2017年6月8日木曜日

Break 2

 登場人物紹介 1

ダリル・セイヤーズ・ドーマー

この物語の主人公。男性。
遺伝子管理局北米南部班チーフ付秘書。 
年齢は40歳から42歳の間。
髪の色は赤みがかった淡いブロンド。目の色は原作でもブログでも言及されていない。
(ポールの目が水色なので、ダリルは緑にしておこうか・・・)
身長は推定175cm。体重不明。見た目は華奢だが、筋力・腕力共にしっかりあるので、筋肉はかなり発達していると思われる。
性格は明朗。周囲から脳天気と言われる。普段はぼーっとしているので、驚かされると速攻で相手を殴りつけてしまう悪癖あり。
進化型1級遺伝子を持っており、機械類は見ただけで仕組みを理解し、使い方がわかる。当人には当たり前のことなので、他人との違いがわからず、コンピュータなどの使用の際は越えてはならない一線を難なくクリアしてしまい、周囲から脅威と見なされる。
手先が器用で、自分で料理、裁縫、住宅の建築もやってしまう。ただし、これらのアナログな作業は、学習しなければわからないので、進化型の遺伝子とは関係ない。
スポーツは万能だが、射撃はド下手。
一つのことに凝り出すと納得出来るまで続けるので、料理などの場合、彼の性格を熟知しているポールとライサンダーは褒めるが、絶対にけなさない。
ポール・レイン・ドーマーのことを心から愛しており、ライサンダーに対しては母親の様に優しい父親である。
農業が好きだが、ミミズや昆虫は苦手。
好きな食べ物は卵料理。


ポール・レイン・ドーマー

ダリルより1日早く生まれたダリルの恋人。
遺伝子管理局北米南部班チーフ。
髪は宇宙飛行士用に開発された遺伝子による葉緑体を持つ緑色に輝く黒髪だが、諸事情によりスキンヘッドにしている。(当人もすっかりこっちが気に入っている。)
目の色は薄い水色。(怒るとさらに白っぽくなる。)
身長は推定180cm。体重は恐らくダリルよりは重い? 脱ぐとギリシア彫刻みたいな綺麗な筋肉美をしている。
類い希なる美貌の持ち主で子供時代は「お姫様」とからかわれたり、コロニー人達に玩具扱いされるが、性格は硬派。滅多に声を出して笑わず、あまり冗談が通じない。しかし、息子のライサンダーやGFのJJにはメロメロになる。
口下手で自分の考えを遠回しに言う癖があったり、普段は無愛想なのに嫌いな相手にも平等に接するので、しばしば誤解されることがある。
また、物事を自分の都合の良い方に解釈をして解説する癖もある。
接触テレパスの能力を持っており、手で触れるだけで相手の思考を読み取ることが出来るが、マナーを守るよう躾けられているので仕事でしか使わない。ただ疲労している時や体調が悪いと制御が利かなくなって他人の思考を自分の意思に関係なく読み取ってしまうことがある。
GFのJJがいるが、誰よりもダリルを深く愛しており、人前でもはばからず「俺の可愛いダリル」と呼ぶ。
プライドが高い男だが、雑菌やウィルスは恐い。
お茶が趣味で東西種類を問わず収集、飲んで楽しんでいる。甘い物も好き。
ダリルの卵好きは、ちょっと敬遠・・・。


ライサンダー・セイヤーズ

天才遺伝子学者ラムゼイ博士によってダリルのX染色体とポールのY染色体、それにシェイの卵子殻から製造されたクローン。
ポールに似た水色の目と葉緑体毛髪の黒髪、ダリルに似た体型を持つ。(あまり大柄ではなさそう)
身体治癒能力が高く怪我の治りが早いが、それ以外は全く普通の地球人と変わらない。
ダリルに似て手先は器用だが、機械の扱い方は普通の人と同じで学習しなければわからないので、進化型1級遺伝子は受け継がなかったと判定されている。
登場した頃は生意気な少年だったが、結婚を機に真面目な社会人になろうと務めている。
ダリルのことは大好きで時に可愛いとさえ思うほど。
ポールに対しては最初は反抗していたが、ドームに保護されてから父親として尊敬し始めている。食べ物の趣味もポールと同じ。ちなみに、ダリルを呼ぶ時は「父さん」、ポールは「お父さん」である。
ニコラス・ケンウッド長官とローガン・ハイネ遺伝子管理局長を尊敬している。


