2018年5月24日木曜日

泥酔者 16 - 4

 ネピア・ドーマーがムッとするのをケンウッドは気配で感じ、局長第1秘書が爆発する前に抑える目的でハリスに言った。

「地球の雑菌も放射線もコロニーとあまり変わらない。勿論地球の生命体の種類はコロニーと比較にならない程多いがね。危険度は宇宙の方が高いじゃないか。未知の生命程危ないものはないだろう? 紫外線は日除けクリームを塗っておくと良いさ。ドーマー達も使用している。日焼けで困っているドーマーなんて見たことないだろう?」
「しかし・・・西部劇の世界ですよね? 日陰が少ないんじゃないですか?」
「ハリス君、西部劇にだって家は出てくるだろう?」

 ケンウッドとハリスの遣り取りに、長官秘書のスメアがプッと吹きだした。お堅いネピアが彼女をチラリと非難の目で見た。長官が真面目に話をしているのに秘書が笑うとは何事か、と心の中で叱責したのだろう。
 ネピア・ドーマーがケンウッドの言葉が途切れた時に口を挟んだ。

「貴方は地球人の下で働くはお嫌か?」

 ハリスが初めて彼をまともに見た。

「僕はそんなことを問題にしているのではない。ドームの清浄な空気の外に出るのが不安なんだ。」
「では仕事に関して不満はないのか?」
「仕事の内容を何も知らないのに、不満も何も・・・」

 ハリスはそこで一拍置いて尋ねた。

「どんな仕事なんだ、支局長職と言うのは?」

 するとネピア・ドーマーは意地悪く答えた。

「貴方が支局長を引き受けると言うのなら、教える。断るのなら、教えない。時間の無駄だからだ。」

 ケンウッドがハリスの背中を押した。

「ドームから出れば取り立て屋が待ち構えているんだ、ハリス君。彼等は金融会社と地球人類復活委員会の取引をまだ知らない。君を捕らえたら直ぐに辺境開拓団の派遣会社に連れて行くだろう。そこで君はタダ働きさせる医者として開拓地へ送られる。
 2つに1つだ、ハリス君、支局長として中西部へ行くか、医者として辺境へ強制送致されるか?」

 ハリスは暫くは沈黙した。辺境開拓地と言うのは、数光年向こうの新規発見の惑星だ。ワープ航法で太陽系と行き来しているが、とても人間が住む場所とは思えない。開拓が始まって日が浅いので、人類居住に成功するカナメの農業がその星に根ずくかどうかの判定待ちだ。
 一方支局の方は、地球にあって地図に載っているし、そこへ行って事実を確認する方法もあった。
 たっぷり10分考えてから、ハリスは顔を上げた。

「支局長として一からやり直すことを選びます。」