午後2時にダリルとポールは局長室へ足を運んだ。出迎えたのは、第1秘書のネピア・ドーマーで、第2秘書は彼の日課で中央研究所へ行って連絡事項や新規情報などの収集に努めている。ネピアはポールに自席のそばの席で待機するよう指図して、ダリルを局長席の対面の席に案内した。
ハイネ局長はコンピュータの画面を眺めていたが、ダリルが正面に座ると顔を向けた。
「君が住んでいた家を買い取りたい人物との面会を許可して欲しいと言うことだな?」
「そうです。ちょっと問題がありまして、土地は州のものなのです。私が無断で隠れ住んでいたので・・・私が売るのは家だけです。購入希望者は現在州政府と土地の買い取りに関して交渉中です。」
「その人物がライサンダーと娘との同居を望んでいる?」
「はい。隠す必要がないので打ち明けますが、相手はフランシス・フラネリーです。」
当然ながら、局長はフランシス・フラネリーが何者か知っている。成る程、と呟いただけだった。ドームの外の出来事に関しては、我関せずと言った風情だ。フランシスが土地の買い取り可能な財力を持っていることも、ライサンダーと娘を守る警備態勢を取れることも、敢えて確認しない。
「それで、君がドームから出て彼女と直接会う理由はなんだ?」
「私は彼女をよく知りません。良い人だと思いますが、息子と同居して上手くやっていけるのか、人柄を少しでも知りたいのです。すみません、親の我が儘だと承知しています。私が外に出る正統な理由でないことは、わかっています。」
局長は視線をコンピュータに戻した。ダリルは心の中で溜息をついた。話を持って行く相手を間違えたかも知れない。ローガン・ハイネ・ドーマーは家族と言うものと全く無縁な生涯を1世紀過ごして来た人だ。家族の情愛を訴えるなら、ケンウッド長官の方が効果的だ。ケンウッドからハイネを説得してもらった方が良かったかも知れない。
その時、思いがけない人物が発言した。
「局長、ちょっとよろしいでしょうか?」
ダリルは思わずネピア・ドーマーを振り返った。ポールも横にいる第1秘書を見ている。
「なんだ、ネピア?」
「ライサンダー・セイヤーズは娘が人工子宮から出た時点でドームに来る資格を喪失します。恐らく、父親とは直接会う機会も失うでしょう。だから、ダリル・セイヤーズは息子を安心して託せる相手かどうか、ミズ・フラネリーを見極めたいのだと思いますよ。」
見事に心の中を見透かされて、ダリルはどきりとした。ネピアとは仲が良いとはお世辞にも言えない。それなのに、本心を知られていた。
局長がネピアに言った。
「だが、レインはいつでも自由に息子にも取り替え子の妹にも会えるだろう。レインに様子を見させれば済む。」
「それでも、ダリルは自分で子供を育てた親ですから。」
「自分で作った子供でもあるしな・・・」
皮肉とも取れる言い方をして、局長はダリルを見た。ダリルは赤面した。
1分ばかりダリルを眺めてから、局長は視線をポールに移した。ポールはやや挑戦的な光を放つ目で上司を見返した。
「レイン、君はドームを出る考えはあるのか?」
「俺がドームを出る?」
ポールは予想外の質問に驚いた。慌てて首を振った。
「俺は出て行けと言われても出たくありません。雑菌だらけの外の世界に住むのは御免です。」
そのうろたえぶりに、ダリルと局長は思わず吹き出した。ネピア・ドーマーさえ苦笑している。
「出るつもりがなければ良いのだ。」
と局長が言った。
「セイヤーズはもう逃亡しないだろう。」
「勿論です。」
今度はダリルとポールが見事にハモった。局長と第1秘書が顔を見合わせ、クスッと笑った。
「空港ビルでの面会は許可しない。」
「えっ・・・」
局長の言葉にダリルはがっかりした。しかし、次の言葉は信じられなかった。
「山の君の家で会いたまえ。実際の場所で彼女の転居の打ち合わせと言う形で面会するが良い。監視にレインを付ける。」
思わずダリルは立ち上がり、深々と頭を下げた。下げなければ涙を見られてしまいそうだった。
「有り難うございます!!!」
ハイネ局長はコンピュータの画面に表示されているケンウッド長官からの最新のメッセージに目を向けた。実は、ダリルと面会する少し前から彼はケンウッドと話をしていたのだ。
