2018年7月3日火曜日

待機者 6 - 3

 アイダ・サヤカ博士が医療区へと続く通路に姿を消して直にケンウッドは重大なことを思い出した。昨日から何となく忘れ物をしている気分になっていたのだが、それが何か思い出せなかった。それが突然具体的に頭の中に現れた。彼はラナ・ゴーンを振り返った。

「ゴーン博士、輸送手段が止まっている間の取り替え子の対策を・・・」

 ゴーンは彼に最後迄言わせなかった。

「大丈夫ですよ、長官。外にいたドーマー達に引き上げ命令が出された時に、遺伝子管理局に取り替え子の予備ファミリーをリストアップさせました。」

 予備ファミリーとは、取り替え子のタイミングが計画通りに行かなかった時に、別の家族の子供としてクローンの女の子を与える為の、遺伝子的に近い両親のことだ。一日に取り替えられる女の子の数は多く、ドーマーとして育てる訳にいかない。遺伝子管理局はクローンの女性とクローン女性が産んだ男性が近親婚をするのを防ぐ目的で活動している。それが遺伝子管理の本来の目的なのだから、当然取り替え子になるクローンの女の子の遺伝子的親族を把握している。計画通りに段取りが進まなければ、遺伝子管理局が近親者で出産が近い夫婦を探し出し、クローン製造部がその出産予定日に合わせてクローンの成長を遅らせる。
 副長官はクローン製造部の責任者だ。ケンウッドは肩の力を抜いた。

「助かったよ、ゴーン博士。私は視察団の世話でいっぱいいっぱいだった。君も視察団のもてなしの責任者だったのに、そこまで考えてくれていたのだね。」
「私の本来の持ち場ですから、当然のことをしただけですわ。それにしても、私が要求を出した3時間後にハイネ局長が報告書を上げて来たのには驚きました。」
「内勤のドーマー達が総動員で検索してくれたのだろう。彼等の本来の仕事だからね、要領はわかっているのさ。」

 と言いつつも、ケンウッドは我が子が褒められた気分で嬉しかった。