ベテランドーマー達のバンド「ザ・クレスツ」はたっぷり5曲演奏した。最後の曲は途中でローガン・ハイネが長いソロパートを弾いて、そのテクニックで若者達を感動させた。
「狡いなぁ、あの人、なんでも出来ちゃうんだもん。」
とパーシバルを取り巻いている若いドーマーが羨ましげに呟いた。パーシバルは笑いながら、彼を慰めた。
「ハイネは時間がたっぷりあるから、練習もたくさん出来るんだよ。」
コートニーはケンウッドに囁いた。
「何故ハイネがあんなに長いソロパートを弾くか、わかるかね?」
「何故なんです?」
「みんな爺さんなんで、休ませないと最後まで保たないからさ。皮肉にも最年長の彼が肉体的には一番若いからな。」
コートニーは可笑しそうに笑った。
ザ・クレスツが大喝采を浴びながら演奏を終えてステージから下り、交替に若い南米系のバンドが上がった。ドーマーと執政官の混成バンドだ。彼等がテンポの速い曲を演奏し始めると、司厨長が厨房に声を掛けた。
「おい、チーズを料理に使っても良いぞ!」
若い料理人が仲間に囁いた。
「チーズ解禁だ。」
「ローガン・ハイネの出番が終わったんだな?」
「そうさ。あの方がステージ上にいる時にチーズの匂いなんか漂わせてみろ、演奏が滅茶苦茶になるからな・・・」
ケンウッドは特設ステージの裏手になんとか辿り着いた。演奏を終えた爺様バンド、ザ・クレスツのメンバー達が楽器を片付けているところだった。ドラムのワッツ・ドーマーだけはドラムセットをステージに残してきた。ピアノとドラムは個人の所有物ではなく、ドームが養育棟で子供達の情操教育の為に所有している物だった。トランペットやクラリネットやギターはドーマー達が個人で購入したらしく、大事そうに手入れを始めていた。
ハイネが近づいて来るケンウッドに気が付いて、サングラスを取った。鶏冠頭なので、普段より若く見えた。
「音楽をやるなんて、初めて聞いたよ。」
「そうでしたっけ?」
いつもの様にとぼけるハイネ。ベースを演奏したドーマーを振り返って、バンドのリーダーです、と紹介した。ケンウッドが素晴らしい演奏だったと褒めると、リーダーは照れくさそうに笑って、でも、と言った。
「これで解散するのです。みんな爺さんになっちゃいましたからね。ローガン・ハイネのソロがなければ、半分はステージ上でぶっ倒れていましたよ。」
メンバー達がドッと笑った。コートニー医療区長が言った通りだったので、ケンウッドも苦笑するしかなかった。
「でも個人では音楽は続けるのだろう?」
「養育棟で指導したり、後輩に楽器を譲って教えるかしてね。」
ケンウッドはハイネのそばに戻った。ケースにギターを仕舞い込む彼に尋ねた。
「君は次は何時それを弾くんだい?」
「もう弾きません。」
「ギターは?」
「キーラに譲ります。前から欲しがっていたので。」
恐らく、父親から娘に贈る唯一の品物になるだろう。ケンウッドはパーシバルからキーラ・セドウィックにプロポーズしたことを聞かされていた。そしてハイネが父親として彼等の婚姻を認めたことも聞いた。ドーマーは余り私物を持たない。ドームの中で手に入る物は少ないし、外にある物を彼等は欲しがらない。だから互いに贈り物をする習慣もない。ハイネが娘に与えることが出来る物は、殆どないのだ。
「彼女はきっと喜ぶよ。」
そう言えば、出産管理区の担当者達は今宵の送別会にまだ来ていなかった、とケンウッドは気が付いた。1度に3人の出産が始まって、それどころではないと連絡があったのだ。キーラは格好いい父親の姿を見損ねたのか・・・。
「狡いなぁ、あの人、なんでも出来ちゃうんだもん。」
とパーシバルを取り巻いている若いドーマーが羨ましげに呟いた。パーシバルは笑いながら、彼を慰めた。
「ハイネは時間がたっぷりあるから、練習もたくさん出来るんだよ。」
コートニーはケンウッドに囁いた。
「何故ハイネがあんなに長いソロパートを弾くか、わかるかね?」
「何故なんです?」
「みんな爺さんなんで、休ませないと最後まで保たないからさ。皮肉にも最年長の彼が肉体的には一番若いからな。」
コートニーは可笑しそうに笑った。
ザ・クレスツが大喝采を浴びながら演奏を終えてステージから下り、交替に若い南米系のバンドが上がった。ドーマーと執政官の混成バンドだ。彼等がテンポの速い曲を演奏し始めると、司厨長が厨房に声を掛けた。
「おい、チーズを料理に使っても良いぞ!」
若い料理人が仲間に囁いた。
「チーズ解禁だ。」
「ローガン・ハイネの出番が終わったんだな?」
「そうさ。あの方がステージ上にいる時にチーズの匂いなんか漂わせてみろ、演奏が滅茶苦茶になるからな・・・」
ケンウッドは特設ステージの裏手になんとか辿り着いた。演奏を終えた爺様バンド、ザ・クレスツのメンバー達が楽器を片付けているところだった。ドラムのワッツ・ドーマーだけはドラムセットをステージに残してきた。ピアノとドラムは個人の所有物ではなく、ドームが養育棟で子供達の情操教育の為に所有している物だった。トランペットやクラリネットやギターはドーマー達が個人で購入したらしく、大事そうに手入れを始めていた。
ハイネが近づいて来るケンウッドに気が付いて、サングラスを取った。鶏冠頭なので、普段より若く見えた。
「音楽をやるなんて、初めて聞いたよ。」
「そうでしたっけ?」
いつもの様にとぼけるハイネ。ベースを演奏したドーマーを振り返って、バンドのリーダーです、と紹介した。ケンウッドが素晴らしい演奏だったと褒めると、リーダーは照れくさそうに笑って、でも、と言った。
「これで解散するのです。みんな爺さんになっちゃいましたからね。ローガン・ハイネのソロがなければ、半分はステージ上でぶっ倒れていましたよ。」
メンバー達がドッと笑った。コートニー医療区長が言った通りだったので、ケンウッドも苦笑するしかなかった。
「でも個人では音楽は続けるのだろう?」
「養育棟で指導したり、後輩に楽器を譲って教えるかしてね。」
ケンウッドはハイネのそばに戻った。ケースにギターを仕舞い込む彼に尋ねた。
「君は次は何時それを弾くんだい?」
「もう弾きません。」
「ギターは?」
「キーラに譲ります。前から欲しがっていたので。」
恐らく、父親から娘に贈る唯一の品物になるだろう。ケンウッドはパーシバルからキーラ・セドウィックにプロポーズしたことを聞かされていた。そしてハイネが父親として彼等の婚姻を認めたことも聞いた。ドーマーは余り私物を持たない。ドームの中で手に入る物は少ないし、外にある物を彼等は欲しがらない。だから互いに贈り物をする習慣もない。ハイネが娘に与えることが出来る物は、殆どないのだ。
「彼女はきっと喜ぶよ。」
そう言えば、出産管理区の担当者達は今宵の送別会にまだ来ていなかった、とケンウッドは気が付いた。1度に3人の出産が始まって、それどころではないと連絡があったのだ。キーラは格好いい父親の姿を見損ねたのか・・・。