自動車は遺伝子管理局の公用車、黒塗りのセダンだった。ロゴなどは入っていないが、地球人はこの車を一目見れば中に乗っている人物がドーム関係者だとわかる。それが世界の常識だった。 ケンウッドはお忍びのつもりだったので、車を見てがっかりした。もう少しスポーティでスマートなスタイルの車に乗りたかった。地球の自動車事情はかなりバラエティに富んで面白いのに、どうして黒塗りのありふれたださい車種なのだ?
車の前でレインが立ち止まり、チームリーダーを振り返った。
「ジョンソン・ドーマー、俺達はこの車で良かったですか? 副長官も乗られるので目立たない車の方が良くありませんか?」
ポール・レイン・ドーマーはこう言う気配りが出来る男だ。無愛想だが他人のことはちゃんと見ている。ケンウッドが黒塗りの車を見てげんなりしたのを見逃さなかった。
ジョンソンは駐車場をさっと見廻して答えた。
「他に車の用意がないから、これで我慢するしかないだろう。レンタカーでは防弾ガラスは期待出来ないからな。」
局員達は支局の建物と空港の搭乗棟を見た。支局の人間に我が儘を言うのは平気だが、わざわざその場にいない人間を呼びつけることはしなかった。
「マルホランドは安全第一で考えてくれたのだろう。これでかまわないよ。」
とケンウッドが言ったので、局員達は素直に折れてくれた。ジョンソンが部下達に翌日の午後6時に支局に集合と伝え、彼等は散開した。
レインが素早く黒塗りの車の運転席に乗り込んだ。ニュカネンに運転させたくないのだ。堅物のニュカネンは制限速度遵守で、レインの性格では苛々するのだろう。ケンウッドはニュカネンに声を掛けた。
「私が前に乗っても良いかな?」
「そちらがお好きなのでしたら・・・」
ニュカネンは喧嘩仲間のレインの後ろで満足するだろう。助手席に乗ったりしたら、ケンウッドはずっと口喧嘩を聞かされるはめになるだけだ。
3人がシートベルトを締めるとすぐに車のエンジンがかかり、滑るように走り出した。レインが既に行き先を入力しているので、車は迷うことなく交差点を曲がり、幹線道路に入った。
「セント・アイブスまでは1時間の行程です。」
とレインが説明した。
「砂漠に草が生えている平原を走るので、変化のない風景が続きます。途中で大異変前に存在した街の遺跡が見えます。もし興味がおありでしたら、立ち寄ります。」
すると早速ニュカネンが反対した。
「副長官に昼食を召し上がっていただかなければいけないだろう? 寄り道せずに走れよ。」
「俺は副長官と話してるんだよ。」
「副長官はセント・アイブスにご用があるのだ。遺跡なんて論外だ。」
ケンウッドはドーマー達の喧嘩が面白かったのだが、仲裁に入らなければならなくなった。自分の名前が出ているのだから、何か意見しなければならない。
「2人共心遣い有り難う。 レイン、私は遺跡に大いに興味がある。しかし、今回は仕事だから私自身の好奇心は抑えておくよ。君が私の趣味を覚えていてくれたので驚いた。次の機会に案内してもらえると嬉しいな。
ニュカネン、本当は君もお腹が空いているのだろう? 早く目的地に着いてお昼にしような。」
ほらな、とニュカネンが勝った気分で呟いた。レインは黙り込んだ。ニュカネンに負けたのが悔しいのではなかった。ケンウッドの穏やかな口調が、彼が懐いていたヘンリー・パーシバル博士を思い出させたのだ。ケンウッドとパーシバルは親友同士なので頻繁に連絡を取り合っているが、地球人から宇宙に居るコロニー人に連絡を入れることは出来ない。レインは悩み事を聞いてくれる人がいなくなって寂しいのだ。ケンウッドは副長官なので多忙でなかなかドーマー達の相手をしてやれなかった。上司に相談すればと言いたいところだが、トバイアス・ジョンソン・ドーマーはレインの目から見て頼り甲斐があるとは思えないのだろう。
