2017年4月1日土曜日

奮闘 7

「おい!」

 ダリルが運転手に声を掛けた。運転席と客席の間はアクリル壁で仕切られている。声はマイクをオープンにしなければ運転手には聞こえない。ジェリーがチラリとミラーに映った運転手の顔を見て、ダリルを殴りつけた。仰け反ったダリルの上にのしかかり、小声で囁いた。

「暫く気絶していろ。」

 数回殴るふりをしてから、体を起こし、マイクを開いた。

「ジェシー、来るのが遅いじゃないか!」

 運転手が応えた。

「墓地なんかで名乗れるかよ。人だらけだったじゃないか。」
「だが、ちゃんと来ていただろ?」
「おまえが本当に来るのか確かめに行っただけさ。」

 ジェリーがダリルのホルスターから銃を取り出した。

「これから何処へ行くつもりだ?」
「取り敢えず、店だ。そのドーマーを何とかしなきゃな。」
「こいつは上玉だが、ドーマーはやばい商品だ。うっかり店に出すとすぐに足が付くぞ。」
「わかってるって・・・それより・・・」

 ジェシー・ガーがミラーの中のジェリーをちらりと見た。

「その物騒な物を仕舞えよ。」
「これか?」

 ジェリーが銃口をアクリル壁越しにジェシーに向けた。

「遺伝子管理局の銃は殺傷能力はないんだ。おまえ、ニコライ・グリソムって知ってるか?」
「ああ、FOKの若造だろう? 遺伝子管理局に捕まったって言う・・・だからぁ、銃口をこっちへ向けるなって!」
「こいつは安全なんだ。グリソムが逮捕された時、遺伝子管理局のドーマーはこの銃をぶっ放したんだが、鏡で乱反射して大騒ぎになったそうだぜ。だが誰も死ななかった。」
「そいつは良かった。シェイが怪我でもしたら可哀想だしな。」

 ダリルはジェリーの呼吸が一瞬変化したことに気が付いた。ジェリーが声のトーンを落とした。

「グリソムが逮捕された現場にシェイが居たって、どうしておまえが知っているんだ? シェイの存在は公表されていなかったぞ。」

 ジェリーが気が付いた事実に、ダリルも気が付いた。ラムゼイ博士のジェネシス、シェイは第1運転手のネルソンと2人で廃村に隠れていた。博士はセント・アイブス・カレッジ・タウンに身を隠す前に2人を直接廃村に向かわせた。用心深い博士は2人の存在をセント・アイブスのトーラス野生動物保護団体には教えていなかった。2人がニコライ・グリソムに発見されたのは、生活手段としてシェイが廃村を通りかかる運送業者達に食べ物を売ったからだ。女性の存在自体が珍しいこの時代に、廃村で料理を作って売っている女がいる、とトラック運転手の間で話題になったのだ。
 だが、その女が天才メーカー、ラムゼイ博士のジェネシスであると、何故グリソムは知ったのか?
 その答えが、目の前で運転をしている男だった。

「ジェシー、おまえ、博士とシェイを売ったな!」

 ジェリーの声に強烈な憎悪を感じ取ったダリルは目を開いた。ジェリーの指が銃の引き金を引くのが目に入った。

「止せ!」