JJ・ベーリング

遺伝子組み換えで誕生した4倍体染色体を持つ少女。JJはジュマ・ジェレマイアの略(原作でラムゼイが呼びかけている。)
容姿の描写はどこにもない。
両親は違法メーカーで、ラムゼイの組織との勢力争いに敗れて死亡した。
1人で砂漠にいるところをダリルに発見され保護された。以後、ダリルに懐いて「ダリル父さん」と呼ぶ。ライサンダーとは兄妹の様な仲で、恋人ではない。
生まれつき声帯がないので音声で話しが出来ない。意思疎通には手話か指文字、筆談、脳波翻訳機などを状況に応じて使い分ける。
ポールとは道具を用いずに心で話しかけることが出来るので、彼に恋することになった。
現在は彼のGFの位置にいるが、ポールが上司の許可がなければそれ以上に進めないので、ベッドでいちゃつく程度までの仲。
親の敵としてラムゼイを憎んでいたが、ラムゼイの部下だったジェリー・パーカーとシェイには友情を感じている。また、コロニー人の遺伝子学者メイ・カーティスとは親友。
明朗で竹を割った様な性格。勇敢で度胸もある。体力もあるので、ライサンダーと格闘技で遊べるほど。
遺伝子の塩基配列を肉眼で見ると言う特殊能力があり、彼女の見ているものを分析したケンウッドが地球に女性が誕生しない原因を遂に発見した。






2017年6月7日水曜日

Break 1

 「ドーマーズ」の原作「4X」はダリルが逮捕後初めて山の家に帰るところで終わっている。
 だから、「ドーマーズ」も一旦ここで一区切り付けようと思う。と言っても、完全に終了する訳ではないので、これからもブログと言う場所の利点を活かしてだらだら書いていくつもりだ。

 「4X」は当初JJを主人公にするつもりだった。しかし、彼女を登場させたものの、話が広がらない。「4X」のJJは殆どスーパーガールで人間離れしてしまい、却って面白味がなかったのだ。むしろ脇役のつもりで一番最初に登場させたダリルの運命の方がずっと面白かったので、結局彼が主人公になった。だもんで、タイトルのJJの染色体を示す「4X」の意味が失われ、ブログでは第1章の副題になった。そして登場する個性的なドーマー達がどれも愉快だったので、ブログのタイトルを「ドーマーズ」にした。
 ブログは原作を写すだけのつもりだったが、転写していると物語の矛盾とかいろいろ手直しが必要な部分が出て来た。直していると、ストーリーがどんどん変わっていく・・・。
 まず、ジェリー・パーカーの登場が早くなった。「4X」ではトラックでの移動辺りから秘書の名前として出てくるのだが、「ドーマーズ」ではJJの捜索で砂漠の廃墟に来たダリルがラムゼイ一味と遭遇する場面で登場する。これによって、彼はこの物語で重要なポストを得てしまい、この後登場回数が増えたのみならず、執政官と恋愛までする。
 次に、クロエル・ドーマーのキャラが「4X」と「ドーマーズ」では全く異なる。別人になってしまった。「4X」では彼はポール・レイン・ドーマーのただの部下で、エジプト系の若者だった。しかもダリルに片恋する。活躍場面は少ないし、真面目で面白くない人物だった。しかし、「ドーマーズ」ではもしかすると主人公よりインパクトが強くなりそうな個性を持たせ、なおかつ南米のインカ辺りの先住民とアフリカ系と思われる違法出生児の間に生まれた「望まれぬ子供」だったと言う設定だ。そして役職はポールと同格である。
 ポールの部下達も名前が付いた者が増えた。「4X」ではクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーとパトリック・タン・ドーマーの2人だけだったと思うが、ケリーやルーカスや他にもいたと思う・・・(既に忘れている作者)
 遺伝子管理局以外のドーマー達も次々と登場して、原作より遙かに活躍している。
実は彼等のことを書くのが楽しくて、そのうちスピンオフでも書こうかと思っているほどだ。(書かないかも知れない。)ちなみに、作者のお気に入りは静音ヘリのパイロット、マイケル・ゴールドスミス・ドーマーである。このキャラは「4X」には登場しなかったのだ。
 ローガン・ハイネ・ドーマーもかなり個性的になった。「4X」ではただの上司であまり台詞もないし登場場面も少なかったのだが、「ドーマーズ」ではポールを凌ぐ人気者と言う設定だ。クールでハンサムな100歳を越えてなお若さを保つおじ様なのだが、半熟とろとろチーズスフレには目がないと言う可愛らしさも併せ持つ。さらに孤独なジェリー・パーカーと壁ベッドの秘密を共有するお友達にもなってしまうのだ。
 コロニー人達も個性豊かになった。アナトリー・ギルのポールに対する偏愛は相変わらずだが、ケンウッド長官もラナ・ゴーン副長官もそれぞれ個を確立させた。名前はまだ与えていないが、医療区長や出産管理区長など、ゴメス少佐に負けず劣らず登場回数を増やしてあげようと思う。
 ドーマー達はこれからも賑やかに活躍してくれるだろう。

