2018年5月27日日曜日

Break 20

登場人物紹介


アイダ・サヤカ

出産管理区長。 産科の医学博士。
「退出者」で既に登場していたのだが、紹介から漏れていた。(作者、びっくり!)
丸顔で柔和な顔をしたぽっちゃり系美人。ヤマザキ・ケンタロウは彼女を「観音菩薩」と呼ぶ。
夫に病気で先立たれ、生活の為に2人の子供を姉夫婦に預けてドーム勤務に就いた。
キーラ・セドウィック博士の部下として親友として長年労苦を共にした。
若いドーマーの多くは彼女に誕生の時に取り上げられ、選ばれ、彼女を母親として慕っている。
ローガン・ハイネ・ドーマーに片思いしていたが、かなり積極的に彼に素手で触れたりして、平静を装っていたが、歳を取るに連れて辛くなり、辞表を提出した。


ジャクリーン・スメア

ケンウッド長官の第2秘書。コロニー人。
ジャン=カルロス・ロッシーニ・ドーマーが引退した後の後任。
聡明で大胆なところがある女性。


チャーリー・チャン

ケンウッド長官の第1秘書。コロニー人。
ヴァンサン・ヴェルティエンが秘書から副長官に昇格した後、就任した。
スメアとは仲良く働いている。


ジョアン・ターナー・ドーマー

住居維持班のドーマー。
本編では、維持班総代として登場。 大工として働いている。
ロビン・コスビー総代に気に入られ、後継者に抜擢された。


コナーズ

コロニー人の取り立て屋。
金融会社に雇われ、借金を踏み倒して地球に逃げたレイモンド・ハリスを追跡してアメリカ・ドームにたどり着いた。
仲間数名と共に出口で辛抱強くハリスが出てくるのを待ち構えている。


ロバータ・ベルトリッチ

地球人類復活委員会委員長。
ハナオカが委員長から引退した後、選挙で選ばれた。
遺伝子学者として西ユーラシア・ドームで勤務した経歴があり、ミヒャエル・マリノフスキー西ユーラシア遺伝子管理局長お気に入りのコロニー人。
性転換する前はロベルトと言う名だった。
自身の経歴の影響もあり、他人の特異性に対する理解があり、ハイネとアイダ・サヤカとの結婚を認可した。


ロナルド・セドウィック

マーサ・セドウィックが二番目の夫との間に産んだ息子。
キーラ・セドウィックの異父弟。医学博士。
火星のコロニーで祖父が興したクリニックの院長をしている。
母親の地球愛に呆れつつも付き合っている。
妻の名はタマラ。成人した3人の息子がいる。

Break 19

 これで「泥酔者」は終わり。

 本編の問題児、レイモンド・ハリス中西部支局長、クロワゼット大尉、アレクサンドル・キエフ局員が出揃った感じ。

 ハイネが結婚してしまったのは作者もびっくりだけど(笑)、極秘結婚なので、生活は変わらない。だけど、精神的に余裕が出てくるので、彼も100歳を間近にして、やっと落ち着いた人生を送られるようになった。

 ラナ・ゴーンが副長官に就任するのもこのあたり。手強い女性なので、ケンウッド長官、威厳を失わないよう頑張らないとね!

 元司厨長が旅立つであろう予感を書いておいた。寂しいけれど、ドーマー達も歳を取っていく。ハイネにとって、10歳下の連中、グレゴリー・ペルラやエイブラハム・ワッツ、ジョージ・マイルズ達は弟みたいなもの。ダニエル・オライオンがいなくなった後、彼を支えてきたのは彼等だった。でも80、90になると彼等もやがて去って行く。

 次はポール・レイン・ドーマー、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマー、そしてダリル・セイヤーズ・ドーマーの世代がドームを支えていくのだ!

泥酔者 16 - 6

  その日の夕刻、クロエル・ドーマーが率いる遺伝子管理局中米班がドームに帰投した。消毒を終えて送迎フロアに入ったクロエルは、そこでガブリエル・ブラコフ副長官と出会った。

