ダリルは息子をジムに残して1人アパートに帰った。シャワーを浴びて着替えをして、夕食までテレビの前に座ってぼんやりしていた。ポールが居れば話をするなり、じゃれあったり出来るのだが・・・。
老後はやはり園芸班で植木の手入れでもするか・・・
山の家の畑が懐かしかった。去年の今頃は玉蜀黍の出来具合を楽しみにしながら世話をしていたのだ。玉蜀黍はクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが操縦する静音ヘリに押しつぶされたが・・・。
夕食を取りに食堂に行くと、いつとなく静かだった。気のせいかと思いつつ配膳カウンターに行くと、厨房班のオブライアンが声を掛けてきた。
「今日は昼前に中米班がほぼ全員出かけて行ったけど、何か大事件でもあったのかい?」
「否・・・」
何かあれば、遺伝子管理局内の秘書は全員知らされるはずだ。中米班が黙って出動したと言うことは、大袈裟な任務ではないが、人手がいる仕事だと言うことだろう。
ポール・レイン・ドーマーと彼が率いる北米南部班は、西海岸でメーカー組織を摘発する任務に就いている。西海岸のヒスパニック系のメーカーの一つが、かなり悪質で、中米の農場で働かせる奴隷を作る目的でクローンを製造していると言う密告があったのだ。
恐らく、クロエル・ドーマーの担当地域の農場だ。だから、クロエルと彼の部下達は北米南部班と合同でメーカーを抑えに出かけたのだ。
「中米班の連中がいないと、世の中、静かでつまらねぇや。」
オブライアンがぶつぶつ言った。
「彼等は陽気だからね。」
ダリルは南米班を目で探した。チーフのホアン・ドルスコ・ドーマーが1人で食事をしているのが目に入った。
「南米班も陽気だけどね。」
オブライアンは次の客に気が付いてそちらを見ながら、ダリルに言った。
「兄さん、ライサンダー坊やに、今夜のバーの騒ぎはお預けだって言ってやれよ。クロエル先生がいなけりゃ、火の消えた祭りみたいにつまらない。」
「ライサンダーは今夜勉強するそうだ。明日はバスケの試合があるので、今夜のうちに覚えたい項目があると言っていた。」
「へぇ、真面目なんだな・・・どっちに似たんだろ?」
その問いには答えずに、ダリルは彼にバイバイと言って、ドルスコ・ドーマーの方へ行った。
南米班は任地が遠いので、出かけると1週間は帰って来ない。ドルスコが食堂で食べているところに出くわすのは珍しいのだ。
ホアン・ドルスコ・ドーマーは南米班のチーフだが、生まれと言うか母親の出身地はメキシコの中米人だ。ブラジルのジャングル生まれのクロエル・ドーマーが中米班のチーフをしているのと逆の人事になる。クロエルの母語は本来ならポルトガル語になるのだが、彼が生まれた南米分室はスペイン語を公用語としていたので、クロエルはスペイン語を母語にしている。だからドルスコと話す時は完全にスペイン語だ。
ダリルは西ユーラシア・ドームに転属した時、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、スウェーデン語、フィンランド語、オランダ語を習った。だからこれらの言語は簡単な日常会話程度なら出来るし、読み書きは完璧だ。中西部で暮らしていた頃も、街に買い物に行けばヒスパニック系の住民とスペイン語で話をしたので、中米班、南米班のドーマーと話をする時は、時々スペイン語を使う。
ドルスコの隣のテーブルにトレイを置いて、スペイン語で「オラ!」と声を掛けてみた。ドルスコが皿から顔を上げ、笑顔で「オラ!」と返事を返してから、英語で、
「こっちのテーブルに来いよ。」
と言った。ドルスコはここのドームで育ったので、実のところスペイン語より英語の方が母語になるのだ。
ダリルはテーブルを移って彼の向かいに座った。
「今日は1人かい、セイヤーズ?」
「うん。君も?」
「俺は飯は1人で食うのさ。考え事をしたいからね。ああ、今は君と一緒で良いさ。レイン抜きで君と飯を食うのは初めてだから。」
「君の任地は遠いから、滅多に食堂で出遭わないってことだな。会うときは大概会議だ。」
「そうだね。それに俺は暇な時はグラウンドでボールを蹴っているし。」
ドームのグラウンドは一箇所しかない。土地が限られているので、その一箇所が用途に合わせて野球場になったり、サッカー場になったり、アメフト競技場になったり、陸上競技のグラウンドになったりする。南米班はサッカー好きのドーマーやコロニー人の為に場所取りをしていることが多い。
ダリルは中米班の仕事内容を聞きたかったが、ドルスコが仕事の話を好まない様子だったので、諦めた。それで、今夜のバーでのパーティーのことを尋ねてみた。
「今夜はパーティーをやらない。」
とドルスコが教えてくれた。