2017年6月5日月曜日

家路 14

 翌朝、ダリルは固形燃料のストーブで目玉焼きとベーコン、コーンブレッドを焼いて珈琲を淹れた。昨晩のメニューと大して変わらなかったが、誰も文句は言わなかった。
フランシス・フラネリーは午後にやって来る予定だ。買い取りと同居の話をして、倉庫番の仕事があるライサンダーは彼女と共に夜ポートランドへ帰る。ダリルとゴールドスミス・ドーマーは支局に戻ってホテルで1泊してからドームに戻るつもりだった。
 取り敢えず、昼食と掃除の必需品を調達する為に、ゴールドスミスとライサンダーが町へ買い物に行くことになった。
 ダリルがリストを書き出していると、ゴールドスミス・ドーマーが尋ねた。

「叔母さんはここをもう買い取ったのかい?」
「否、買い取ったのは彼女の従妹だ。ニューポートランドの事件の後で、従妹のドッティ夫人がライサンダーの家と、この家と地所を買ってくれたのだが、後でこの土地が州のものだと判明したので、土地の買い取りは白紙に戻った。ドッティ夫人はライサンダーの叔母・・・面倒だから本名を明かすが、ミズ・フラネリーと言う・・・」
「フラネリー?」

 ゴールドスミス・ドーマーはポール・レイン・ドーマーとハロルド・フラネリー大統領にまつわる噂を知っていた。

「ああ、やっぱりレインはフラネリー家の子供だったんだな!」
「そう言うこと。でもあまり口外しないでくれ。取り替え子の件があるから。」
「わかってるって。ドーマーが誰の子供なんて、僕等には関係ないから。」
「話を戻すと、ミズ・フラネリーは現在パリに住んでいるが近日中に母国に引っ越して来る。それで住む場所を探していたので、ドッティ夫人がこの場所を提案したら、すぐ飛びついたそうだ。ミズ・フラネリーは食糧事情の悪い国に援助する活動に参加していて、このモントレーの土地は農耕の実験に丁度良いと思ったらしい。」
「それで、こんな辺鄙な場所を買ってくれる訳か。」
「ライサンダーの子供の世話もしてくれるそうだし、ライサンダーがこの土地のことを知っているので一緒に畑を耕して生活する計画だ。」
「じゃぁ、後は州政府から土地を安く買い叩くだけだな。」

 ドーマーのゴールドスミスはフランシスが金持ちであることも警護が付くこともあまり気にならない様だ。

 そうさ、ドーマーは世間とはずれているんだ。

 買い物リストを書き終えてパイロットに手渡した時、ライサンダーが家の外で叫んだ。

「父さん、誰か来るよ!」

 ダリルとゴールドスミス・ドーマーは戸口に行った。フランシスが来るのは昼頃だし、警護の都合上、彼女もヘリを利用するはずだ。だが、彼等の目に入ったのは土埃をまき揚げながら山道を登ってくる1台の黒塗りの乗用車だった。

「あれは遺伝子管理局の車じゃないかい?」

 ゴールドスミス・ドーマーが額に手を当てて山道を眺めた。ダリルも目を凝らして見た。確かに支局の車だ。

「この時刻にここへ来るなんて、かなり朝早く支局を出たんだな。」
「誰か来ると連絡があったか?」
「ない。」

 家に近づいて来た黒い車は埃だらけになっていた。眺めている3人の男の前に停車すると、ドアが開いてスーツ姿の男が降り立った。スキンヘッドに黒いサングラスで、いかにも悪そうに見えた。
 ゴールドスミス・ドーマーが笑って声を掛けた。