「おヤァ? 副長官が僕ちゃんをお出迎えすか?」

 いつもの陽気なクロエル・ドーマーの声に、ブラコフは微笑んだ。

「そうだよ、と言いたいところだけど、お見送りだったんだ。新しい副長官が決まったんだよ。」

 クロエルが一瞬笑みを顔から消した。ブラコフの言葉の意味を素早く理解したからだ。
そして直ぐに何時ものひょうきんな表情に戻った。

「僕ちゃん、新任が決まらなきゃいいのに、と思ってたんすけどねぇ。決めちゃいましたか・・・」

 ブラコフが笑った。

「有り難いけど・・・僕は次の仕事も早くやってみたい、身勝手な人間だからね。それに、新任の名前を聞いたら、君はきっと喜ぶよ。」
「へぇ? まさか、パーシバル博士ってんじゃないでしょうね?」
「パーシバル博士は回診のお医者さんだ。それに重力障害でここには住めない。」
「そうでした・・・」

 クロエルは考えた。ブラコフの言い方だと、新任は彼が知っているコロニー人のようだ。ドームで働いている執政官だったら、見送る必要はないだろうし。過去に宇宙に帰って行ったコロニー人を色々と思い浮かべて見たが、副長官になりそうな人を思いつけなかった。

「誰なんすか? 降参しますよ。」

 ブラコフはクスクス笑った。クロエル・ドーマーは余りにも身近過ぎて養母の名前を思い出せないのだ。

「執行部のラナ・ゴーン博士だよ。」
「はぁ????」

 クロエル・ドーマーの大きな目が、さらに大きく見開かれた。

「冗談止して下さいよ、ガブリエル。 おっかさんが副長官だなんて・・・」
「冗談だと思うなら、本部に帰って任務完了報告する時にハイネ局長に確認してごらん。」
「ああ・・・」

 クロエルは思わず天を仰いだ。

「おかっさんが同じ屋根の下にいたら、羽目を外せないっす・・・」

 ブラコフはニヤリとした。新しい副長官の人柄を知るのに、クロエルは最適な情報源だと気が付いたからだ。

「クロエル、今日は金曜日だろ? 今夜一緒にバーで飲まないか?」
「いいっすよ・・・」

 クロエルが笑顔で答えた。

「僕ちゃん、今のうちに泥酔して羽目外せるだけ外しておきます。」


2018年5月25日金曜日

泥酔者 16 - 5

 レイモンド・ハリスが支局長職を引き受けたと、ネピア・ドーマーから連絡が入った。ネピアはこれからハリスに業務内容の説明をすると言う。ハイネ局長は第1秘書に「よろしく頼む」と言って通話を切った。そして執務机を挟んで向かい側に座っているポール・レイン・ドーマーに指示を出した。

「レイモンド・ハリスが中西部支局長の職を引き受けた。これから最短で5年、君と仕事をして行くことになる。コロニー人だから、世間知らずでは私と良い勝負かも知れない。」

 レインはお愛想笑いをして見せた。ハリスはコロニー社会では世間を知っている筈だ。しかし、常識があるのは局長の方に決まっている。

「ハリス博士は世間知らずではなく、意志が弱く、常識がないのです。」

と彼は言った。

「それに局長を世間知らずと思う人はいません。局長は人間の心の裏表を俺達なんかよりずっと理解しておられます。」

 ハイネは肩を竦めただけで、その言葉にコメントを返さなかった。キーボードの上で軽やかに指を動かし、レインの端末がメッセージを受信した通知のメロディを奏でた。レインは上司の前でそれを見ようとしない。失礼になると思ったからだ。ハイネが言った。

「君がチーフに就任してから最初の支局長就任者だ。現地での指導を君にやってもらうことになる。ハリスに与える注意事項をメッセで送っておいた。航空機内で目を通しておくように。」
「了解しました。」
「現地の地域的特性は君達局員が一番よく知っている。コロニー人が地球の表面で暮らす際の注意だ。私やネピアでは知識が足りない。ネピアは引退して10年以上経つし、彼は南米班出身だからな。それから・・・」

 ハイネはレインの顔を見た。

「彼を博士と呼ぶ必要はない。支局長は君の上役になるが、上司ではないし、ハリスはもう研究者でもない。支局長の業務をこなす臨時職員だ。彼が規律を守らなければ、君が遠慮なく叱ってやれ。」
「わかりました。」

 レインは今迄セイヤーズ捜索の空白地帯だった中西部の山岳地帯へ行く拠点に中西部支局を利用するつもりだ。引退する支局長は倹約家だったので、ヘリコプターの使用は自由にならなかったが、これからは好きなだけ使ってやろう。衛星データ分析官もアメリカの生活に慣れて来ているので、外回りに連れて行くつもりだった。

「明朝は何時に出るのか?」
「午前8時の一番機に搭乗予定です。」
「では、ハリスもそれに乗せるよう、長官に進言しておく。取り立て屋と接触しないよう、十分気をつけてくれ。」
「心得ています。出動する局員で彼を取り巻いておきますよ。」

