2018年5月27日日曜日

泥酔者 16 - 6

  その日の夕刻、クロエル・ドーマーが率いる遺伝子管理局中米班がドームに帰投した。消毒を終えて送迎フロアに入ったクロエルは、そこでガブリエル・ブラコフ副長官と出会った。

「おヤァ? 副長官が僕ちゃんをお出迎えすか?」

 いつもの陽気なクロエル・ドーマーの声に、ブラコフは微笑んだ。

「そうだよ、と言いたいところだけど、お見送りだったんだ。新しい副長官が決まったんだよ。」

 クロエルが一瞬笑みを顔から消した。ブラコフの言葉の意味を素早く理解したからだ。
そして直ぐに何時ものひょうきんな表情に戻った。

「僕ちゃん、新任が決まらなきゃいいのに、と思ってたんすけどねぇ。決めちゃいましたか・・・」

 ブラコフが笑った。

「有り難いけど・・・僕は次の仕事も早くやってみたい、身勝手な人間だからね。それに、新任の名前を聞いたら、君はきっと喜ぶよ。」
「へぇ? まさか、パーシバル博士ってんじゃないでしょうね?」
「パーシバル博士は回診のお医者さんだ。それに重力障害でここには住めない。」
「そうでした・・・」

 クロエルは考えた。ブラコフの言い方だと、新任は彼が知っているコロニー人のようだ。ドームで働いている執政官だったら、見送る必要はないだろうし。過去に宇宙に帰って行ったコロニー人を色々と思い浮かべて見たが、副長官になりそうな人を思いつけなかった。

「誰なんすか? 降参しますよ。」

 ブラコフはクスクス笑った。クロエル・ドーマーは余りにも身近過ぎて養母の名前を思い出せないのだ。

「執行部のラナ・ゴーン博士だよ。」
「はぁ????」

 クロエル・ドーマーの大きな目が、さらに大きく見開かれた。

「冗談止して下さいよ、ガブリエル。 おっかさんが副長官だなんて・・・」
「冗談だと思うなら、本部に帰って任務完了報告する時にハイネ局長に確認してごらん。」
「ああ・・・」

 クロエルは思わず天を仰いだ。

「おかっさんが同じ屋根の下にいたら、羽目を外せないっす・・・」

 ブラコフはニヤリとした。新しい副長官の人柄を知るのに、クロエルは最適な情報源だと気が付いたからだ。

「クロエル、今日は金曜日だろ? 今夜一緒にバーで飲まないか?」
「いいっすよ・・・」

 クロエルが笑顔で答えた。

「僕ちゃん、今のうちに泥酔して羽目外せるだけ外しておきます。」