2017年10月27日金曜日

退出者 2 - 5

 ケンウッドの質問にレインは簡潔に答えた。

「原始的な方法です。バスやトラックの運転手にセイヤーズの画像を見せて見覚えがないか訊いて廻るだけですよ。」

 ケンウッドは懸念していたことを尋ねた。

「まさか接触テレパスを使っていないだろうね?」

 レインは応えない。使っているんだな、とケンウッドは胸の内で呟いた。

「その能力は君にとって自然なものだろうと思いはするが、決して消耗する様な真似はしないでくれないか。セイヤーズが見つかっても君が体を壊しては元も子もないからな。」

 ニュカネンは無言だった。セイヤーズは彼にとっては馬が合わない部屋兄弟だ。だが戻って来て欲しくないとは思っていないだろう。ケンウッドは話しの方向を変えた。

「ハイネもセイヤーズを探しているんだよ。」
「局長が?」

と驚いたのはニュカネンだった。

「でも、あの方は外に出られない・・・」
「出られない人間は出られないなりに方法を考えつくものなんだ。」

 ケンウッドはレインがあまりハイネを高く買っていないことを承知していた。外の世界での実務経験がない人間が局長職に就いていることが、この若者には納得出来ていないのだ。それに彼の入局以来3年間ハイネは病気と幽閉で世間から離れていた。レインが一番辛かった時期だ。助けて欲しい時に不在だった上司をレインは尊敬出来ないでいる。

「どんな方法ですか?」

 ニュカネンが尋ねた。ケンウッドは少し考えてまとめた。

「最初は全米のダリルと言う名の男性を全てリストアップした。そして全員の遺伝子管理リストに目を通した。」
「該当者はいなかったんですね?」
「うん。それで次にセイヤーズをリストアップして、同じことをした。これも空振りだったので、次に連邦捜査局を通じて地方の警察に10代後期から20代の男性の住人登録リストを提出させているところだ。町や村の住人の遺伝子管理リストと照合して、住人登録はあるのに遺伝子管理リストがない人間をピックアップしている。」
「それは、違法出生者ですね?」
「そう言うことだな。」
「ああ・・・それで最近違法出生者の摘発率が急上昇したんだ・・・」

 違法出生者とは、違法クローン製造者、所謂メーカーによって製造されたクローン達のことだ。本来なら18歳になれば違法クローンでも遺伝子管理局に成人登録申請を出せば承認されて晴れて地球人として市民権が与えられる。住人登録リストと遺伝子管理リストの両方に名前が記載されるのだ。しかし、面倒だと考えたり、違法な職業に就いていて成人申請を出さない違法出生児もいる。そう言う人々を遺伝子管理局は遺伝子管理法違反で収監するのだ。

「クローンは大勢見つかるのにセイヤーズは見つからないのですね・・・」
「まあ、そう言うことだ。しかし、ハイネがそれに着手してまだ半年だし、全米の3分の1がやっと終わったところだ。住人登録は地上で生きていく上で絶対に必要だ。車の運転免許を取るのに必要だし、病院も大きな買い物も土地の購入も部屋を借りるのも、住人登録とIDがなければ何も出来ない。ハイネはセイヤーズがそのうち何処かで落ち着くだろうと予想しているのだよ。」
「半年で3分の1ですか・・・」

 するとレインが前を向いたままで言った。

「リュック、簡単に言うな。全米の20代男性が何人いると思っているんだ? 半年で3分の1の遺伝子情報を照合してしまうなんて、並の人間じゃ不可能だぞ。それも、日課の業務をこなした後でしょう? 副長官・・・」
「ああ、その通りだ。ハイネは絶対に日課を疎かにしない。セイヤーズ捜索は空き時間だけを使っている。」

 レインが溜息をついた。

「なんとなくセイヤーズが隠れていそうな場所はいくつかあるんです。でも住人がいないことになっているし・・・」
「そんな場所に電力や水の供給はないだろう? 生きていけないぞ。」

とニュカネン。レインがキッとなったのだろう、少し強い調子で言った。

「ダリルは自給自足でも生きていける男だ。君の心配は杞憂だ。」

 また喧嘩になりそうなので、ケンウッドは急いで割り込んだ。

「ライフラインがない土地は、航空班が空から見ているよ。登録されていない家がないか調べているんだ。」