2017年12月22日金曜日

退出者 11 - 2

 ケンウッドの運転で、リプリーと彼は車で砂漠地帯を横切った。大異変前は豊かな穀物生産地だったのだ。この土地が昔の様に蘇れば、人口もまた増えるだろうに、とリプリーが呟いた。
 
「なんだかんだ言っても、宇宙の食糧事情は地球に頼っている。植物は周期的に地球の種子を交配しなければならないからね。早く地球を元気にしなければいけない。私の悔いは、任期中に女性誕生を実現出来なかったことだよ。」
「それはユリアン、誰もが同じ思いさ。」

 2人きりの時は、互いにファーストネームで呼び合う。ここでは長官、副長官はなしだ。
 やがて緑のベルトが前方に見えて来て、目的地に無事にたどり着いた。
 ナビに従って市街地を走り、綺麗な白亜の壁のビルに到着した。ビルに表示はなかったが、入り口に顔認証システムを組み込んだセキュリティポールが立っており、ケンウッドとリプリーが立つと、スッとドアが開いた。恐らく所持金属製品や火薬などの検査も同時に行われたはずだ。
 中は奥の階段とエレベーターホールまでまっすぐ通った通路と、その右側にガラス壁で仕切られた大きな事務室があった。事務室奥にあるドアが、所長室の入り口だろう。事務室には机が10台置かれており、4人の職員が仕事をしていた。1人が席を立ってドアへやって来た。入り口のセキュリティポールのセンサーが動いたので、訪問者を知ったのだ。
 ケンウッドはドームの外で使用するIDカードを出した。

「ドームから来ましたユリアン・リプリーとニコラス・ケンウッドです。ニュカネン所長はおられますかな?」
「ドームから?」

 職員は面食らった様な表情を見せた。局員だったら遺伝子管理局本部から来たと言うのだろう。ドームから来たと言う言い方はしない。彼はちょっと考えて、アッと声を出した。訪問者がコロニー人だと気が付いたのだ。

「ちょっとお待ちください。」

 彼は慌てて中に入り、所長室のドアをノックした。中にいる人物と二言三言交わして、やがて1人の生真面目そうな顔をした男が現れた。ケンウッドとリプリーが片手を上げて見せると、男は目を丸くして駆け寄って来た。

「リプリー博士、ケンウッド博士!」

 外では役職で呼ばないと言うお約束をちゃんと守っているリュック・ニュカネンだった。
 3人は交互に握手を交わし、元気そうだね、博士達も、と挨拶しあった。そしてニュカネンは、彼等を事務室の中に招き入れた。