ローズタウンの空港に到着したのはお昼前だった。飛行機は静かに垂直着陸して、それから滑走路を移動し、搭乗棟に横付けした。
最初に降りるのは人数が少ない遺伝子管理局の北米南部班第3チームだ。ケンウッドも1泊用の手荷物を持って遅れないように局員達に付いて行った。ローズタウンは晴れていた。乾いた空気が、乾燥地帯の入り口にある街であることを教えてくれた。空港の周囲に植えられているバラは、街の名にちなんだもので、バラがあるからローズタウンになったのではない。
地上では、遺伝子管理局ローズタウン支局の支局長カイル・マルホランド元ドーマーが立っていて、ケンウッドを出迎えた。普通は局員を出迎えたりしないのだが、副長官が来たので空港の隣にある支局の建物からやって来たのだ。
カイル・マルホランドは現役時代は平の局員で幹部経験がなかった。遺伝子管理局だけでなく、ドーム全体で、特別職に就けるドーマーは幹部経験がない人間を選ぶことになっている。これは、(驚くべくことに)ローガン・ハイネ・ドーマー遺伝子管理局長も例外ではなかった。だからマルホランドは現役時代はチームリーダーより下位に居たのだが、支局長になった現在は班チーフより上位に居る。
トバイアス・ジョンソン・ドーマーは支局の建物に入って支局長に挨拶する手間が省けたので内心喜んでいた。マルホランドが嫌いと言う訳ではなく、彼は早く任務に取りかかりたいだけだった。支局内のドーマーの為の休憩室でお茶を飲んで時間を無駄にしたくなかった。ドーマーは抗原注射の効力がある48時間内に仕事をしなければならない。時間切れになれば、肺炎やインフルエンザなどの感染症の恐怖が待っているのだ。ドームの外で暮らす普通の地球人にとってそれほど重い病気でない感冒も、清潔な空気の中で育ったドーマーにとって恐怖の対象だった。
ケンウッドとマルホランドは初対面だった。ケンウッドが地球に赴任してきた年の初めに彼はドームを卒業したのだ。
「ローズタウンへようこそ! ローズタウン支局長カイル・マルホランドです。」
握手を交わして、ケンウッドは余り大きな声を出さないよう心がけながら名乗った。
「アメリカ・ドーム副長官のニコラス・ケンウッドだ。 今回は個人的な興味でセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンを視察する。支局の業務の邪魔にならないよう心がけるので、どうか気を遣わないで頂きたい。」
マルホランドは支局巡りをする現役局員達から情報を仕入れているのだろう。ケンウッドの挨拶が真心の篭もったものであると解釈してくれた。
「わかりました。支局の駐車場に車を用意しております。同行の局員共々気をつけて行ってらっしゃい。」
元局員らしく、現役には無駄にする時間がないと承知している。支局長は駐車場の方角を手で示しただけで、後は副長官と現役局員の自主性に任せた。彼は局員の後ろから赤ん坊を連れて降りてくる女性達とその家族を出迎える仕事もあった。
ケンウッドがレインとニュカネンのそばに行くと、レインが支局長をやんわりと批判した。
「あの男はいつも手抜かりなく準備して待っていてくれますが、要するに俺達現役に文句を言われたくないだけなんです。」
ケンウッドは苦笑した。レインは接触テレパス能力を持っているせいで、人の心の裏面を見てしまう。
ニュカネンは真新しい紙の束をぼんやりと見ていた。
最初に降りるのは人数が少ない遺伝子管理局の北米南部班第3チームだ。ケンウッドも1泊用の手荷物を持って遅れないように局員達に付いて行った。ローズタウンは晴れていた。乾いた空気が、乾燥地帯の入り口にある街であることを教えてくれた。空港の周囲に植えられているバラは、街の名にちなんだもので、バラがあるからローズタウンになったのではない。
地上では、遺伝子管理局ローズタウン支局の支局長カイル・マルホランド元ドーマーが立っていて、ケンウッドを出迎えた。普通は局員を出迎えたりしないのだが、副長官が来たので空港の隣にある支局の建物からやって来たのだ。
カイル・マルホランドは現役時代は平の局員で幹部経験がなかった。遺伝子管理局だけでなく、ドーム全体で、特別職に就けるドーマーは幹部経験がない人間を選ぶことになっている。これは、(驚くべくことに)ローガン・ハイネ・ドーマー遺伝子管理局長も例外ではなかった。だからマルホランドは現役時代はチームリーダーより下位に居たのだが、支局長になった現在は班チーフより上位に居る。
トバイアス・ジョンソン・ドーマーは支局の建物に入って支局長に挨拶する手間が省けたので内心喜んでいた。マルホランドが嫌いと言う訳ではなく、彼は早く任務に取りかかりたいだけだった。支局内のドーマーの為の休憩室でお茶を飲んで時間を無駄にしたくなかった。ドーマーは抗原注射の効力がある48時間内に仕事をしなければならない。時間切れになれば、肺炎やインフルエンザなどの感染症の恐怖が待っているのだ。ドームの外で暮らす普通の地球人にとってそれほど重い病気でない感冒も、清潔な空気の中で育ったドーマーにとって恐怖の対象だった。
ケンウッドとマルホランドは初対面だった。ケンウッドが地球に赴任してきた年の初めに彼はドームを卒業したのだ。
「ローズタウンへようこそ! ローズタウン支局長カイル・マルホランドです。」
握手を交わして、ケンウッドは余り大きな声を出さないよう心がけながら名乗った。
「アメリカ・ドーム副長官のニコラス・ケンウッドだ。 今回は個人的な興味でセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンを視察する。支局の業務の邪魔にならないよう心がけるので、どうか気を遣わないで頂きたい。」
マルホランドは支局巡りをする現役局員達から情報を仕入れているのだろう。ケンウッドの挨拶が真心の篭もったものであると解釈してくれた。
「わかりました。支局の駐車場に車を用意しております。同行の局員共々気をつけて行ってらっしゃい。」
元局員らしく、現役には無駄にする時間がないと承知している。支局長は駐車場の方角を手で示しただけで、後は副長官と現役局員の自主性に任せた。彼は局員の後ろから赤ん坊を連れて降りてくる女性達とその家族を出迎える仕事もあった。
ケンウッドがレインとニュカネンのそばに行くと、レインが支局長をやんわりと批判した。
「あの男はいつも手抜かりなく準備して待っていてくれますが、要するに俺達現役に文句を言われたくないだけなんです。」
ケンウッドは苦笑した。レインは接触テレパス能力を持っているせいで、人の心の裏面を見てしまう。
ニュカネンは真新しい紙の束をぼんやりと見ていた。