2017年11月20日月曜日

退出者 7 - 3

 酒宴の翌朝、ペルラ・ドーマーが目覚めるとコロニー人達は既に居なかった。彼は静かに服を着てバスルームを使った。ボスを起こさないように心がけたつもりだったが、リビングに出ると既にハイネがソファに座っていて順番を待っていた。

「おはようございます。これからジョギングですか?」
「うん。君は向こうに帰るのか?」
「はい、朝食で介護が必要な人が1名いますので。」
「介護役が居るだろう?」
「それが偏屈な人で、他の食事は介護人でも構わないのに、朝食は私でないと駄目なのだそうです。」
「それは苦労だな。」

 ハイネが笑った。ペルラ・ドーマーはボスの笑顔が大好きだった。

「また5日後に来ますよ。パーシバル博士が回診に来られるでしょう?」
「うん。」

 ペルラ・ドーマーはハイネの表情が微妙に翳ったことに気が付いた。彼は思い切って言った。

「姫様はきっとお幸せになりますよ。」
「姫様?」

 ハイネが怪訝な顔で見た。ペルラ・ドーマーは苦笑した。

「申し訳ありません、『黄昏の家』ではセドウィック博士をそうお呼びするのです。こちらでは女帝ですけど、『黄昏の家』の住人は高齢者ばかりですから、女帝も年下です。ですから、姫様、と・・・」
「彼女が聞いたら喜ぶだろう・・・しかし、年下の女性を姫と呼ぶなら、ドームは姫様だらけになるぞ。」
「セドウィック博士の様に徒名にふさわしい人柄の方はなかなか・・・もし私がもう10ばかり若くて彼女がコロニー人ではなく地球人でしたら、私も求婚したでしょう。」
「なんだって?」
「彼女のファンは多ございますよ。ポール・レインの様にファンクラブが出来ても不思議ではありません。ただあの方は・・・」
「クロエルの様にファンを蹴散らすタイプだな。」

 ハイネとペルラは声をたてて笑った。ボスの笑顔が消えぬ間に、ペルラ・ドーマーは挨拶した。

「では、これでお暇します。良い1日を、局長。」
「君にも良い1日を、グレゴリー。」

 ハイネのアパートを出たペルラ・ドーマーはホッと息を吐いた。もう少しで口に出してしまうところだった。セドウィック博士は局長のお嬢様でしょう? と。