「ここまで地上を這って来るなんて酔狂だな、チーフ・レイン!」
「俺は中西部支局のヘリには絶対に乗らないんだ。乗るのは本部の人間が操縦桿を握る時だけだ。」

 ポール・レイン・ドーマーは不機嫌そうな声で言い返したが、それは埃のせいだった。
ゴールドスミスがライサンダーに声を掛けた。

「それでは、僕等は買い物に行こうか。」
「うん。」
「さっさと家の中に入りな、レイン。また埃まみれになるぞ。」

 静音ヘリのパイロットの脅しが利いた。ポールは急いでダリルが立っている家の入り口に歩いて来た。ダリルが微笑んで迎えた。

「おはよう、ポール。随分早い到着だな。」
「夕べLAから飛んで来たんだ。2時間しか寝ていない。昼飯まで寝かせてくれ。」

 そう言いつつ、ポールの手はダリルの腕をしっかり掴んでいた。
 ダリルは外を見た。静音ヘリのプロペラが廻転を始めていた。

「まだ私の寝室は掃除をしていないんだ。」
「夕べは何処で寝たんだ?」
「居間の床の上・・・」
「そこで良い。」

 ポールはダリルを室内に押し込み、ドアを閉じた。






2017年6月4日日曜日

家路 13

 野宿も覚悟でダリルとゴールドスミス・ドーマーはテントをヘリに積み込んで来たが、居間を掃除するとなんとか寝袋さえあれば充分眠れそうだ。ライサンダーは自分の寝室を掃除して、キャンプに慣れていないゴールドスミスの為にベッドを使用出来るようにした。
 キッチンも掃除して、固形燃料と裏の水場で洗った鍋を使ってダリルが簡単な夕食を準備した。焼いたベーコンとオムレツ、それに町で仕入れたコーンブレッド、珈琲だ。野菜の代わりに西瓜もあった。ゴールドスミスはすっかりキャンプ気分だ。航空班は成人して直ぐにドーム外で生活を始めるので、ポールの様に雑菌がどうのとか衛生状態にこだわったりしない。素朴な食事を美味い美味いと食べてくれた。

「キャンプファイヤーとかしないの?」
「それは今日は駄目だ。日が沈んだら風が出て来た。火事を出したくないからね。」

 キャンプファイヤーでマシュマロを焼きたかったな、とがっかりしたふりをしつつも、ゴールドスミスは山の向こうに沈む夕日を楽しんだ。

「明日は本格的に掃除するんだろ?」
「うん。でも君にさせるのは悪いな。」

 ドーマーは基本的に家事をしない。掃除はロボットの仕事だ。しかし、パイロットはすっかり「原始的な」体験に酔っていた。やるよ、と嬉しそうに言った。

「ここはライサンダーとチビちゃんが住むんだな? 」
「うん。それと叔母さんも一緒なんだ。」
「叔母さん?」
「レイン親父の取り替え子。世間には双子ってことにしてあるらしいんだ。」

 ゴールドスミス・ドーマーがダリルを振り返ったので、ダリルは素直に認めた。

「レインの実家は取り替え子の事実を知っているんだ。レインの父親も元ドーマーだったんだよ。」
「へぇええええっ! 親子2代のドーマーなんだ?!」
「珍しいだろ? 叔母さんは独り暮らしだったんだけど、赤ん坊の世話をしたいって言ってくれたんだ。」

 ダリルは息子を見た。いつの間にかライサンダーの決心はついた様だ。もう同居を前提に喋っている。

「それじゃ、ライサンダー、君はここに住んで弁護士をやるのかい?」
「まだ資格を取れる状態じゃないからね、勉強しながら畑を耕す。その間に資格を取れたらそれをどう活かすか、じっくり考えるよ。」

 ゴールドスミス・ドーマーはダリルを見た。

「君はどうするんだ? ドームは君の外出を許さないだろ? 赤ん坊がドームから出たらライサンダーとはそれっきりになるんだぜ?」
「そうだね。」

 ダリルは床を眺めながら言った。

「だけど、世の中には離ればなれになってそれっきりと言う親子はいくらでもいるよ。」

 ゴールドスミス・ドーマーはライサンダーに視線を戻した。こちらも床に視線を落として父親を見ないようにしていた。
 静音ヘリのパイロットは室内を見廻した。埃のせいで使用不可能になった古いテレビがあるだけで、IT機器は他に何もなさそうだ。照明は古い発電機が使えないので今夜はダリルが昔使っていたランプで我慢している。

