2021年2月28日日曜日

ブラコフの報告     1

 こんにちは! ガブリエル・ブラコフです。

 え? そんなヤツ知らないって? ああ・・・僕がこの物語から退場してから10年近くなるからねぇ・・・忘れられたって文句言えないかな。

 それじゃ、簡単に自己紹介しよう。僕のことを覚えていて下さっている奇特な方々はちょっと我慢して下さいね。

 僕はガブリエル・ブラコフ、遺伝子学者です。大学を卒業してすぐに地球人類復活委員会に採用され、研究員として南北アメリカ大陸ドームのニコラス・ケンウッド博士の研究室に配属されたんだ。地球行きを希望したのは、テレビで春分祭を見たから。真っ白な髪を持つ美しい地球人男性に憧れて、彼の側で働きたいって思ったんだ。男が男に一目惚れした。僕は異性愛者なんだけど、彼だけは特別だった。なんて言うか、すごく心が惹かれたんだよ。

 ケンウッド博士の研究室に入ったのは、僕の専門がケンウッド先生と同じ皮膚を形成する遺伝子の研究だったからだけど、先生が白い髪のドーマー、ローガン・ハイネと友達だったのは偶然だったし、僕にとっては幸運だった。僕が地球に赴任した当初、ハイネは重い病気でずっと入院中だった。僕が彼に初めて御目通り叶ったのは、僕が地球に降り立って2年目だった。病気から回復して、アメリカ・ドームを私物化していた当時の長官サンテシマ・ルイス・リン博士が更迭されたお陰で自由の身になったハイネに紹介された時は、本当に感激で舞い上がってしまった。

 僕はその後、ケンウッド博士の研究室で助手から執政官に昇進して、地球勤務7年目には、なんと!副長官に就任してしまったんだ。僕のような若輩者がそんな重責の地位に就いて良いものなのか、自問自答を繰り返す毎日だったけど、すぐに忙しさのお陰で迷うことを忘れてしまった。僕は楽天家なんだ。兎に角、必死で長官になったケンウッド先生を助けようと頑張ったよ。それに憧れのローガン・ハイネ遺伝子管理局長も僕を支えてくれたしね。

できればずっと地球でケンウッド先生やハイネ局長と地球人の女性誕生を目標に研究を続けたかった。

 だけど、皆さんがご存知のように、僕はテロ事件に巻き込まれ、大怪我を負ってしまった。ハイネ局長の機転で命を救われ、ケンウッド先生とヤマザキ先生の懸命の治療で元どおりの健康を取り戻せて、僕の人生観はちょっと変化した。僕は僕同様にテロの被害を受けて心身に深い傷を負った人々の支えになりたいと思うようになったんだ。

 それで、僕は地球人類復活委員会を退職した。ドームの人々と別れるのは本当に辛かった。裏切るような気分にもなって、落ち込んだこともあった。だけど、ハイネは僕を引きとめなかったんだ。ドーマーだから・・・コロニー人はいつか宇宙に去って行く、だから地球人は引きとめない。僕は、研究を中断して地球を去って行く僕に彼が腹を立てていることを感じていた。でも彼はそれを表に出さなかった。ドームを去る時、僕は彼に一言、「ごめん」と言った。彼は黙って僕をハグしてくれて、そして離れて行った。

 宇宙に戻った僕は火星第1コロニーの病院で介護士として働くつもりだった。だけど実際に働けたのは最初の二ヶ月だけだった。実は僕は前歴を隠して採用されたんだけど、それがバレちゃったんだ。病院としては、地球勤務歴がある医師免許を持つ人間を介護士として働かせるのは勿体無いと考えたんだよ。僕は、結局火傷で苦しむ患者を救う方に廻された。

ああ、テロで苦しむ被害者を助けるって言う目標には変わりなかったけどね。僕は皮膚組織にダメージを受けた患者を治療し、機能回復のリハビリメニューを考える仕事を、現在しているって訳さ。

 ケンウッド先生が火星に帰省される時は、必ず会いに行って、一緒に食事をするんだ。先生は僕が介護士になり損ねて医者になったことを、「結局そうなったか」と笑っていた。副長官にまで昇った学者が、医学会で無名である筈がないだろうと。

 そして、僕が去った後のドームのその後を話してくれる。

知りたい?