2017年12月16日土曜日

退出者 10 - 5

 フレデリック・ベイルは長官執務室中央にある会議用テーブルの上にビルの三次元画像を立ち上げた。見取り図も出して、改装の結果を報告して、次に責任者のリュック・ニュカネン自身に何をどう工夫したのかを語らせた。ニュカネンは緊張していたが、それは最高幹部4名の前で直接語ることからであって、自身の仕事に自信がない訳ではなかった。寧ろ彼は自信があった。何故なら・・・
 ケンウッドが尋ねた。

「君がそのビルを利用するとしたら、こうあれば良いと考えて設計したのかね?」
「そうです。他人がどう感じるか、未熟な私には想像が難しかったので、私自身が使用する場として考えて改装しました。ですから、かなり利己的な部分が多いかと思いますが・・・」
「いやいや、なかなかの物だよ。」

 ケンウッドは同意を求めて他の出席者達を見た。リプリーが言った。

「施設は申し分ないと私は思うが、保安責任者の目から見て、どうかね?」

 クーリッジが画像を眺めながら言った。

「ビルには文句がありません。周辺環境はどうですかな? 」

 ベイルはそれも怠らなく準備していた。ビルの画像の周辺に街の風景が広がって行った。ほうっとリプリーとクーリッジが身を乗り出した。地球の風景を見るのは、コロニー人にとって楽しいものなのだ。ケンウッドは訪問した時の様子を思い出し、暫し懐かしさに浸った。ハイネ局長だけが冷静に眺め、外部環境の説明を求めた。ベイルは説明もニュカネンに任せた。ニュカネンは警察署、消防署、医療施設、店舗等、普段生活するのに必要な民間・官営施設を指して説明した。交通手段も調べ上げており、路線バスや市内のタクシーの営業状況、輸送業者も語った。
 クーリッジが頷いた。

「立派な調査結果だ。ビルのセキュリティシステムの設置に大いに参考となる。」

 彼は長官と局長に向き直った。

「私は現地に行ってセキュリティ設置の計画を立ててみようと思いますが、いかがですかな?」

 ベイルが期待を込めて局長を見た。コロニー人の専門家に依頼したいと思っていたのだ。リプリーが許可を出そうと思った瞬間、ハイネが言った。

「出張所を使用するのは主に現地雇用の職員となりますから、地球人が扱えるレベルのシステムでお願い出来ますか?」

 つまり、ぶっ飛んだ最新システムを設置して地球人の雇用者達を困らせてくれるなと言いたいのだ。クーリッジはちょっと考えた。地球の現行システムはどの程度だろう?

「まさか、濠やら土塁やらを造れと言ってる訳じゃないよな?」

 冗談を交えて尋ねると、ハイネはニコリともせずに応えた。

「ビル周辺に濠を造ろうとすれば、さらなる用地買収が必要ですが、予算は降りますかな?」

 ケンウッドは堪えきれずにプッと吹き出した。離れた位置で座っているレインも声を忍ばせて笑っているのが見えた。笑われてもハイネは表情を変えなかった。彼はいきなり部下に爆弾を投げつけた。

「セント・アイブスの市役所に相談しては如何でしょう? ニュカネン・ドーマー、君の友達が市役所で働いているだろう? 彼女に相談してくれないか?」