セント・アイブス出張所の所長リュック・ニュカネンとローズタウン支局の支局長トーマス・クーパーは仲が良いとは言えなかったが、ダリル達が捕まえたFOKのメンバーと思しきモア兄弟を取り調べる警察の証人として揃ってセント・アイブス警察に向かった。ニュカネンが兄のジョン・モアを、クーパーが弟のガブリエル・モアを知っていたからだ。
ダリルは出張所に残ったヒギンズと挨拶をした程度でそれ以上の接触は避けた。囮捜査官にとって、知古の人間と出会うことは時に命取りとなるからだ。
静音ヘリにパトリック・タン・ドーマーとジョン・ケリー・ドーマーを乗せて出張所から支局へ飛び、給油してからドームに向かった。途中、機内で目を覚ましたタンが錯乱状態に陥ったのでケリーが素早く麻酔を打った。再びぐったりとした同僚を見て、ケリーは哀しそうに呟いた。
「ヤツらはパットに何をしたのでしょうね。」
「恐らく、パットは誰にも言いたくないだろう。体の傷より精神的なダメージの方が心配だな。」
ダリルもケリーも何となくタンの身に起きたことが想像出来たので、胸が悪くなる思いだった。
ドームに到着すると、いつもの消毒が待ち構えていた。ダリルは消毒班のドーマー達にタンの扱いを慎重にするよう注意を与えることを忘れなかった。
ダリルは私服で出かけたのだが、その衣服を洗濯に出したので代わりに着せられたのはスーツだった。
ジョン・ケリー共々消毒と着替えを終えると、遺伝子管理局本部へ戻った。普通なら各自のオフィスに入って報告書を作成するのだが、2人共局長室に呼ばれた。嫌な呼び出しだ。ダリルはヘリコプターの無断操縦、ケリーは同僚とはぐれてその結果同僚を危険な目に遭わせてしまったと言う負い目があった。どちらも叱られるのを覚悟で局長室に入った。
ローガン・ハイネ・ドーマーはコンピュータの前で何やら忙しそうにキーを叩いていた。ダリルとケリーは秘書に案内された場所でただ突っ立って局長が気づいてくれるのを待つ他なかった。
たっぷり5分間立たされてから、やっと局長が声を発した。
「ジョン・ケリー・ドーマー、同僚が災難に遭ったからと言って自身を責める必要はないぞ。」
「えっ?・・・あの・・・」
ケリーはもじもじした。
「パトリック・タン・ドーマーが攫われたのは、彼自身に油断があったからだ。君が責任を感じていると知ったら、パットの立つ瀬がないだろう。」
ハイネ局長が顔を上げた。
「今、医療区から簡単なタンの診療所見が届いた。身体的拷問を受けていた。恐らく、精神的なダメージが残るだろう暴力だ。」
ダリルもケリーも彼が言っている意味を悟った。ケリーが両手をグッと握りしめるのをダリルは視野の端っこで見ていた。局長はまた画面に視線を戻した。
「パットを哀れむな。あれは今混乱しているが、静養すればすぐに立ち直る。君が同情するのは却って迷惑だろう。君がやるべきことは彼の身に起きたことを忘れてFOKを倒すことだ。」
ケリーは大きく息を吐いた。そうやって感情の爆発を止めた。そしてかすれた声で応えた。
「わかりました。では、これからも囮捜査に協力するのですね?」
「他の局員達は引き揚げさせる。遺伝子管理局の仕事を停滞させる訳にはいかない。しかしヒギンズの捜査にはまだ本物の局員のサポートが要るだろう。君は当分専属で彼について行くが良い。レインには私から話しておく。」
「了解しました。」
「オフィスに戻って報告を作成しろ。終わったら休め。」
ケリーは「失礼します」と挨拶して、ダリルに頷くと、部屋から出て行った。
ダリルは出張所に残ったヒギンズと挨拶をした程度でそれ以上の接触は避けた。囮捜査官にとって、知古の人間と出会うことは時に命取りとなるからだ。
静音ヘリにパトリック・タン・ドーマーとジョン・ケリー・ドーマーを乗せて出張所から支局へ飛び、給油してからドームに向かった。途中、機内で目を覚ましたタンが錯乱状態に陥ったのでケリーが素早く麻酔を打った。再びぐったりとした同僚を見て、ケリーは哀しそうに呟いた。
「ヤツらはパットに何をしたのでしょうね。」
「恐らく、パットは誰にも言いたくないだろう。体の傷より精神的なダメージの方が心配だな。」
ダリルもケリーも何となくタンの身に起きたことが想像出来たので、胸が悪くなる思いだった。
ドームに到着すると、いつもの消毒が待ち構えていた。ダリルは消毒班のドーマー達にタンの扱いを慎重にするよう注意を与えることを忘れなかった。
ダリルは私服で出かけたのだが、その衣服を洗濯に出したので代わりに着せられたのはスーツだった。
ジョン・ケリー共々消毒と着替えを終えると、遺伝子管理局本部へ戻った。普通なら各自のオフィスに入って報告書を作成するのだが、2人共局長室に呼ばれた。嫌な呼び出しだ。ダリルはヘリコプターの無断操縦、ケリーは同僚とはぐれてその結果同僚を危険な目に遭わせてしまったと言う負い目があった。どちらも叱られるのを覚悟で局長室に入った。
ローガン・ハイネ・ドーマーはコンピュータの前で何やら忙しそうにキーを叩いていた。ダリルとケリーは秘書に案内された場所でただ突っ立って局長が気づいてくれるのを待つ他なかった。
たっぷり5分間立たされてから、やっと局長が声を発した。
「ジョン・ケリー・ドーマー、同僚が災難に遭ったからと言って自身を責める必要はないぞ。」
「えっ?・・・あの・・・」
ケリーはもじもじした。
「パトリック・タン・ドーマーが攫われたのは、彼自身に油断があったからだ。君が責任を感じていると知ったら、パットの立つ瀬がないだろう。」
ハイネ局長が顔を上げた。
「今、医療区から簡単なタンの診療所見が届いた。身体的拷問を受けていた。恐らく、精神的なダメージが残るだろう暴力だ。」
ダリルもケリーも彼が言っている意味を悟った。ケリーが両手をグッと握りしめるのをダリルは視野の端っこで見ていた。局長はまた画面に視線を戻した。
「パットを哀れむな。あれは今混乱しているが、静養すればすぐに立ち直る。君が同情するのは却って迷惑だろう。君がやるべきことは彼の身に起きたことを忘れてFOKを倒すことだ。」
ケリーは大きく息を吐いた。そうやって感情の爆発を止めた。そしてかすれた声で応えた。
「わかりました。では、これからも囮捜査に協力するのですね?」
「他の局員達は引き揚げさせる。遺伝子管理局の仕事を停滞させる訳にはいかない。しかしヒギンズの捜査にはまだ本物の局員のサポートが要るだろう。君は当分専属で彼について行くが良い。レインには私から話しておく。」
「了解しました。」
「オフィスに戻って報告を作成しろ。終わったら休め。」
ケリーは「失礼します」と挨拶して、ダリルに頷くと、部屋から出て行った。