「アナログな家だなぁ」

と彼は呟いた。

「叔母さんはここにネット環境をこしらえるのかな?」
「作るだろうな。叔母さんは仕事しなきゃいけないし、俺も勉強に必要だから。」
「IT部屋って作って、そう言う機械物は全部その部屋だけに限定したらどうだろ?」
「どう言う意味?」
「コンピュータ関連の物は全部場所を限定してしまって、ダリルはその部屋には入れないと言うルールを作るのさ。この家の現状はめっちゃアナログだ。いかに進化型1級遺伝子でも、外界と繋がっていない電化製品をいじって悪戯は出来ないよな?」

 ダリルは顔を上げてゴールドスミス・ドーマーを見た。ゴールドスミスがニヤッと笑った。

「君が18年間発見されなかったのは、外界と繋がるネット環境を持っていなかったからだろ? 居場所を特定されもせず、君の方から外のどのコンピュータにもアクセス出来なかったから、誰も君を見つけられなかった。違うかい?」
「何を言いたいんだ、マイケル?」
「実はさ、僕が今日の任務を仰せつかった時に、ハイネ局長に頼まれたことがあるんだ。モントレーの家のネット環境を調べてこいって。僕が何の目的ですか?って訊いたら、セイヤーズがコンピュータを触れない環境であることを確認したいってさ。」
「私がコンピュータを触れない環境? しかし、端末があるぞ。」
「今、端末を持っているか?」

 ダリルはポケットに手を伸ばし、端末はドームを発つ時にゴールドスミス・ドーマーに預けたことを思い出した。それが外出の条件だったのだ。

「な? 君が外出する場合は必ず誰かが監視と護衛に付く。君はその人間に端末を預ける。緊急の場合を除いて端末の使用は出来ない。アナログな環境にいる進化型1級遺伝子保有者はちっとも危険じゃない。」
「もしかして、マイケル、それって父さんはこれからも外出出来るってこと?」
「断言出来ないけど、きっとそう言う意味だよ。恐らく、ここへ君と孫に会いに来ても良いってことじゃないかな。」

 ライサンダーは父親を見た。ダリルはまだ喜ぶには時期尚早だと思ったので、ゴールドスミス・ドーマーに有り難うとだけ言った。

家路 12

 中西部支局から山の家モントレーまでは静音ヘリで向かった。乾いた灰茶色の地面に次第に植物の緑が加わり、なんとなく農耕が出来るかなと言った感じの平坦な狭い台地が見えてくると、ライサンダーが操縦席のゴールドスミスに「あそこ」と指さして着陸地点を指定した。さもなくば畑の上に着陸されてしまうからだ。
 ドームから中西部支局までは軽ジェット機で来た。遺伝子管理局北米南部班第2チームの支局巡り出張で、いつもと違ったのは、チーフ秘書のダリル・セイヤーズ・ドーマー、航空班静音ヘリ・パイロットのマイケル・ゴールドスミス・ドーマー、それにダリルの息子のライサンダーが同乗していたことだ。ゴールドスミス・ドーマーはFOKのリーダー、ニコライ・グリソムを逮捕した功績で準保安課員の資格を得ていた。その資格による任務として、ダリル・セイヤーズ・ドーマーの監視と護衛を遺伝子管理局から仰せつかったのだ。これは彼にとっては非常に幸運な任務だった。いつもは東海岸でドームと周辺支局や出張所との間を行ったり来たり日帰り飛行ばかりしていたので、初めて遠方で飛べるのだ。
 支局のヘリのパイロット達は一般人だ。遺伝子管理局としては要人であるフランシス・フラネリーや地球的重要人物である進化型1級遺伝子保有者のダリルを一般人に任せたくなかったので、ドーマーの護衛を付けた。局員を使わなかったのは、ただ局員の中にヘリの操縦免許所有者がいなかったからだ。クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーはチーフ・レインに付いて西海岸に出かけてしまっていた。ダリルは自分でも操縦出来るのだが、自分で自分の監視と護衛は出来ない。それでゴールドスミスが選ばれた。
 支局のパイロット達はゴールドスミスに機体のチェックをさせ、山の気象について説明をした。ダリルもその説明に加わった。山のことは支局の連中より熟知している。