「中米班の連中が留守なんで、静かになるだろうから、代わりに音楽好きの連中にミニコンサートをやってもらうことにした。」
老後はやはり園芸班で植木の手入れでもするか・・・
山の家の畑が懐かしかった。去年の今頃は玉蜀黍の出来具合を楽しみにしながら世話をしていたのだ。玉蜀黍はクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが操縦する静音ヘリに押しつぶされたが・・・。
夕食を取りに食堂に行くと、いつとなく静かだった。気のせいかと思いつつ配膳カウンターに行くと、厨房班のオブライアンが声を掛けてきた。
「今日は昼前に中米班がほぼ全員出かけて行ったけど、何か大事件でもあったのかい?」
「否・・・」
何かあれば、遺伝子管理局内の秘書は全員知らされるはずだ。中米班が黙って出動したと言うことは、大袈裟な任務ではないが、人手がいる仕事だと言うことだろう。
ポール・レイン・ドーマーと彼が率いる北米南部班は、西海岸でメーカー組織を摘発する任務に就いている。西海岸のヒスパニック系のメーカーの一つが、かなり悪質で、中米の農場で働かせる奴隷を作る目的でクローンを製造していると言う密告があったのだ。
恐らく、クロエル・ドーマーの担当地域の農場だ。だから、クロエルと彼の部下達は北米南部班と合同でメーカーを抑えに出かけたのだ。
「中米班の連中がいないと、世の中、静かでつまらねぇや。」
オブライアンがぶつぶつ言った。
「彼等は陽気だからね。」
ダリルは南米班を目で探した。チーフのホアン・ドルスコ・ドーマーが1人で食事をしているのが目に入った。
「南米班も陽気だけどね。」
オブライアンは次の客に気が付いてそちらを見ながら、ダリルに言った。
「兄さん、ライサンダー坊やに、今夜のバーの騒ぎはお預けだって言ってやれよ。クロエル先生がいなけりゃ、火の消えた祭りみたいにつまらない。」
「ライサンダーは今夜勉強するそうだ。明日はバスケの試合があるので、今夜のうちに覚えたい項目があると言っていた。」
「へぇ、真面目なんだな・・・どっちに似たんだろ?」
その問いには答えずに、ダリルは彼にバイバイと言って、ドルスコ・ドーマーの方へ行った。
南米班は任地が遠いので、出かけると1週間は帰って来ない。ドルスコが食堂で食べているところに出くわすのは珍しいのだ。
ホアン・ドルスコ・ドーマーは南米班のチーフだが、生まれと言うか母親の出身地はメキシコの中米人だ。ブラジルのジャングル生まれのクロエル・ドーマーが中米班のチーフをしているのと逆の人事になる。クロエルの母語は本来ならポルトガル語になるのだが、彼が生まれた南米分室はスペイン語を公用語としていたので、クロエルはスペイン語を母語にしている。だからドルスコと話す時は完全にスペイン語だ。
ダリルは西ユーラシア・ドームに転属した時、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、スウェーデン語、フィンランド語、オランダ語を習った。だからこれらの言語は簡単な日常会話程度なら出来るし、読み書きは完璧だ。中西部で暮らしていた頃も、街に買い物に行けばヒスパニック系の住民とスペイン語で話をしたので、中米班、南米班のドーマーと話をする時は、時々スペイン語を使う。
ドルスコの隣のテーブルにトレイを置いて、スペイン語で「オラ!」と声を掛けてみた。ドルスコが皿から顔を上げ、笑顔で「オラ!」と返事を返してから、英語で、
「こっちのテーブルに来いよ。」
と言った。ドルスコはここのドームで育ったので、実のところスペイン語より英語の方が母語になるのだ。
ダリルはテーブルを移って彼の向かいに座った。
「今日は1人かい、セイヤーズ?」
「うん。君も?」
「俺は飯は1人で食うのさ。考え事をしたいからね。ああ、今は君と一緒で良いさ。レイン抜きで君と飯を食うのは初めてだから。」
「君の任地は遠いから、滅多に食堂で出遭わないってことだな。会うときは大概会議だ。」
「そうだね。それに俺は暇な時はグラウンドでボールを蹴っているし。」
ドームのグラウンドは一箇所しかない。土地が限られているので、その一箇所が用途に合わせて野球場になったり、サッカー場になったり、アメフト競技場になったり、陸上競技のグラウンドになったりする。南米班はサッカー好きのドーマーやコロニー人の為に場所取りをしていることが多い。
ダリルは中米班の仕事内容を聞きたかったが、ドルスコが仕事の話を好まない様子だったので、諦めた。それで、今夜のバーでのパーティーのことを尋ねてみた。
「今夜はパーティーをやらない。」
とドルスコが教えてくれた。
「中米班の連中が留守なんで、静かになるだろうから、代わりに音楽好きの連中にミニコンサートをやってもらうことにした。」