ケンウッドは更に尋ねた。
「オコーネル研究員、君はここを辞める場合、この先の身の振り方をどうされるつもりですか? 任期を中途で辞める場合、病気や怪我以外の理由の時は、委員会に残ることは出来ません。君が今やっている研究を続けるための施設を探さねばならない。」
ジェームズ・オコーネルは沈黙した。感情に流されるまま、辞意を表明したので、将来の身の振り方をまだ考えていないのだ。
ケンウッドはメイ・カーティスを見た。カーティスが言った。
「私は申し上げました通り、ここで研究を続けることを希望します。でも、私がしでかした騒ぎが仲間の研究に支障を与えると仰せでしたら、私はここを離れた方が良いのかも知れません。私はここでの仕事が大好きです。でも地球人の復活の足を引っ張ることは出来ません。」
彼女はオコーネルを振り返った。
「もし私がここを辞することになっても、もう貴方と将来を語ることは無理です。」
「どうしてだ?」
オコーネルは思わず席から離れようとして、隣席の同僚に引き止められた。カーティスが言い訳した。
「私は同じ目的で働く貴方が好きでした。でも今の貴方は仕事のことは頭にないでしょう? 私にはこの仕事から離れて暮らす生活は考えられません。」
「それじゃ、君はもう僕のことを愛していないのか?」
メイ・カーティスは目を伏せて暫く黙っていたが、ハイネ局長が再び議場に入ってきた時に顔を上げた。
「ごめんなさい、私は身勝手な人間です。貴方の幸福よりも私自身の心を満足させる方を選びます。」
オコーネルの顔面が蒼白になった。ケンウッドは危険だなと感じた。その時、ハイネが着席しながらのんびりとした口調で言った。
「ドーマーの班長会議の結果が出ました。」
リプリー長官が、ほうっと関心を示した。
「ハリー・ステイシー・ドーマーの処分が決まったのかね?」
「はい。5日間観察棟で謹慎です。それからオコーネル研究員に暴力を振るったことを謝罪させます。」
「オコーネル研究員がステイシー・ドーマーを突き飛ばした件はどうなる?」
「それを考慮に入れた上での処分ですから、ステイシーも納得して受け入れました。」
ハイネはオコーネル研究員を振り返った。
「貴方もステイシーに謝罪してくれますね?」
「僕が彼に?」
オコーネルは思わずドーマーを睨みつけたが、相手の青みがかった薄い灰色の目に見つめ返された。ローガン・ハイネを怒らせることはご法度だ、そうコロニー人の間で暗黙の了解があった。生まれる前からリーダーとなると決められて誕生したこの年老いたドーマーは、確かにカリスマ性がある。ドーマー達は彼の指示には絶対に従う。ハイネがコロニー人に逆らえば、他のドーマー達も皆逆らう。ほぼ無条件に・・・。
だから、ハイネを怒らせる人間は、コロニー人の間で危険視される。ドーム内のコロニー人全員を危険に曝しかねないからだ。
それにハイネは今でも月の地球人類復活委員会本部で根強い人気がある。執行部のお偉いさん達は彼を実際に育てた世代の最後の生き残りだ。彼等の可愛いドーマーが何かを気に入らないと言えば、排除してやろうと言う世代だ。執行部に睨まれたら、太陽系コロニー社会で遺伝子研究は出来ない。
オコーネルは言い訳を考えた。
「僕が彼を突き飛ばしたのは、彼が・・・」
「理由は問題ではありません。貴方が彼を突き飛ばしたことは事実です。その行為を謝罪して下さい、と申し上げています。ステイシー・ドーマーも貴方を殴打したことのみ謝罪しますから。」
そして遺伝子管理局長は言い添えた。
「皆さん、忙しいのです。私も忙しい。貴方のプライドや個人的事情で大勢の人の貴重な時間を無駄に費やさないでいただきたい。彼女が貴方と一緒になれないと言うのなら、諦めなさい。これ以上追いかけても無駄です。女性は一度『嫌だ』と感じたら、後は理屈抜きで嫌なのです。貴方のことを好いていても、嫌だと感じるし、貴方が追いかければ憎悪さえ抱く。それが女性です。だから、貴方はもう彼女のことを忘れて、貴方の世界を求めるべきです。
さぁ、早くこのくだらない会議を終わらせてくれませんか?」
ハイネが怒っている、とケンウッドは感じた。口調は穏やかだし、目に敵意を浮かべもしない。しかしローガン・ハイネ・ドーマーはドームの学者達の研究が1人の男と1人の女の揉め事で中断されていることが我慢出来ないのだ。
メイ・カーティスが「長官」とリプリーに呼びかけた。
「遺伝子管理局長の仰せの通りです。私は皆さんの貴重な時間を無駄にしたくありません。私を解任して下さい。私達の問題は、地球の外で話し合います。」
