2017年3月31日金曜日

奮闘 6

 ダリルはホテルのベッドの上に足を投げ出して座り、端末でポール・レイン・ドーマーの電波を受信していた。ポールはLA支局にいる。ジョン・ケリー・ドーマーも第3チームのメンバー全員も一緒だから、反省会か作戦会議でも開いているのだろう。
 局長室から出て以来、ポールはダリルに一言も口を利いてくれなかった。ダリルは正直寂しい。再び坊主頭になるはめになったのはダリルの朝寝坊のせいだ、と文句を言ってくれても良かったのに。
 バスルームからジェリー・パーカーが出て来た。シャワーを浴びてパンツだけの姿で、肩にタオルを引っかけていた。

「おまえの番だぜ。」
「私は君が寝てからにする。」
「おまえが風呂に入っている間に俺が逃げるとでも思っているのか?」
「君ならやりかねない。」
「信用がないな。」

 ジェリーは拗ねたふりをしながら服を着た。スーツではなくラフなシャツとジーンズだ。着替え等の荷物は支局が空港からホテルへ届けてくれていた。ダリルもスーツを脱いで楽な服装に着替えていた。但し麻痺光線銃は装備している。
 ジェリーの身支度が終わるのを確認して、ダリルは隣室のアキ・サルバトーレ・ドーマーに連絡を入れた。廊下で彼と落ち合い、夕食を取るために階下へ降りた。アキも私服だ。着慣れないスーツを脱いでホッとしているのが動作に表れており、微笑ましかった。
 ジェリーはローズタウンの街は初めてだったので、ホテルの従業員にお勧めの店を聞いて、そこへ行った。ジェシー・ガーが待ち伏せしそうにない上品な北欧料理の店で、スーツの方が良かったかなとダリルはちょっと後悔したが、店側は一向に気にしなかった。
寧ろ遺伝子管理局のIDをアキが提示したので、奥の上席に案内された。

「そんな物を見せびらかすんじゃないぞ。」

とジェリーがアキに注意した。

「メーカーに見られたら、何されるかわからん。」

 メーカーが言うのだから、間違いないだろう。
 アキはドームの威光がどの程度のものか知りたかったので、悪戯を注意された子供みたいにちょっと小さくなって見せたが、料理が運ばれて来る頃にはもうけろりとしていた。
サーモンや鹿肉の料理を堪能して、ジェリーはワインも楽しんだ。アキは先祖のアメリカ先住民が白人がもたらしたアルコールで堕落したと言う言い伝えを思い出し、葡萄ジュースを飲んだ。ダリルが同じ物を注文すると、案外お酒の様な味わいで満足出来る品だった。
 ディナーにすっかり満足した男達はレストランから出るとタクシーを拾った。ホテルの名を告げ、車が走り出すとダリルは眠気を覚えた。しかしホテルまでは10分足らずだ。彼は眠気覚ましにジェリーに話しかけた。

「執政官達とは上手くつきあえているのか、ジェリー?」
「同じ研究をしている連中とは、なんとかな。」

 ジェリーが意味深に笑った。

「彼等は俺の知識と技術を認めてくれている。実際に目の前で一緒に仕事をしているから、わかるんだろう。
 だが、他のコロニー人達は俺を腫れ物に触るような扱いだ。まぁ、俺は囚人だから、無理もないがね。」
「ドーマーも君を囚人扱いしているのだろうか?」
「さて・・・中央研究所にドーマーは多くないからな・・・所内の連中は皆良いヤツらさ。地球人同士と言う範疇で見てくれるからな。一般の連中とはあまりつきあわないから、俺の口からは何とも言えない。」

 するとアキが口をはさんだ。

「僕等保安課はジェリーを『外から来た男』と呼んでいるんです。囚人としてではなく、ドームのことに関して初心者と言う扱いですね。僕が彼を監視するのは、彼がトラブルを起こさないように見張っているのではなく、彼がトラブルに巻き込まれないように注意して見ているのです。」

 アキはゴメス少佐がジェリー・パーカーのことを「古代人は人類の財産だから」と監視して見守るようにと命じたことを黙っていた。
 ホテルの前でタクシーが停車した。慣例でアキが最初に降りた。車外の安全確認をして・・・
 突然タクシーのドアが閉まり、車が急発進した。