ーー面会させるなら山の家が良いよ。あそこはコンピュータのネットワークがないはずだ。セイヤーズの能力の危険性が低くなるし、裁判の関係者もよもやあんな辺鄙な場所まで行くまい。
ハイネ局長はコンピュータの画面を眺めていたが、ダリルが正面に座ると顔を向けた。
「君が住んでいた家を買い取りたい人物との面会を許可して欲しいと言うことだな?」
「そうです。ちょっと問題がありまして、土地は州のものなのです。私が無断で隠れ住んでいたので・・・私が売るのは家だけです。購入希望者は現在州政府と土地の買い取りに関して交渉中です。」
「その人物がライサンダーと娘との同居を望んでいる?」
「はい。隠す必要がないので打ち明けますが、相手はフランシス・フラネリーです。」
当然ながら、局長はフランシス・フラネリーが何者か知っている。成る程、と呟いただけだった。ドームの外の出来事に関しては、我関せずと言った風情だ。フランシスが土地の買い取り可能な財力を持っていることも、ライサンダーと娘を守る警備態勢を取れることも、敢えて確認しない。
「それで、君がドームから出て彼女と直接会う理由はなんだ?」
「私は彼女をよく知りません。良い人だと思いますが、息子と同居して上手くやっていけるのか、人柄を少しでも知りたいのです。すみません、親の我が儘だと承知しています。私が外に出る正統な理由でないことは、わかっています。」
局長は視線をコンピュータに戻した。ダリルは心の中で溜息をついた。話を持って行く相手を間違えたかも知れない。ローガン・ハイネ・ドーマーは家族と言うものと全く無縁な生涯を1世紀過ごして来た人だ。家族の情愛を訴えるなら、ケンウッド長官の方が効果的だ。ケンウッドからハイネを説得してもらった方が良かったかも知れない。
その時、思いがけない人物が発言した。
「局長、ちょっとよろしいでしょうか?」
ダリルは思わずネピア・ドーマーを振り返った。ポールも横にいる第1秘書を見ている。
「なんだ、ネピア?」
「ライサンダー・セイヤーズは娘が人工子宮から出た時点でドームに来る資格を喪失します。恐らく、父親とは直接会う機会も失うでしょう。だから、ダリル・セイヤーズは息子を安心して託せる相手かどうか、ミズ・フラネリーを見極めたいのだと思いますよ。」
見事に心の中を見透かされて、ダリルはどきりとした。ネピアとは仲が良いとはお世辞にも言えない。それなのに、本心を知られていた。
局長がネピアに言った。
「だが、レインはいつでも自由に息子にも取り替え子の妹にも会えるだろう。レインに様子を見させれば済む。」
「それでも、ダリルは自分で子供を育てた親ですから。」
「自分で作った子供でもあるしな・・・」
皮肉とも取れる言い方をして、局長はダリルを見た。ダリルは赤面した。
1分ばかりダリルを眺めてから、局長は視線をポールに移した。ポールはやや挑戦的な光を放つ目で上司を見返した。
「レイン、君はドームを出る考えはあるのか?」
「俺がドームを出る?」
ポールは予想外の質問に驚いた。慌てて首を振った。
「俺は出て行けと言われても出たくありません。雑菌だらけの外の世界に住むのは御免です。」
そのうろたえぶりに、ダリルと局長は思わず吹き出した。ネピア・ドーマーさえ苦笑している。
「出るつもりがなければ良いのだ。」
と局長が言った。
「セイヤーズはもう逃亡しないだろう。」
「勿論です。」
今度はダリルとポールが見事にハモった。局長と第1秘書が顔を見合わせ、クスッと笑った。
「空港ビルでの面会は許可しない。」
「えっ・・・」
局長の言葉にダリルはがっかりした。しかし、次の言葉は信じられなかった。
「山の君の家で会いたまえ。実際の場所で彼女の転居の打ち合わせと言う形で面会するが良い。監視にレインを付ける。」
思わずダリルは立ち上がり、深々と頭を下げた。下げなければ涙を見られてしまいそうだった。
「有り難うございます!!!」
ハイネ局長はコンピュータの画面に表示されているケンウッド長官からの最新のメッセージに目を向けた。実は、ダリルと面会する少し前から彼はケンウッドと話をしていたのだ。
ーー面会させるなら山の家が良いよ。あそこはコンピュータのネットワークがないはずだ。セイヤーズの能力の危険性が低くなるし、裁判の関係者もよもやあんな辺鄙な場所まで行くまい。