2018年5月22日火曜日

泥酔者 16 - 2

 副長官後任決定は殆どの執政官達から好意的に承認された。ラナ・ゴーン博士は何度かアメリカ・ドームに仕事で立ち寄っていたので、女性達と親しく、それも歓迎の一因となった。彼女の専門は血液の遺伝子で、血液関係の病気の診断も行った。そして執行部ではコロニー人のボランティアから提供される卵子の遺伝子管理をしていたので、アメリカ・ドームではクローン製造部に籍を置くことになった。
 会議が終了すると、早速ブラコフは彼女を副長官執務室へ案内して行った。
 ケンウッドは長官執務室に戻った。秘書スペースでチャーリー・チャンとジャクリーン・スメアが真面目な顔で仕事をしていた。いつもなら長官が居ようが居まいが世間話をしながら手を動かしている彼等だが、その時は勝手が違った様だ。
 会議用テーブルの端に、遺伝子管理局長第一秘書ネピア・ドーマーが座って居た。お堅い秘書が来ているので、コロニー人の秘書達も彼に馬鹿にされまいと頑張っているのだ。ケンウッドは何となく可笑しく思いながら執務机に着き、ネピア・ドーマーに遺伝子管理局長の椅子に座るよう声を掛けた。ネピアが躊躇った。局長の崇拝者なので、局長の椅子に座るなど畏れ多いと感じているのだ。しかしケンウッドはこれからハリスを相手にするのだ。味方はそばにいるべきだと思ったので、命令だ、と言った。長官の命令は、ドーマーにとっては絶対だ。ネピア・ドーマーは渋々席を変えた。

「ここに来ている用件はわかっているね?」
「はい。局長から聞かされました。」
「驚いただろう?」
「正直・・・はい。」

 その堅い表情には、コロニー人が支局長職をするなんて言語道断、と書いてあった。
間も無く、スメアがレイモンド・ハリスの到来を告げた。
 ハリスは用心深く入って来た。初めてドームに来た時、彼は勝手に受付を通過して、勝手にこの部屋にやって来た。図々しく入って来た。だが今はすっかり打ちひしがれ、萎縮しているかの様に見えた。
 ハリスはチャンに案内された末席の椅子に座った。少し前迄ネピア・ドーマーが座って居た場所だ。ケンウッドは直ぐに用件に入った。

「ハリス博士、君はドームから退去した後の身の振り方をどうするつもりかね?」

 ハリスはちょっと笑みを浮かべようと口角を上げて見せた。

「急なことでしたので、何も考えていません。」
「そうだろうな・・・私は君を助手に格下げするつもりだったが、執行部が罷免せよと言って来たのでね・・・」
「これが初めてではありませんから。」

 ケンウッドはネピアをチラリと見た。本来なら局長がいる筈だが、ハイネはハリスが嫌いだ。同じ部屋にいたくないと言って、ネピアに一任したのだ。ネピアも秩序を乱すハリスが大嫌いなのだが。

「では、新しい仕事を引き受けてくれるね?」