「ようするに、岩や樹木にローターをぶつけなければ良い訳だ。」

とゴールドスミスは言った。勿論、その他の不測の事態が起こりうることは、彼は百も承知だった。
 ダリルは1年振りの我が家に戻る前に、保安官の事務所を訪ねた。違法クローン製造がばれて遺伝子管理局の追求から逃亡していると言う嘘をついていたので、その収束が必要だった。ポールからは嘘をつき通せと言われていたので、戻って来た理由も嘘をつかねばならない。良心が痛んだが、保安官にはこれらかも山の家を見張ってもらわねばならない。

「ライサンダーが成人登録して市民権を得たので、家に戻れることになったんだ。でも、私は服役しなきゃならない。息子と一緒に遠縁の女性が住むことになったので、彼等を守ってやってくれないか?」
「おやすいご用だ。服役って言ったって、遺伝子管理法違反の服役は1年か2年だろう? また戻って来るよな?」

 ダリルは曖昧に微笑んだだけだった。
 支局に戻ると、驚いたことに支局長秘書のブリトニー嬢がいて、妊娠5ヶ月の体で局員達に珈琲を振る舞っていた。相変わらず軽装と愛嬌のある笑顔で男性達をドキドキさせている。ライサンダーさえもが、彼女と笑顔で言葉を交わしていた。ゴールドスミスなどは鼻の下を伸ばしてデレデレと彼女と握手などして喜んでいた。

「結婚されたので、お仕事は引退されたのかと思いました。」

とダリルは彼女が彼に珈琲を配ってくれた時に囁きかけた。ブリトニー嬢は、(もう既婚なので「嬢」はおかしいのだが、彼女はお腹が大きくなってもその呼称が似合いそうで)、おかしそうに笑った。

「最初のうちは家の中に居たのですけど、すぐ飽きちゃって、私が不機嫌になるのが夫は嫌だったのでしょうね、彼の方から支局長に私を再雇用してくれって頼み込んだのですわ。それで、秘書は別に男の人がいるのですけど、こうして本部の人が来られた時に私がお世話することになったのです。その方が本部の方達のご機嫌が良いからって支局長が言うの。」
「貴女はこの支局のアイドルですからね。」
「貴方も本部の局員だったのですってね。隠密活動でラムゼイを探ってらしたの?」

 なんだかデマが流れていた様だが、ダリルはよくわからなかったので、これも曖昧に笑って誤魔化した。
 なんとかライサンダーがこの土地に復帰する足がかりは出来そうだ。都会生活に慣れてしまったライサンダーが、故郷の町を見て、田舎だなぁと溜息をついていたが・・・。
 ゴールドスミスは西部劇の世界に実際に足を踏み入れて感動していた。ヘリの準備が整うと、少し手慣らしと称して町の上空を2,3周飛んでみた。牛の群れを見た、とか、馬がいた、とか平素の彼らしくないはしゃぎ様なので、流石にダリルも「落ち着け」と注意したほどだ。
 そして支局に到着して半日後に彼等は山の家モントレーに到着した。静音ヘリで半時間の距離だ。
 土埃が収まるのを待ってから、2人のドーマーと1人の若者は地面に降り立った。

「わぁ、荒れ地だ!」

 開口一番、ライサンダーが我が家の感想をそう述べた。
 畑はすっかり雑草だらけの野原に変わっており、石造りの家は外観はそのままだったが、中は砂だらけだった。窓は割れていて、獣が入り込んだ形跡もあった。
 ダリルはゴールドスミスに居間の掃除を済ませるまでヘリの中で待機するよう頼んだが、パイロットは自分も掃除をすると言って入って来た。

「へぇ、こんな家を独りで造ったのかい、セイヤーズ?」
「うん・・・1年かかったけどね。ライサンダーが試験管の中にいる間に突貫工事で造ったんだ。」
「大したもんだよ、あんた。」







2017年6月3日土曜日

家路 11

 午後2時にダリルとポールは局長室へ足を運んだ。出迎えたのは、第1秘書のネピア・ドーマーで、第2秘書は彼の日課で中央研究所へ行って連絡事項や新規情報などの収集に努めている。ネピアはポールに自席のそばの席で待機するよう指図して、ダリルを局長席の対面の席に案内した。
 ハイネ局長はコンピュータの画面を眺めていたが、ダリルが正面に座ると顔を向けた。

「君が住んでいた家を買い取りたい人物との面会を許可して欲しいと言うことだな?」
「そうです。ちょっと問題がありまして、土地は州のものなのです。私が無断で隠れ住んでいたので・・・私が売るのは家だけです。購入希望者は現在州政府と土地の買い取りに関して交渉中です。」
「その人物がライサンダーと娘との同居を望んでいる?」
「はい。隠す必要がないので打ち明けますが、相手はフランシス・フラネリーです。」