2018年5月24日木曜日

泥酔者 16 - 4

 ネピア・ドーマーがムッとするのをケンウッドは気配で感じ、局長第1秘書が爆発する前に抑える目的でハリスに言った。

「地球の雑菌も放射線もコロニーとあまり変わらない。勿論地球の生命体の種類はコロニーと比較にならない程多いがね。危険度は宇宙の方が高いじゃないか。未知の生命程危ないものはないだろう? 紫外線は日除けクリームを塗っておくと良いさ。ドーマー達も使用している。日焼けで困っているドーマーなんて見たことないだろう?」
「しかし・・・西部劇の世界ですよね? 日陰が少ないんじゃないですか?」
「ハリス君、西部劇にだって家は出てくるだろう?」

 ケンウッドとハリスの遣り取りに、長官秘書のスメアがプッと吹きだした。お堅いネピアが彼女をチラリと非難の目で見た。長官が真面目に話をしているのに秘書が笑うとは何事か、と心の中で叱責したのだろう。
 ネピア・ドーマーがケンウッドの言葉が途切れた時に口を挟んだ。

「貴方は地球人の下で働くはお嫌か?」

 ハリスが初めて彼をまともに見た。

「僕はそんなことを問題にしているのではない。ドームの清浄な空気の外に出るのが不安なんだ。」
「では仕事に関して不満はないのか?」
「仕事の内容を何も知らないのに、不満も何も・・・」

 ハリスはそこで一拍置いて尋ねた。

「どんな仕事なんだ、支局長職と言うのは?」

 するとネピア・ドーマーは意地悪く答えた。

「貴方が支局長を引き受けると言うのなら、教える。断るのなら、教えない。時間の無駄だからだ。」

 ケンウッドがハリスの背中を押した。

「ドームから出れば取り立て屋が待ち構えているんだ、ハリス君。彼等は金融会社と地球人類復活委員会の取引をまだ知らない。君を捕らえたら直ぐに辺境開拓団の派遣会社に連れて行くだろう。そこで君はタダ働きさせる医者として開拓地へ送られる。
 2つに1つだ、ハリス君、支局長として中西部へ行くか、医者として辺境へ強制送致されるか?」

 ハリスは暫くは沈黙した。辺境開拓地と言うのは、数光年向こうの新規発見の惑星だ。ワープ航法で太陽系と行き来しているが、とても人間が住む場所とは思えない。開拓が始まって日が浅いので、人類居住に成功するカナメの農業がその星に根ずくかどうかの判定待ちだ。
 一方支局の方は、地球にあって地図に載っているし、そこへ行って事実を確認する方法もあった。
 たっぷり10分考えてから、ハリスは顔を上げた。

「支局長として一からやり直すことを選びます。」



2018年5月23日水曜日

泥酔者 16 - 3

「今、新しい仕事と仰いましたか?」

 レイモンド・ハリスが目をパチクリさせた。ケンウッドは頷いた。

「君の借金を地球人類復活委員会が利子も含めて全額肩代わりした。」
「えっ!」

 ハリスがポカンとした表情でケンウッドを見つめた。

「全額と仰いましたか?」

 ケンウッドはネピア・ドーマーがうんざりとした表情を見せたのに気が付いた。ハリスが長官の言葉を繰り返して確認するのがうざいのだ。このコロニー人は何故一回で理解できないのか? と言いたげだった。

「うん、全額だ。だから、今、君は金融会社ではなく、委員会から借金していることになっている。」
「それで・・・働けと?」
「うん。」
「しかし、僕は今朝クビになった筈です。」
「執政官としての身分を剥奪されたのだよ。地球人類復活委員会の仕事は他にもいっぱいある。」
「働いて金を返せと言うことですね? つまり僕は奴隷みたいに働いて給料をもらえない・・・」
「給与は出るよ。勿論、借金の返済分は月々天引きされるが、生活に必要な額は君の手元に残る。酒を飲まず、贅沢しなければ十分人並みの生活を送れると思いなさい。」