ケンウッドは話題を変えることにした。
「レイン、セイヤーズの捜索はどんな方法でやっているのだね?」
車の前でレインが立ち止まり、チームリーダーを振り返った。
「ジョンソン・ドーマー、俺達はこの車で良かったですか? 副長官も乗られるので目立たない車の方が良くありませんか?」
ポール・レイン・ドーマーはこう言う気配りが出来る男だ。無愛想だが他人のことはちゃんと見ている。ケンウッドが黒塗りの車を見てげんなりしたのを見逃さなかった。
ジョンソンは駐車場をさっと見廻して答えた。
「他に車の用意がないから、これで我慢するしかないだろう。レンタカーでは防弾ガラスは期待出来ないからな。」
局員達は支局の建物と空港の搭乗棟を見た。支局の人間に我が儘を言うのは平気だが、わざわざその場にいない人間を呼びつけることはしなかった。
「マルホランドは安全第一で考えてくれたのだろう。これでかまわないよ。」
とケンウッドが言ったので、局員達は素直に折れてくれた。ジョンソンが部下達に翌日の午後6時に支局に集合と伝え、彼等は散開した。
レインが素早く黒塗りの車の運転席に乗り込んだ。ニュカネンに運転させたくないのだ。堅物のニュカネンは制限速度遵守で、レインの性格では苛々するのだろう。ケンウッドはニュカネンに声を掛けた。
「私が前に乗っても良いかな?」
「そちらがお好きなのでしたら・・・」
ニュカネンは喧嘩仲間のレインの後ろで満足するだろう。助手席に乗ったりしたら、ケンウッドはずっと口喧嘩を聞かされるはめになるだけだ。
3人がシートベルトを締めるとすぐに車のエンジンがかかり、滑るように走り出した。レインが既に行き先を入力しているので、車は迷うことなく交差点を曲がり、幹線道路に入った。
「セント・アイブスまでは1時間の行程です。」
とレインが説明した。
「砂漠に草が生えている平原を走るので、変化のない風景が続きます。途中で大異変前に存在した街の遺跡が見えます。もし興味がおありでしたら、立ち寄ります。」
すると早速ニュカネンが反対した。
「副長官に昼食を召し上がっていただかなければいけないだろう? 寄り道せずに走れよ。」
「俺は副長官と話してるんだよ。」
「副長官はセント・アイブスにご用があるのだ。遺跡なんて論外だ。」
ケンウッドはドーマー達の喧嘩が面白かったのだが、仲裁に入らなければならなくなった。自分の名前が出ているのだから、何か意見しなければならない。
「2人共心遣い有り難う。 レイン、私は遺跡に大いに興味がある。しかし、今回は仕事だから私自身の好奇心は抑えておくよ。君が私の趣味を覚えていてくれたので驚いた。次の機会に案内してもらえると嬉しいな。
ニュカネン、本当は君もお腹が空いているのだろう? 早く目的地に着いてお昼にしような。」
ほらな、とニュカネンが勝った気分で呟いた。レインは黙り込んだ。ニュカネンに負けたのが悔しいのではなかった。ケンウッドの穏やかな口調が、彼が懐いていたヘンリー・パーシバル博士を思い出させたのだ。ケンウッドとパーシバルは親友同士なので頻繁に連絡を取り合っているが、地球人から宇宙に居るコロニー人に連絡を入れることは出来ない。レインは悩み事を聞いてくれる人がいなくなって寂しいのだ。ケンウッドは副長官なので多忙でなかなかドーマー達の相手をしてやれなかった。上司に相談すればと言いたいところだが、トバイアス・ジョンソン・ドーマーはレインの目から見て頼り甲斐があるとは思えないのだろう。
ケンウッドは話題を変えることにした。
「レイン、セイヤーズの捜索はどんな方法でやっているのだね?」