2017年5月12日金曜日

奮闘 23

 ライサンダー・セイヤーズは図書館に居た。ジムで運動した後、更衣室でシャワーを浴び、JJと一緒に軽い夕食を取った。眠くなっては困るので、彼にとってはかなり控えめに食べたので、彼女と別れて図書館で勉強しているとお腹が空いてきた。時刻はまだ午後9時前で、食堂では大勢のドーマー達が食事を終えてくつろいでいる頃だ。バーも開くだろうが、彼は勉学に勤しむ方を選んだ。通信制の大学に入ったばかりで、いきなり試験があるのだ。その出来具合で大学は個々の学生のカリキュラムを決めるらしい。暗記は得意だが、理解するとなるとやはり時間がかかる。理解出来なければ質問に答えられないから、彼はコンピュータと書物で先人の知恵と知識を必死で頭に入れていた。
 10時頃になって、ようやく目標の課題をこなせたので、彼はロビーに出て一休みした。小さな売店があり、軽食と飲み物を販売していたので、ホットドッグと珈琲で夜食を摂っていると、そばの席に座った男性がいた。

「こんばんは、ライサンダー。勉強ははかどっていますか?」

 振り返ると、ケンウッド長官だった。久し振りの再会だ。ライサンダーはちょっとはにかみながら、ええ、なんとか、と答えた。

「本気で弁護士を目指しているのですね。」
「はい、俺がクローンであることを活かせるとしたら、やはりクローンの権利の為に働くことだと思ったので。」

 ケンウッドは目を細めて彼を眺めた。

「完璧な人間なのにね、やはり差別はありますか?」
「俺が今の職場で何か不愉快な体験をした、と言うことはありません。でも、街中で他のクローンの人が嫌な思いをさせられている場面に遭遇することが偶にあります。助けてあげようとしたことがあったのですが、法律のことがよくわからなくて、悔しい思いをしました。論理的に抗議出来ないと、どうしても暴力の方へ向かってしまいますから・・・。」

 ライサンダーは、ふと父親のポール・レイン・ドーマーに尋ねようと思って、ポールが留守で実現出来ていない質問を長官にしてみた。

「長官、フラネリー大統領はメーカーの取り締まりを強化させていますが、その一方でクローン技術の開示をドームに求めています。彼の目的は何ですか?」
「ふむ・・・」

ケンウッドは視線を遠くへ向けた。

「歴代の大統領は就任すると、地球人の存続が危機に陥っている事実を教えられます。女性が誕生しないと言う事実を公表出来ない理由を彼等は理解しますが、取り替え子の人数に限度があることに危機感を募らせる者もいます。どうしても女性は裕福な家庭、或いはドームが選択した家庭にしか割り当てられない。庶民は、何かおかしいと感じているはずです。」
「ええ・・・確かにそうです。どうして女性は金持ちの家にしか生まれないのだろう、とみんな疑問に思っていますよ。」
「フラネリー大統領は、政府が管理するクローン製造施設を建設する構想を持っているのでしょう。私達は彼と直接話しをしたことがないので、これは憶測ですが・・・。
彼は地球人だけの力で女性を増やせないものかと考えているのです。だが、それはまだ彼1人の頭の中での話でしょう。彼の政策スタッフにも事実は明かせないのですから。」

 ライサンダーはちょっとびっくりして長官を見つめた。

「工場で女性を創るのですか?」
「それに似たようなものでしょうね。」
「俺は好かないなぁ・・・」
「私も個人的には反対です。そんな施設を造ったら、すぐに事実が外部に漏れてしまうでしょう。それに・・・」

 長官は呟いた。

「あと100年耐えれば、地球は元通りになるはずですよ。」