 ハリスは出てもいない額の汗を拭うふりをした。

「それは・・・どんな仕事でしょう?」

 彼はネピアがドーマーであることに気が付いた。スーツを着たドーマーは遺伝子管理局の職員だ。
 ケンウッドは可能な限り穏やかな口調で言った。

「遺伝子管理局北米南部班の中西部支局で支局長として勤めてもらいたい。」
「遺伝子管理局?」

 ハリスが目を丸くした。遺伝子管理局が地球人だけで運営されている役所であることは、彼の様に日が浅い人間でも知っている。
 するとネピア・ドーマーが口を開いた。

「支局長は名誉ある任務だ。ドームの外で暮らすと決意したドーマーのみがその任に就ける。ドームと地元を結ぶ重要な位置にいる。本来ならコロニー人に任せることは許されないが、現支局長が病気で急に辞めることになった。ローカルな都市だから元ドーマーが他にいない。それで、コロニーの学者である貴方に重責を負わせることになるが、異例の処置として後任が決まる迄の5年間をお願いしたい。」

 いつもはコロニー人相手に話す時は慇懃な口調になるネピア・ドーマーが、上から目線でハリスに語りかけたので、ケンウッドは内心驚いた。だが、それはハリスが嫌いだからと言う理由からではなく、支局長に局長の指示を与えるのが第1秘書だからだ、と気が付いた。ネピア・ドーマーはここで誰が上位なのかハリスに教えたのだ。
 ハリスの顔が強張った。ドーマーの下で働くのが嫌なのだな、とケンウッドは思ったので、宥めるつもりで言った。

「5年間の我慢だ。5年あれば君は借金の返済が出来る。委員会は利子を取らないからね。完済出来れば、君は晴れて自由の身になって故郷へ帰れる。」

 ところが、ハリスは予想外のことを言った。

「中西部って・・・紫外線や雑菌や放射能が多いんじゃないですか?」

2018年5月22日火曜日

泥酔者 16 - 2

 副長官後任決定は殆どの執政官達から好意的に承認された。ラナ・ゴーン博士は何度かアメリカ・ドームに仕事で立ち寄っていたので、女性達と親しく、それも歓迎の一因となった。彼女の専門は血液の遺伝子で、血液関係の病気の診断も行った。そして執行部ではコロニー人のボランティアから提供される卵子の遺伝子管理をしていたので、アメリカ・ドームではクローン製造部に籍を置くことになった。
 会議が終了すると、早速ブラコフは彼女を副長官執務室へ案内して行った。
 ケンウッドは長官執務室に戻った。秘書スペースでチャーリー・チャンとジャクリーン・スメアが真面目な顔で仕事をしていた。いつもなら長官が居ようが居まいが世間話をしながら手を動かしている彼等だが、その時は勝手が違った様だ。
 会議用テーブルの端に、遺伝子管理局長第一秘書ネピア・ドーマーが座って居た。お堅い秘書が来ているので、コロニー人の秘書達も彼に馬鹿にされまいと頑張っているのだ。ケンウッドは何となく可笑しく思いながら執務机に着き、ネピア・ドーマーに遺伝子管理局長の椅子に座るよう声を掛けた。ネピアが躊躇った。局長の崇拝者なので、局長の椅子に座るなど畏れ多いと感じているのだ。しかしケンウッドはこれからハリスを相手にするのだ。味方はそばにいるべきだと思ったので、命令だ、と言った。長官の命令は、ドーマーにとっては絶対だ。ネピア・ドーマーは渋々席を変えた。

「ここに来ている用件はわかっているね?」
「はい。局長から聞かされました。」
「驚いただろう?」
「正直・・・はい。」

 その堅い表情には、コロニー人が支局長職をするなんて言語道断、と書いてあった。
間も無く、スメアがレイモンド・ハリスの到来を告げた。
 ハリスは用心深く入って来た。初めてドームに来た時、彼は勝手に受付を通過して、勝手にこの部屋にやって来た。図々しく入って来た。だが今はすっかり打ちひしがれ、萎縮しているかの様に見えた。
 ハリスはチャンに案内された末席の椅子に座った。少し前迄ネピア・ドーマーが座って居た場所だ。ケンウッドは直ぐに用件に入った。

「ハリス博士、君はドームから退去した後の身の振り方をどうするつもりかね?」

 ハリスはちょっと笑みを浮かべようと口角を上げて見せた。

「急なことでしたので、何も考えていません。」
「そうだろうな・・・私は君を助手に格下げするつもりだったが、執行部が罷免せよと言って来たのでね・・・」
「これが初めてではありませんから。」

 ケンウッドはネピアをチラリと見た。本来なら局長がいる筈だが、ハイネはハリスが嫌いだ。同じ部屋にいたくないと言って、ネピアに一任したのだ。ネピアも秩序を乱すハリスが大嫌いなのだが。

「では、新しい仕事を引き受けてくれるね?」