2019年8月15日木曜日

家路 2 4 - 5

 ハイネと食堂での再会を約束して、ケンウッドは長官執務室に入った。そこで秘書達から留守中のドームの様子を聞き、署名が必要な緊急事案に署名して、ラナ・ゴーン副長官を部屋に呼んだ。ゴーンが来ると、彼女が代行していた長官業務の引き継ぎをしてから出張の内容を報告した。アフリカ・ドームから純血維持主義撤廃案が出されたことを告げると、ゴーンの目に涙が光った。

「もしその事案が通れば、私はクロエルにお見合いを強いる必要がなくなるのですね?」
「うん。きっと通ると思うよ。」

 ケンウッドは本部の委員達が時代の流れを読み取って現実を受け入れる人々であることを信じたかった。卵子提供者を探して苦労しているのは、宇宙にいる委員達なのだから。
 ゴーンの目から涙がポロリと落ちた。

「良かった・・・これで私は本当に彼の母親になれる気がします。」

 ケンウッドはハンカチを差し出した。

「クロエルは貴女を母親だと認めていますよ、ゴーン博士。貴女を悲しませまいといつも努力しているじゃないですか。」
「あの子にそんな気を遣わせるようでは、駄目です。」

 ゴーンは素直にハンカチを受け取り、目を抑えた。

「もっと我儘を言って欲しいのです。甘えて欲しい・・・ええ、あの子はもう立派な大人です。親に甘える年齢ではありません。大勢の部下を指揮する立場にいる男です。でも、やっぱり息子として甘えて欲しいのです。」

 彼女は顔を上げてケンウッドを見た。

「宇宙にいる娘達は、彼と実際に会ったことはありません。でも映像で見ているし、地球人の弟のことをとても気に入っています。私が月に帰る度に言うのです、クロエルにコロニーのルールを押し付けては駄目よ、と。法律を曲げてまでして養子にした以上、彼を幸福にしなければ駄目だって・・・」

 ケンウッドは大きく頷いた。

「私達は生みの親から預かった子供達に幸せになって欲しい。その為には、矛盾を抱える法律を私達で変えて行かなければならないね。」

 そして彼女にウィンクして見せた。

「地球人保護法の撤廃、もしくは改正も提案されているだろう? 恋愛も自由に出来る権利を認めないとね。」

 ゴーンが頬を赤らめた。