彼はダリルを見た。

「まだこの男もここに閉じ込めておくのでしょう?」

 彼の言いたいことを理解して、副長官はやっと笑顔になった。

「大丈夫よ、レイン、貴方の大事なセイヤーズは1世紀は逃げられないから。」
「えーーー! そうなんですか?」

 ダリルがわざとがっかりして声を上げたので、彼女とポールは笑った。
 ポールは時計を見た。彼は珍しく副長官に親しげに声を掛けてみた。

「そろそろ夕食時間ですが、一緒にどうですか?」
「有り難う。でもパパラッチに見つからないように出られるかしら?」