 当然ながら、局長はフランシス・フラネリーが何者か知っている。成る程、と呟いただけだった。ドームの外の出来事に関しては、我関せずと言った風情だ。フランシスが土地の買い取り可能な財力を持っていることも、ライサンダーと娘を守る警備態勢を取れることも、敢えて確認しない。

「それで、君がドームから出て彼女と直接会う理由はなんだ?」
「私は彼女をよく知りません。良い人だと思いますが、息子と同居して上手くやっていけるのか、人柄を少しでも知りたいのです。すみません、親の我が儘だと承知しています。私が外に出る正統な理由でないことは、わかっています。」

 局長は視線をコンピュータに戻した。ダリルは心の中で溜息をついた。話を持って行く相手を間違えたかも知れない。ローガン・ハイネ・ドーマーは家族と言うものと全く無縁な生涯を1世紀過ごして来た人だ。家族の情愛を訴えるなら、ケンウッド長官の方が効果的だ。ケンウッドからハイネを説得してもらった方が良かったかも知れない。
 その時、思いがけない人物が発言した。

「局長、ちょっとよろしいでしょうか?」

 ダリルは思わずネピア・ドーマーを振り返った。ポールも横にいる第1秘書を見ている。

「なんだ、ネピア?」
「ライサンダー・セイヤーズは娘が人工子宮から出た時点でドームに来る資格を喪失します。恐らく、父親とは直接会う機会も失うでしょう。だから、ダリル・セイヤーズは息子を安心して託せる相手かどうか、ミズ・フラネリーを見極めたいのだと思いますよ。」

 見事に心の中を見透かされて、ダリルはどきりとした。ネピアとは仲が良いとはお世辞にも言えない。それなのに、本心を知られていた。
 局長がネピアに言った。

「だが、レインはいつでも自由に息子にも取り替え子の妹にも会えるだろう。レインに様子を見させれば済む。」
「それでも、ダリルは自分で子供を育てた親ですから。」
「自分で作った子供でもあるしな・・・」

 皮肉とも取れる言い方をして、局長はダリルを見た。ダリルは赤面した。
 1分ばかりダリルを眺めてから、局長は視線をポールに移した。ポールはやや挑戦的な光を放つ目で上司を見返した。

「レイン、君はドームを出る考えはあるのか?」
「俺がドームを出る?」

 ポールは予想外の質問に驚いた。慌てて首を振った。

「俺は出て行けと言われても出たくありません。雑菌だらけの外の世界に住むのは御免です。」

 そのうろたえぶりに、ダリルと局長は思わず吹き出した。ネピア・ドーマーさえ苦笑している。

「出るつもりがなければ良いのだ。」

と局長が言った。

「セイヤーズはもう逃亡しないだろう。」
「勿論です。」

 今度はダリルとポールが見事にハモった。局長と第1秘書が顔を見合わせ、クスッと笑った。

「空港ビルでの面会は許可しない。」
「えっ・・・」

 局長の言葉にダリルはがっかりした。しかし、次の言葉は信じられなかった。

「山の君の家で会いたまえ。実際の場所で彼女の転居の打ち合わせと言う形で面会するが良い。監視にレインを付ける。」

 思わずダリルは立ち上がり、深々と頭を下げた。下げなければ涙を見られてしまいそうだった。

「有り難うございます!!!」

 ハイネ局長はコンピュータの画面に表示されているケンウッド長官からの最新のメッセージに目を向けた。実は、ダリルと面会する少し前から彼はケンウッドと話をしていたのだ。

ーー面会させるなら山の家が良いよ。あそこはコンピュータのネットワークがないはずだ。セイヤーズの能力の危険性が低くなるし、裁判の関係者もよもやあんな辺鄙な場所まで行くまい。

2017年6月2日金曜日

家路 10

 ローガン・ハイネ遺伝子管理局長は本来なら中央研究所の食堂を使用する身分なのだろう。しかし、彼は遺伝子管理局本部から近い一般食堂を好んで利用していた。ただ部下達や若いドーマー達に気を遣わせたくなかったので、出来るだけ空いている時間帯に食事をとる。だから、彼は大好物の半熟とろとろチーズスフレに滅多にありつけなかった。
今日はダリル・セイヤーズから面会を求められたので早めに食事に出たのだが、タイミングが悪く、半熟とろとろチーズスフレは第1弾が完売してしまい、第2弾はまだオーブンの中だったのだ。
 彼はライサンダー・セイヤーズに導かれる様に窓際のテーブルに近づいた。そして座っているポール・レイン・ドーマーとダリル・セイヤーズ・ドーマーに挨拶した。