「オコーネル研究員、君はここを辞める場合、この先の身の振り方をどうされるつもりですか? 任期を中途で辞める場合、病気や怪我以外の理由の時は、委員会に残ることは出来ません。君が今やっている研究を続けるための施設を探さねばならない。」
ジェームズ・オコーネルは沈黙した。感情に流されるまま、辞意を表明したので、将来の身の振り方をまだ考えていないのだ。
ケンウッドはメイ・カーティスを見た。カーティスが言った。
「私は申し上げました通り、ここで研究を続けることを希望します。でも、私がしでかした騒ぎが仲間の研究に支障を与えると仰せでしたら、私はここを離れた方が良いのかも知れません。私はここでの仕事が大好きです。でも地球人の復活の足を引っ張ることは出来ません。」
彼女はオコーネルを振り返った。
「もし私がここを辞することになっても、もう貴方と将来を語ることは無理です。」
「どうしてだ?」
オコーネルは思わず席から離れようとして、隣席の同僚に引き止められた。カーティスが言い訳した。
「私は同じ目的で働く貴方が好きでした。でも今の貴方は仕事のことは頭にないでしょう? 私にはこの仕事から離れて暮らす生活は考えられません。」
「それじゃ、君はもう僕のことを愛していないのか?」
メイ・カーティスは目を伏せて暫く黙っていたが、ハイネ局長が再び議場に入ってきた時に顔を上げた。
「ごめんなさい、私は身勝手な人間です。貴方の幸福よりも私自身の心を満足させる方を選びます。」
オコーネルの顔面が蒼白になった。ケンウッドは危険だなと感じた。その時、ハイネが着席しながらのんびりとした口調で言った。
「ドーマーの班長会議の結果が出ました。」
リプリー長官が、ほうっと関心を示した。
「ハリー・ステイシー・ドーマーの処分が決まったのかね?」
「はい。5日間観察棟で謹慎です。それからオコーネル研究員に暴力を振るったことを謝罪させます。」
「オコーネル研究員がステイシー・ドーマーを突き飛ばした件はどうなる?」
「それを考慮に入れた上での処分ですから、ステイシーも納得して受け入れました。」
ハイネはオコーネル研究員を振り返った。
「貴方もステイシーに謝罪してくれますね?」
「僕が彼に?」
オコーネルは思わずドーマーを睨みつけたが、相手の青みがかった薄い灰色の目に見つめ返された。ローガン・ハイネを怒らせることはご法度だ、そうコロニー人の間で暗黙の了解があった。生まれる前からリーダーとなると決められて誕生したこの年老いたドーマーは、確かにカリスマ性がある。ドーマー達は彼の指示には絶対に従う。ハイネがコロニー人に逆らえば、他のドーマー達も皆逆らう。ほぼ無条件に・・・。
だから、ハイネを怒らせる人間は、コロニー人の間で危険視される。ドーム内のコロニー人全員を危険に曝しかねないからだ。
それにハイネは今でも月の地球人類復活委員会本部で根強い人気がある。執行部のお偉いさん達は彼を実際に育てた世代の最後の生き残りだ。彼等の可愛いドーマーが何かを気に入らないと言えば、排除してやろうと言う世代だ。執行部に睨まれたら、太陽系コロニー社会で遺伝子研究は出来ない。
オコーネルは言い訳を考えた。
「僕が彼を突き飛ばしたのは、彼が・・・」
「理由は問題ではありません。貴方が彼を突き飛ばしたことは事実です。その行為を謝罪して下さい、と申し上げています。ステイシー・ドーマーも貴方を殴打したことのみ謝罪しますから。」
そして遺伝子管理局長は言い添えた。
「皆さん、忙しいのです。私も忙しい。貴方のプライドや個人的事情で大勢の人の貴重な時間を無駄に費やさないでいただきたい。彼女が貴方と一緒になれないと言うのなら、諦めなさい。これ以上追いかけても無駄です。女性は一度『嫌だ』と感じたら、後は理屈抜きで嫌なのです。貴方のことを好いていても、嫌だと感じるし、貴方が追いかければ憎悪さえ抱く。それが女性です。だから、貴方はもう彼女のことを忘れて、貴方の世界を求めるべきです。
さぁ、早くこのくだらない会議を終わらせてくれませんか?」
ハイネが怒っている、とケンウッドは感じた。口調は穏やかだし、目に敵意を浮かべもしない。しかしローガン・ハイネ・ドーマーはドームの学者達の研究が1人の男と1人の女の揉め事で中断されていることが我慢出来ないのだ。
メイ・カーティスが「長官」とリプリーに呼びかけた。
「遺伝子管理局長の仰せの通りです。私は皆さんの貴重な時間を無駄にしたくありません。私を解任して下さい。私達の問題は、地球の外で話し合います。」