2017年4月24日月曜日

奮闘 17

 ジェリー・パーカーは、ジェリー状の物体に包まれて目を覚ました。打撲傷の治療と称して医療区の執政官にパイプ状の容器に入れられ、薬剤を注入された。それが半凝固してジェリー化したのだ。体は動かせるのだが、四肢が重たく皮膚の感覚がない。肩から上だけが外に出ていて、なんだか間抜けな図になっている。2時間ばかり我慢するようにと言われたが、ジェリーは10分もすると苦痛になってきた。しかしここで腹を立てても意味がない。彼は居眠りでもするか、と諦めた。
 室内に誰かが入って来たが、そちらを向くのも億劫だったので、彼は目を閉じて無視することに決めた。

「やぁ、パーカー。」

と聞き慣れた男の声が聞こえた。無視し辛い相手だったので、ジェリーは目を開いた。

「こんにちは、長官。申し訳ないが、そっちを向くのが一苦労なので、前に回ってもらえますか?」

 ケンウッド長官がパイプの周囲を歩いて彼の正面にやって来た。

「打撲傷の治療が大変だとは聞いていたが、かなり大袈裟だな・・・痛むかね?」
「全身打撲ってとこですから、湿布をするよりこの方が薬剤が直接患部に浸透して治りが早いそうですよ。」

 長官は小さく頷いた。

「君が何処で何故怪我をしたのか、さっき遺伝子管理局から説明があった。私は、君がラムジー博士の墓参りに出かけると聞いたから外出を許可したのだが、どうもハイネと君、そして私の見解は異なっていたようだ。」
「俺は誰がラムゼイ博士殺害に直接手を下したのか、知りたかっただけです。オンライン上で俺と会話していたヤツが、本当にジェシー・ガーなのか、確認を取るだけのつもりでした。ハイネ局長も確認だけしてこいと言ったんです。」

 ジェリーはジェシー・ガーの話を聞いているうちに殺意が芽生えたことは黙っていた。ダリルには脅すつもりで殺傷能力のない麻痺光線をガーの横を狙って撃ったと言ったが、本当は怒りに吾を忘れて殺すつもりで撃ったのだ。麻痺光線であることも忘れていた。しかしここでそれをケンウッドに告白するつもりはなかった。
 彼は殊勝な顔をして素早く付け足した。

「俺の怪我でハイネを叱ったりしなかったでしょうね?」
「私が彼を叱る?」

 ケンウッドが苦笑した。

「私が何を言っても、彼の場合は暖簾に腕押しだ。またコロニー人が小言を言っていると言う程度の認識で軽くスルーされる。」
「でも、あんた方は地球人を子供扱いしているだろ?」
「それは、我々がドーマー達や女性達を生まれた時から育てているからだ。決して地球人がコロニー人に劣っているなどと思ってはいない。」
「俺はあんた等に育てられたんじゃない。」
「ああ・・・そうだ、君はここでは客人だ。」
「囚人だろ?」
「違うよ。君が復讐を企んだりさえしなければ、自由にドームを出入り出来るはずなのだがね。」

 ジェリーとケンウッドの目が合った。ジェリーはコロニー人の学者に心の中を見透かされたのだと気が付いた。

「君の復讐に、うちの子供達を巻き込まないでくれないか。」

とケンウッドが言った。