さあ、次は己の番だ。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは腹をくくって立っていた。
ローガン・ハイネ遺伝子管理局局長は再びキーを叩きながら言った。
「航空班から君の違反行為に対する苦情が3件届いている。静音ヘリの無断使用、無免許操縦、無許可フライトだ。」
こんな場合、ひたすら謝ると言うことを、ダリルは幼少の頃から実行してきた。
「申し訳ありません、一刻も早くタンを救出しなければと気が逸って、周囲の迷惑を顧みず身勝手な行動を取ってしまいました。チーフ・レインからもきつく叱られました。」
「確かに、レインから『叱っておきました』と報告が来た。」
ハイネ局長は、幼馴染みで恋人のレインの小言などダリルが屁とも思っていないことを承知していた。
「君自身は事の重大さを全く理解しておらんようだ。」
「・・・と仰いますと?」
「ほら、その態度!」
局長が顔をダリルに向けた。
「軽ジェット機より高価な静音ヘリを乗り逃げしたと言う、しょーもない違反では済まないことを君はやったんだぞ!」
ライサンダー・セイヤーズ製造費より高価なヘリコプターを無断で操縦したことより大きな問題って何だ? ダリルはぽかんとして上司を見つめた。
ハイネ局長は哀しげな顔をした。
「君は何故進化型1級遺伝子保有者がドームから出してもらえないのか、理解していないのか?」
「それは・・・本来地球人にはない遺伝子が拡散するのを防ぐ為で・・・」
「だから、何故そんな遺伝子が地球に存在してはならないと考えられるのか、わからないのか?」
「・・・」
ダリルは今朝トーラス野生動物保護団体ビルに侵入した時にクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが言ったことを思い出した。ビルの厳重なセキュリティシステムをいとも簡単に無力化してしまったダリルを見て、クラウスは「なんで貴方がドームから出してもらえないのか、よ〜くわかりました。」と言ったのだ。
「でも、セキュリティシステムは宇宙にもあるし・・・」
「宇宙船操縦士はな・・・一生宇宙船の中で過ごすんだ。彼等はコロニーには住まないのだ。生まれてから死ぬ迄、機械に囲まれて過ごすのだ。」
「・・・」
「君は人間が好きだろう? 機械相手に一生過ごすより、レインやワグナーと一緒に働いていた方が楽しいだろう?」
「勿論です!」
「だったら、そのずば抜けて優秀な脳をもっと鈍らせておけ。今回の行動が執政官達に知られたら、観察棟に幽閉されて2度と外に出られなくなるぞ。」
ダリルは心から反省した。ローガン・ハイネ・ドーマーが彼のことを心底心配してくれていることを理解したからだ。局長が怒っているのは、彼の違反行為ではなく軽率さに対してだったから。
「本当に申し訳ありませんでした。2度としません。」
しゅんとしたダリルを数十秒間ハイネ局長は見つめた。
やがて、彼は口元に優しい微笑を浮かべた。
「これに懲りてくれぐれも自重しろ。タンを無事救出した功績に対して今回のことは不問にする。航空班には私から謝っておくが、君も今からすぐに謝罪文を班長に書いて送れ。さもないと次回から外での移動は動物用貨物室に乗せられるぞ。」
ドームの航空班の主たる仕事は、全米から妊産婦を無事にドームと居住地の間を送迎することだ。遺伝子管理局の送迎は彼等にとって「ほんの手間仕事」に過ぎない。その「手間」に面倒を掛けられたくないのだ。
ダリルは小さくなったまま、局長室を退出し、言われたことをする為にポール・レイン・ドーマーのオフィスに向かった。当分は自粛だ。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは腹をくくって立っていた。
ローガン・ハイネ遺伝子管理局局長は再びキーを叩きながら言った。
「航空班から君の違反行為に対する苦情が3件届いている。静音ヘリの無断使用、無免許操縦、無許可フライトだ。」
こんな場合、ひたすら謝ると言うことを、ダリルは幼少の頃から実行してきた。
「申し訳ありません、一刻も早くタンを救出しなければと気が逸って、周囲の迷惑を顧みず身勝手な行動を取ってしまいました。チーフ・レインからもきつく叱られました。」
「確かに、レインから『叱っておきました』と報告が来た。」
ハイネ局長は、幼馴染みで恋人のレインの小言などダリルが屁とも思っていないことを承知していた。
「君自身は事の重大さを全く理解しておらんようだ。」
「・・・と仰いますと?」
「ほら、その態度!」
局長が顔をダリルに向けた。
「軽ジェット機より高価な静音ヘリを乗り逃げしたと言う、しょーもない違反では済まないことを君はやったんだぞ!」
ライサンダー・セイヤーズ製造費より高価なヘリコプターを無断で操縦したことより大きな問題って何だ? ダリルはぽかんとして上司を見つめた。
ハイネ局長は哀しげな顔をした。
「君は何故進化型1級遺伝子保有者がドームから出してもらえないのか、理解していないのか?」
「それは・・・本来地球人にはない遺伝子が拡散するのを防ぐ為で・・・」
「だから、何故そんな遺伝子が地球に存在してはならないと考えられるのか、わからないのか?」
「・・・」
ダリルは今朝トーラス野生動物保護団体ビルに侵入した時にクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが言ったことを思い出した。ビルの厳重なセキュリティシステムをいとも簡単に無力化してしまったダリルを見て、クラウスは「なんで貴方がドームから出してもらえないのか、よ〜くわかりました。」と言ったのだ。
「でも、セキュリティシステムは宇宙にもあるし・・・」
「宇宙船操縦士はな・・・一生宇宙船の中で過ごすんだ。彼等はコロニーには住まないのだ。生まれてから死ぬ迄、機械に囲まれて過ごすのだ。」
「・・・」
「君は人間が好きだろう? 機械相手に一生過ごすより、レインやワグナーと一緒に働いていた方が楽しいだろう?」
「勿論です!」
「だったら、そのずば抜けて優秀な脳をもっと鈍らせておけ。今回の行動が執政官達に知られたら、観察棟に幽閉されて2度と外に出られなくなるぞ。」
ダリルは心から反省した。ローガン・ハイネ・ドーマーが彼のことを心底心配してくれていることを理解したからだ。局長が怒っているのは、彼の違反行為ではなく軽率さに対してだったから。
「本当に申し訳ありませんでした。2度としません。」
しゅんとしたダリルを数十秒間ハイネ局長は見つめた。
やがて、彼は口元に優しい微笑を浮かべた。
「これに懲りてくれぐれも自重しろ。タンを無事救出した功績に対して今回のことは不問にする。航空班には私から謝っておくが、君も今からすぐに謝罪文を班長に書いて送れ。さもないと次回から外での移動は動物用貨物室に乗せられるぞ。」
ドームの航空班の主たる仕事は、全米から妊産婦を無事にドームと居住地の間を送迎することだ。遺伝子管理局の送迎は彼等にとって「ほんの手間仕事」に過ぎない。その「手間」に面倒を掛けられたくないのだ。
ダリルは小さくなったまま、局長室を退出し、言われたことをする為にポール・レイン・ドーマーのオフィスに向かった。当分は自粛だ。