2018年5月23日水曜日

泥酔者 16 - 3

「今、新しい仕事と仰いましたか?」

 レイモンド・ハリスが目をパチクリさせた。ケンウッドは頷いた。

「君の借金を地球人類復活委員会が利子も含めて全額肩代わりした。」
「えっ!」

 ハリスがポカンとした表情でケンウッドを見つめた。

「全額と仰いましたか?」

 ケンウッドはネピア・ドーマーがうんざりとした表情を見せたのに気が付いた。ハリスが長官の言葉を繰り返して確認するのがうざいのだ。このコロニー人は何故一回で理解できないのか? と言いたげだった。

「うん、全額だ。だから、今、君は金融会社ではなく、委員会から借金していることになっている。」
「それで・・・働けと?」
「うん。」
「しかし、僕は今朝クビになった筈です。」
「執政官としての身分を剥奪されたのだよ。地球人類復活委員会の仕事は他にもいっぱいある。」
「働いて金を返せと言うことですね? つまり僕は奴隷みたいに働いて給料をもらえない・・・」
「給与は出るよ。勿論、借金の返済分は月々天引きされるが、生活に必要な額は君の手元に残る。酒を飲まず、贅沢しなければ十分人並みの生活を送れると思いなさい。」

 ハリスは出てもいない額の汗を拭うふりをした。

「それは・・・どんな仕事でしょう?」

 彼はネピアがドーマーであることに気が付いた。スーツを着たドーマーは遺伝子管理局の職員だ。
 ケンウッドは可能な限り穏やかな口調で言った。

「遺伝子管理局北米南部班の中西部支局で支局長として勤めてもらいたい。」
「遺伝子管理局?」

 ハリスが目を丸くした。遺伝子管理局が地球人だけで運営されている役所であることは、彼の様に日が浅い人間でも知っている。
 するとネピア・ドーマーが口を開いた。

「支局長は名誉ある任務だ。ドームの外で暮らすと決意したドーマーのみがその任に就ける。ドームと地元を結ぶ重要な位置にいる。本来ならコロニー人に任せることは許されないが、現支局長が病気で急に辞めることになった。ローカルな都市だから元ドーマーが他にいない。それで、コロニーの学者である貴方に重責を負わせることになるが、異例の処置として後任が決まる迄の5年間をお願いしたい。」

 いつもはコロニー人相手に話す時は慇懃な口調になるネピア・ドーマーが、上から目線でハリスに語りかけたので、ケンウッドは内心驚いた。だが、それはハリスが嫌いだからと言う理由からではなく、支局長に局長の指示を与えるのが第1秘書だからだ、と気が付いた。ネピア・ドーマーはここで誰が上位なのかハリスに教えたのだ。
 ハリスの顔が強張った。ドーマーの下で働くのが嫌なのだな、とケンウッドは思ったので、宥めるつもりで言った。

「5年間の我慢だ。5年あれば君は借金の返済が出来る。委員会は利子を取らないからね。完済出来れば、君は晴れて自由の身になって故郷へ帰れる。」

 ところが、ハリスは予想外のことを言った。

「中西部って・・・紫外線や雑菌や放射能が多いんじゃないですか?」