2017年5月9日火曜日

奮闘 21

 FOKのメンバー達の公判が始まった。
 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは決してドームから出てはいけないと言い含められ、遺伝子管理局本部で大人しく事務仕事をした。囮捜査官のロイ・ヒギンズがどんな証言をするのか、息子ライサンダー・セイヤーズがいつ証人として召喚されるのか、ダリルには全く知らされない。不安と不満でイライラが募るが、ゲートは彼に対して固く閉ざされていた。
 ポール・レイン・ドーマーはまだ西海岸から戻らない。抗原注射が不要な体になった途端に長期のドーム外勤務だ。活動状況報告はきちんと定期的に入って来るので、ダリルはそれを整理して、ポールや部下達のものをまとめて毎日局長室へ送信する。
 交通事故で負った打撲傷は週末にはかなり良くなって、ライサンダーがドームに来た時には、普段通りジムで相手をしてやれた。

「ジェリーが怪我をしたって・・・」

 ライサンダーはジェリー・パーカー本人からではなく、仲良くなった静音ヘリのパイロット、マイケル・ゴールドスミス・ドーマーから得た情報を出して来た。その時、彼は父親と格闘技の練習をしていた。

「マイクが、ジェリーの怪我に父さんも関係しているって言ったけど?」
「ああ、ラムゼイ博士の墓参りに行った時に、ちょっとした事故に遭ったんだ。」
「墓参り? 父さんとジェリーはドームから出られたの?」
「特別許可をもらってね。」

 ダリルは息子にラムゼイの殺害に直接手を下した男の話をしたくなかった。息子にとっては、メーカーのラムゼイ博士は3番目の「父親」なのだ。その悲惨な最期を息子に詳しく語りたくなかった。

「もしかして、ハイネ局長の計らいかな?」

 ライサンダーは、スカッシュの師匠が遺伝子管理局の局長だと知って以来、白い髪のドーマーに尊敬の念を抱いている。まだ胎児の娘に名前を付ける手伝いをしてくれたのも、局長だ。

「まぁ、そんなところだ。」

 ジェリーの奸計がハイネを動かしたのだ、とはダリルは言いたくなかった。ジェリーは博士を殺害した犯人を確認したかった。そして確認して、激情に駆られ、殺害しようとしたのだ。
 交通事故でダリルより酷い打撲傷を負ったジェリーは、今もまだ1日半時間薬品風呂に浸かっている。リハビリでジムに顔を出す以外、研究所の外に出ようとしないが、それはまだ歩くのが億劫だからだ。

「父さんも怪我したんじゃないの? 大丈夫?」

と尋ねながら、ライサンダーは父親をなんとかして投げ飛ばそうと努力していた。
 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは母親の様に優しい父親だが、こと護身術に関しては決して息子を甘やかさなかった。ライサンダーが父親に勝たせてもらえたのは5歳迄、それ以降はまだ一度も勝ったことがなかった。
 ダリルは組み合ったまま、息子が父の負傷した箇所を見破れないのを残念に思った。父の傷を思いやって攻めないのではない、ライサンダーは父親が体のどこを痛めたのかわからないのだ。彼は息子をひと思いにマットレスの上に押し倒し、敗北を認めさせた。

「私は右肩と腰の右側を打ったんだ。おまえは私がその部分を庇っていたのに気が付かなかったな?」
「・・・そうか・・・全然わからなかった。」
「知られないように努めたからな。」

 立ち上がったダリルは、JJがそばで見ていたことに気が付いた。ポールが出かけてから、彼女も寂しいので、ジムで憂さ晴らしをしに来たのだ。

「ライサンダー、JJと一勝負してみないか? 女性だからと侮るなかれ、彼女は強いぞ。」