2018年7月3日火曜日

待機者 6 - 2

 シンディ・ランバート博士はアイダ・サヤカが留守の間はずっと彼女の帰りを切望していた。しかし本人が戻ってくると安心したのか、もう一日任せてくれと言う。アイダの留守の間気を張って彼女こそ疲れているだろうとケンウッドは思ったが、ランバートは彼女自身のケジメで仕事を仕上げたいのだと悟った。きちんと報告書をまとめて、万全の態勢で区長に役目を返還したい、それが彼女の考えだ。そしてアイダ・サヤカも部下を信頼していたし、その気持ちを表す為に、もう1日だけのんびりさせてもらうことにした。ここで慌てて執務室を触って部下の気分を害したくなかったし、ランバートは彼女が嫌がるような変化は何も起こしていなかった。師匠に教わった通りに任務を果たし、師匠が喜ぶだろうなと予想出来る行動をしていた。
 ケンウッドとゴーンはアイダを昼食に誘ったが、彼女は既に機内で軽食を食べていたので、丁重な断りの言葉が返って来た。それでケンウッドは、ヤマザキとハイネも交えて夕食を一緒にどうかと改めて誘い、出産管理区長はそれで了承した。ゴーンがそっとアイダに囁いた。

「ドーマー達も貴女がいないので寂しがっていたのよ。もし貴女が1人で食堂に行ったりしたら、大勢集まって食事どころじゃなくなるわ。」
「まさか・・・」

 アイダは苦笑した。

「口うるさいオバさんがいなくてホッとしていた筈よ。でも火星の話題を聞きたがるわよね、きっと。」

 重力休暇に入っていた執政官が宇宙から戻ると、ドーマー達は興味津々で情報を集めにやって来るのだ。彼等自身が直接宇宙の情報を得ることが出来ないので、執政官の口から聞きたがる。アイダの長期不在の理由を多くのドーマー達は知らない。だから彼女が旅行に出かけていたと思う若い連中は多いのだ。
 ケンウッドは彼女が夫の様子を知りたいだろうに何も言わないのを気の毒に感じた。周囲には人が多過ぎて、プライベートな話題は避けねばならなかった。だから、彼はこれだけ言った。

「そろそろ局長は庭園で昼寝でもするかな・・・」