2019年8月20日火曜日

家路 2 4 - 7

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーとポール・レイン・ドーマーが帰還したのは翌日の昼だった。レインから局長に報告したいと電話を受けたネピア・ドーマーはいつもの如く不機嫌そうな声で、

「私用での外出であるから、局長のオフの時間に局長ご自身に都合をお聞きしなさい。」

と突き放した言い方をした。本当は局長に接する部下の行動全てを掴んでおきたいのだが、ハイネからそうしろと言われていたので、仕方がない。セイヤーズは完全に私用だが、レインはセイヤーズの監視だから業務ではないか、とネピアは思ったのだ。だがハイネはレインとセイヤーズの息子と、レインの取り替え子の妹との話し合いだから、私用だと言った。

「部下の私用の報告に、君の貴重な業務時間を割く必要はないだろう?」

とハイネから言われると、ネピアは言い返せなかった。局長の業務を記録するのが第1秘書の仕事の一つだから、レインの報告を正規の業務と見なせば、ネピアの業務が増えるのだ。
 レインはそんな局長執務室内の上司達のやりとりを知らずに、局長の昼休みと思しき時間にもう一度局長本人の私用番号に電話をかけて、面会の時間と場所の約束を取りつけた。電話から1時間後に、彼等は指定された図書館の談話室に入った。
 談話室は10人程度の人がディスカッション出来る広さで、グループ学習の為の部屋だ。そこにハイネとケンウッド長官が座っていたので、レインは少し緊張を覚えた。しかも、どう言う訳か、医療区長のヤマザキ・ケンタロウまでいた。それで、レインはやっと、これがお昼休みの「雑談」だと合点した。
 2人の若いドーマーが入室すると、ちょうどローガン・ハイネが飲み物のサーバーのところで執政官達の飲み物を作っていた。図書館は原則飲食を禁じられているが、ロビーと談話室は飲み物を自分でサーバーから取ることが出来るし、好みの調合も出来る。ヤマザキがドーマー達を見て微笑んだ。

「ヤァ、お帰り。西部は乾燥していただろう? 何か飲むかい?」

 レインが数秒間躊躇った隙に、能天気なセイヤーズがサーバーの側に行った。

「私が入れましょうか、局長?」
「お構いなく。」

とハイネ。ケンウッドが言った。

「ハイネは腕の良いバーテンダーなんだよ、セイヤーズ。」
「そうなんですか?」

 セイヤーズが驚いて上司達を見比べた。ヤマザキがハイネに声を掛けた。

「そうだ、ハイネ、ドームが解散した暁には、君はバーテンダーになれば良いぞ。店の開店資金ぐらいなら、僕が出資してやる。」
「止せ止せ、ケンタロウ。ハイネがバーテンダーになったら味見ばかりしていつ客に酒が出せるか、わからんぞ。」

 ケンウッドの言葉に、レモンジュースに炭酸水を加えていたハイネが吹き出しそうになった。