2017年5月13日土曜日

奮闘 24

 ダリルはバーでコンサートを聴いていた。いつもの馬鹿騒ぎパーティーが中米班の出動でお休みになったので、南米班がドーム内の素人バンド達に声を掛け、急遽行われたコンサートだ。練習不足でガタガタのバンドや、人数が揃わなくて気が抜けたソーダ水みたいな曲や、即興で見事な演奏をやってのけたバンドやらで、思う存分楽しめた。ダンスを始める客もいたが、男性ばかりなので、男同士のペアばかりだ。そのうちに音楽会だと聞きつけて女性執政官やドーマーが現れると、もう引っ張りだこだ。ダリルはラナ・ゴーンを探したが、彼女は来ていなかった。JJも今夜はライサンダーと食事をした後早めに部屋に帰ったようだ。
 JJと仲良しの執政官メイも姿を見せないが、彼女はきっとジェリー・パーカーに世話を焼いているのだろう。彼女がジェリーに関心を持っていることは、ダリルもポールも感じていた。執政官から地球人に交際を申し込めないので、彼女は「親切の押し売り」しか出来ない。ドーマー達は、なんとなく「地球人保護法」が本当に地球人のためのものなのか、疑問に思い始めていた。恋愛は自由のはずだ。
 そろそろ疲れてきたので、ダリルはバーを出て、1人でぶらぶら庭園へ向かった。いつもの場所に副長官が来ていないかと期待したが、彼女はそこにもいなかった。電話もメールもないし、彼の方からするつもりもない。今彼女を求めているのは、ポールがいないからだ、と彼は承知していた。ただ寂しいから・・・。
 自分はポールとラナとどちらを愛しているのだろう。どちらも自分にとってかけがえのない人だ。だが、どちらか1人しか選べないとしたら?
 東屋の近くで立ち止まってぼんやり考えていたら、恐らく油断していたのだろう、誰かがすぐ背後に来ていることに気づくのが遅れた。

「殴るなよ。」

と接近者は言って、彼の攻撃を未然に防ぐことを忘れなかった。
 ダリルは後ろから抱きすくめられ、そばの茂みに引き込まれた。暫く相手のやりたい様にやらせた。監視カメラの死角に入っていることを頭の隅で認識していた。
 あまり時間がないことをお互いにわかっていたので、ことは早く終わった。ダリルは人目につかない様に気遣いながら服装を整えた。

「これは、犯罪になるんじゃないのか?」

と彼が抗議すると、相手は笑った。

「嫌なら、俺が声を掛けた時に逃げたはずだろ?」
「どうして私が君から逃げるんだ?」

 ダリルはポール・レイン・ドーマーを改めて抱きしめると自分からキスをした。

「君はいつも私のバックを狙ってくる。」
「君はバックが甘いからさ。俺の腕の長さより短い距離まで敵が迫っても気が付かない。それじゃ、いつかやられるぞ。俺は警告してやってるんだ。」

 ポールは常に自身に都合の良いようにものごとを解説する。

「いつ戻ったんだ?」
「2時間前だ。局長に報告して、書類も作成した。後は眠るだけだ。」
「夕食は?」
「機内で食った。」
「帰って来るなんて言わなかったじゃないか?」
「そうだったか? まぁ、まだ仕事が完了した訳じゃないからな。2,3日休んだら、また出かける。奴隷製造組織をもうすぐぶっ潰せそうなんだ。」

 2人はアパートに向かって歩き始めた。

「そっちはどうなっているんだ? JJとクラウスの報告では、君とパーカーが交通事故に遭って、ラムゼイを殺した男が死んで、パーカーが酷く怪我をしたと言う話だが?」
「それは報告書を読んでくれ。ちゃんと書いたから。」
「では、明日、じっくり吟味してやる。君の怪我は軽かったようだが、パーカーの責任はちゃんと調べるからな。余計なかばいだてはするなよ。」

 明るい場所に出ると、ダリルはポールがまだスキンヘッドのままなのを確認した。

「またその頭に戻るのか?」
「ああ・・・」

 ポールは自身の頭を手でつるりと撫でた。

「どうもこっちの方が俺は性に合ってるようだ。少なくとも、現役の間はこっちで過ごすよ。」

 きっと兄ハロルドが大統領に再選されたので、髪の毛がない方がフラネリー家との関係をマスコミに詮索されずに済むと判断したのだろう。肉親の存在を知ってしまうと、いろいろと気苦労が増えるのだ、とダリルは思った。彼の母親のオリジナル、スパイラル工業のセイヤーズCEOは、見事に男子を身籠もったのだが、勿論それは夫の子ではなく、ダリルの息子だ。しかし、彼女はその秘密を未来永劫護り続けるだろう。