2019年8月15日木曜日

家路 2 4 - 6

 夕食の後、ケンウッドはハイネと共に医療区のヤマザキ・ケンタロウを見舞った。ヤマザキは血色良く、食事も普通に食べて、病室内を退屈そうに歩き回っていた。ケンウッドが入室すると、顔を見るなり照れ笑いした。

「いやぁ、入院って言うもんが、こんなに退屈だとは、経験してみないとわからんもんだなぁ!」

 ケンウッドはハイネと思わず顔を見合わせた。ハイネが言った。

「これで入院患者の扱いが以前よりマシになると良いのですが・・・」
「おいおい、僕が患者を虐待していたみたいな言い方じゃないか。」

 ヤマザキがむくれて見せたので、ケンウッドとハイネは笑った。 取り敢えずヤマザキをベッドに座らせて、彼等も椅子に座った。

「元気で良かったよ。ハイネから君が入院したと聞かされた時は、どんな重病かと心配したがね。」

 ケンウッドが笑って言うと、ヤマザキは

「くたばって欲しかったんじゃないか?」

とからかった。ハイネがちょっとムッとした表情を作って見せた。

「私より若いのに、くたばってもらっては困ります。貴方がいなくなったら、誰が私の肺の面倒を見るんです?」

 ヤマザキがはっはっはっと笑った。

「やっと僕の重要性を認めたな、この爺さんは!」

 ハイネが肩を竦めてケンウッドを見た。ケンウッドは笑うしかなかった。

「私達は、新たな道を進み始めたところだ。ケンタロウもハイネも私も、まだくたばるわけに行かないよ。まぁ、そうだね・・・ケンタロウは暫く水泳を控えてもらおうか。」
「ええ? 水泳は僕の健全な趣味の一つだぞ。」
「ケンタロウ。」

とハイネが窘めた。

「長官の忠告はちゃんと聞きなさいよ。」
「そうだ、足がつる心配がなくなる迄、陸上でトレーニングしてるんだね。」

 がっくり肩を落とすヤマザキの背をケンウッドは手で軽く叩いて励ました。そしてハイネを見ると、老ドーマーは優しい眼差しで彼とヤマザキを見ていた。ケンウッドはふと気が付いた。ヤマザキがプールで溺れかけたのを救助したのはハイネではないのか、と。ヤマザキはハイネが泳ぐと、いつも彼の肺を心配して様子を見に行く。きっと昨夜もそうしたのだ。そして自分もハイネについて泳いでいて、足をつったのだ。

 2人が一緒にいて良かった・・・

 ケンウッドはハイネにも言った。

「ケンタロウが泳いでも平気になる迄、君も水泳をちょっとだけ控えてやってくれないか? さもないと、ケンタロウがまたプールに入るだろうから。」
「了解です。」

 ハイネは答えて、可笑しそうに笑った。 それで、ケンウッドの想像が正解だったことがわかった。