2017年12月11日月曜日

退出者 10 - 1

 ケンウッドがポール・レイン・ドーマーから連絡を受けたのはカーティス・オコーネル騒動から5日経った頃だった。副長官執務室で書類と格闘していると、端末にレインからメッセージが入った。

ーーご相談したいことがあります。ご都合の良い時間を教えて頂けませんか? 急ぎませんが、深刻です。

 ケンウッドにはピンと来るものがあった。リュック・ニュカネンのことに違いない。セイヤーズを見つけたと言うことであれば、レインは「早急に」と書いてくるはずだ。レインはニュカネンの恋愛を知っている。ニュカネンがどれだけ真剣なのか、彼は観察していたのだ。副長官に相談しなければならない程、ニュカネンの気持ちは後戻り出来ない状態になってしまったのか。
 ケンウッドは残っている仕事量を考えてから、午後8時に図書館のロビーで、と返信した。レインが即答で承知と伝えてきた。
 これはハイネに伝えておくべきだろうか? それともレインの話の内容を吟味してからで良いだろうか。こんな時、パーシバルならどうする? 
 ケンウッドはヤマザキ・ケンタロウにメールを送った。レインから相談を持ち込まれたので出会う予定だと書いた。ヤマザキから数分後に返信が来た。

ーーニュカネンの件かね?
ーー多分。まだ内容は不明。後報を待て。

 仕事を可能な限り手早く片付け、なんとか約束の時間に間に合う様に簡単な夕食を摂った。食堂ではヤマザキにもハイネにも出会わなかった。
 夜の図書館は存外混んでいる。昼間働いているドーマー達が静かにくつろげるのが図書館周辺だからだ。
 ケンウッドは館内に入り、ロビーに点在する椅子の一つに座った。低いテーブルの上に持参した書類を置いて仕事をしているフリをしていると、レインがやって来た。いつもスーツ姿しか見たことがなかったが、その夜は私服姿だった。それに野球帽を目深に被っていた。ドームはスペースが限られているので、野球をすることが出来ない。しかしドーマー達はテレビでプロの試合を見るのが好きで、売店では帽子やロゴTシャツなどを購入出来る。レインが帽子を被っているのは、特にどこかのファンだからと言う理由ではなく、ファンクラブから隠れる為だろう。
 彼は断りもなくケンウッドの向かいの席に座った。

「こんばんは。お時間を割いて頂いて有難うございます。」
「かまわんよ。君達の相談を受けるのも私の仕事のうちだからね。」

 ケンウッドに言われて、レインは少し躊躇った。仕事と言うからには、副長官はこの面談を報告書にするのだろうか?