2017年10月25日水曜日

退出者 2 - 1

 ケンウッドの副長官執務室に遺伝子管理局北米南部班第3チームのチームリーダー、トバイアス・ジョンソン・ドーマーが面会に訪れたのは2日後だった。支局巡りの日程表を提出して、ケンウッドの都合を確認しに来たのだ。

「ニュカネンに同行を希望されていますが、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ニュカネンに最初に声を掛けたから・・・と言うだけでは駄目かな?」

 ケンウッドはジョンソン・ドーマーのよく日焼けした顔を見ながら微笑んだ。ドーマー達は紫外線遮断のクリームを塗って出かけるのが習慣になっているが、ジョンソンは気にしないようだ。面倒臭いのかも知れない。

「ニュカネンが堅物で通っていることは承知しているよ、ジョンソン・ドーマー。そして私も堅物なんだ。堅物同士、互いの邪魔にならない様に大人しくついて行くつもりだ。職務に専念してもらって結構。観光案内など無用だ。」
「上司の僕が言うのも何ですが、ニュカネンは話し相手になりませんよ。退屈なさると思いますが・・・」
「私もお喋りは苦手だ。黙っていてくれた方が気が楽だから。」

 日程表にはニュカネン以外の局員の名も書かれていた。ドーマー達はドーム空港から飛行機でローズタウンに行く。そこから散開して周辺都市へ2人1組で出かけるのだ。遺伝子関係の研究施設の抜き打ち検査に入ったり、支局に出された申請書に不備があったり不審な点があれば提出者を直接訪問して面談したり、ダリル・セイヤーズ・ドーマーを探したり・・・。
 ケンウッドはニュカネンと今回組むことになっているドーマーの名前を見て不安に襲われた。思わずジョンソン・ドーマーの顔を見た。

「この組み合わせは君が考えたのか?」
「そうですが?」
「私が聞いた情報では、ニュカネンとレインは犬猿の仲だそうだが・・・?」
「確かにそうですが、勤務中は彼等はきちんとやりますから・・・それに2人を外してばかりいては、他の局員に示しが付きませんし。」
「・・・それもそうだな。」

 ケンウッドはジョンソン・ドーマーが笑いを堪えているのをうっすらと感じた。恐らくこのチームリーダーはケンウッドを間に入れてニュカネンとレインの仲違いを緩和させようと言うつもりだろう。

「局長にはこの組み合わせを報告しているかい?」
「いいえ。」

 ジョンソンは何を訊くのか、と言う顔をした。

「局員のシフトなど一々局長に報告しません。局員自身が後で報告書を書いて提出しますし、班チーフが把握していればそれで充分です。」

 ケンウッドは遺伝子管理局の業務体制を何も知らないことを知った。これはレインかニュカネンから道中教わっておこう、と思った。