「ライサンダーに誘われて来たが、同席してもかまわないかな?」
「どうぞ! 大歓迎です。」

 ダリルの陽気な声に彼は「有り難う」と言って、空いている席に座った。そして2人の皿がほぼ空になっているのを見た。

「君等はもう食事を終えたのだな?」
「ええ、でも甘味程度でしたら、まだ入りますよ。」

 そこへピート・オブライアン・ドーマーが直径20cmはあろうかと思われる半熟とろとろチーズスフレを運んで来た。甘い香りが周囲に漂い、近くのテーブルの人々が振り返った。
 ポールが大気を鼻腔いっぱいに吸い込んだ。

「ああ、幸せの香りだ。」

 するとハイネが言った。

「分けてやるから、誰か取り皿を取って来なさい。」

 一瞬ポールとライサンダーの視線がぶつかり合い、数秒後にライサンダーが配膳台に向かった。
 ダリルが尋ねた。

「局長はお昼をそれだけで済まされるおつもりですか?」
「これだけで足りるはずがなかろう。」

 ライサンダーが急ぎ足で皿を持って戻って来た。局長は半熟とろとろチーズスフレにナイフを入れながら言った。

「先にデザートを食べてからランチを食べる。」

 ポールとダリルは顔を見合わせた。上司の子供っぽい意外な一面を見てしまったのだ。
ハイネ局長は半熟とろとろチーズスフレをまず正確に二等分して、それから半分をさらに正確に三等分した。ホールの6分の1ずつ2人の部下とその息子に分け与え、残りの2分の1を独りで食べてしまうつもりだ。
 ダリルは面会の用件をここで済ませてしまおうかとも思ったが、局長もポールもライサンダーも幸せそうに半熟とろとろチーズスフレを食べているので、後回しにすることに決めた。それに周囲にはポールのファンクラブがいつもの如く取り囲んでいる。
 半熟とろとろチーズスフレは表面がサックリと、中はまるでプディングの様にプルプルとろとろクリーミーな状態だ。これはどうやって作るのだろう、とダリルが食べながら考えていると、ポールが横から囁きかけた。

「また良からぬことを考えているだろう?」
「良からぬこと?」
「このチーズスフレと同じ物を作ろうと思っているだろう?」
「それが良からぬことなのか?」
「この半熟とろとろチーズスフレは、ピート・オブライアンが作るから美味いんだ。他の人間では駄目だ。例え君だろうと、シェイだろうと、これと全く同じ物は作れない。」

 そんなことはない、と反論しようと思ったが、局長の前で大人げない真似はしたくなかったので、ダリルは黙った。ライサンダーがポールの肩を持った。

「技術の問題じゃないってお父さんは言いたい訳だね?」
「そうだ。これにはオブライアンの思い入れが詰まっている。」

 何に対する思い入れか、ポールはそれ以上言及しなかった。わかっていても、それはオブライアンのプライバシーだ。軽々しく他人が喋るものではない、と接触テレパスの彼は自重した。
 大好物をじっくり味わいながら食べているハイネ局長に礼を述べて、彼等は午後の仕事の為に席を発った。
 食器を返却して食堂を出て行きながら、ライサンダーが低い声で尋ねた。

「局長はすごく人気があるのに、どうしてファンクラブがいないのかな?」
「必要ないからだ。」

とポールが答えた。

「みんながファンだからな。」
「お父さんも局長のファンなの?」
「俺か?」

 ポールは苦笑した。

「まぁ、彼のことは尊敬しているし、好きだが・・・しかし実際に仕事を教えてくれた人は別にいるからな。局長は優れた指揮官だが、教官ではない。彼は実戦経験がないまま将軍になった軍人みたいなものだ。だから具体的に仕事のやり方を指示なさることはない。
俺はどちらかと言えば実務経験のある先輩の方に親しみを覚える。」
「局長は若いドーマーにとっては雲の上の人なんだよ。」

とダリルが言った。

「執政官達に直接意見を言ったり批判出来るのは、あの人だけなのだ。だから、彼はドーマー達にとって、神みたいな存在なのさ。」