出来ればケンウッド長官と顔を合わせたくなかったのだが、夕食の席に長官がやって来てしまった。ハイネは普段より少なめの食事にケンウッドが気がつかなければ良いが、と思った。ケンウッドは機嫌が良かったのだ。保養所のアイデアをドーマー達に受け入れてもらえたし、修正中のプログラムももう直ぐ完成だ。後は他のドームと比較して今度こそ誤りがないことを互いに確認し合ってマザーコンピュータにインストールするのだ。だから、彼はハイネが浮かぬ表情をしていることに、直ぐには気がつかなかった。
「今夜は茸のシチューに根菜のサラダ、体に良さそうだね!」
ケンウッド自身は肉料理を選んでいた。座ると直ぐに美味しそうに食べ始めた。ローガン・ハイネはそんな彼を愛おしげに眺めた。外観は年上に見えるこのコロニー人は、彼より30歳も年下だ。執政官はドーマーの親として振る舞えと言う地球人類復活委員会の規則に従って、ケンウッドはハイネを息子として扱い、ハイネは彼を父として敬っているが、仕事から離れるとやはりケンウッドは若い。一度も言葉にしたことはないが、ハイネは彼を可愛いと思っている。ドーマー達と同様に、このコロニー人も彼にとっては大事な息子の一人なのだ。だから、ハイネはケンウッドを悲しませたくなかったし、心配を掛けたくなかった。
彼は努めて明るく声を掛けた。
「プロジェクトは順調ですか?」
「うん。君に認証の日程を告げられる日も近いと思うよ。」
マザーコンピュータの書き換えには、ドームの4名の最高責任者、長官、副長官、保安課長、そして遺伝子管理局長の認証が必要だ。作業は丸一日かかるだろう。
ケンウッドは肉を切りながら言った。
「君もそろそろ覚悟してくれ。一日縛られるから。」
そして何気に顔を上げて、ハイネの顔色が良くないことに気が付いた。
「どうした、ローガン・ハイネ・・・?」
「どうもしませんよ。」
ハイネはいつものポーカーフェイスを保つことに失敗した己を悔やんだ。素早く頭を回転させて言い訳した。
「認証の日の退屈さを思い出してうんざりしただけです。」
その時、端末に電話が着信した。保安課が直通を許可した外からの電話だ。ハイネは落ち着き払って電話に出た。
「ハイネだ。」
「レインです。」
と北米南部班チーフが名乗った。直ぐに報告に入る。
「今、セイヤーズが到着しました。」
ケンウッドの手が止まった。ハイネは心の中で、ちぇっと舌打ちした。それでもレインには平素を装った。
「無事に着いたか。」
「はい・・・一人で来ましたが、単独飛行は局長の許可ではないですよね?」
「する訳なかろう。」
「叱っておきました。」
どうだか、とハイネは思った。レインがどんなに怒っても、セイヤーズは堪えないのだ。幼馴染なので、相手の怒りの度合いを心得ている。
「今夜は部下を休ませて、明日早朝に作戦を開始します。できれば朝飯前に終わらせるつもりです。」
「了解した。」
「お休みなさい。」
「お休み。」
通話を終えると、ケンウッドが見つめていた。ハイネは覚悟した。彼が釈明しようとしたその時、ヤマザキ・ケンタロウが現れた。
「ヤァ、お揃いだな?」
陽気な医者は空いた席に座った。
「ハイネ、胃薬の用意をしておいた。急病の部下はいつ帰る?」
「胃薬?」
ケンウッドがヤマザキを見た。ヤマザキは謎の微笑を浮かべて遺伝子管理局長を見ただけだった。
「今夜は茸のシチューに根菜のサラダ、体に良さそうだね!」
ケンウッド自身は肉料理を選んでいた。座ると直ぐに美味しそうに食べ始めた。ローガン・ハイネはそんな彼を愛おしげに眺めた。外観は年上に見えるこのコロニー人は、彼より30歳も年下だ。執政官はドーマーの親として振る舞えと言う地球人類復活委員会の規則に従って、ケンウッドはハイネを息子として扱い、ハイネは彼を父として敬っているが、仕事から離れるとやはりケンウッドは若い。一度も言葉にしたことはないが、ハイネは彼を可愛いと思っている。ドーマー達と同様に、このコロニー人も彼にとっては大事な息子の一人なのだ。だから、ハイネはケンウッドを悲しませたくなかったし、心配を掛けたくなかった。
彼は努めて明るく声を掛けた。
「プロジェクトは順調ですか?」
「うん。君に認証の日程を告げられる日も近いと思うよ。」
マザーコンピュータの書き換えには、ドームの4名の最高責任者、長官、副長官、保安課長、そして遺伝子管理局長の認証が必要だ。作業は丸一日かかるだろう。
ケンウッドは肉を切りながら言った。
「君もそろそろ覚悟してくれ。一日縛られるから。」
そして何気に顔を上げて、ハイネの顔色が良くないことに気が付いた。
「どうした、ローガン・ハイネ・・・?」
「どうもしませんよ。」
ハイネはいつものポーカーフェイスを保つことに失敗した己を悔やんだ。素早く頭を回転させて言い訳した。
「認証の日の退屈さを思い出してうんざりしただけです。」
その時、端末に電話が着信した。保安課が直通を許可した外からの電話だ。ハイネは落ち着き払って電話に出た。
「ハイネだ。」
「レインです。」
と北米南部班チーフが名乗った。直ぐに報告に入る。
「今、セイヤーズが到着しました。」
ケンウッドの手が止まった。ハイネは心の中で、ちぇっと舌打ちした。それでもレインには平素を装った。
「無事に着いたか。」
「はい・・・一人で来ましたが、単独飛行は局長の許可ではないですよね?」
「する訳なかろう。」
「叱っておきました。」
どうだか、とハイネは思った。レインがどんなに怒っても、セイヤーズは堪えないのだ。幼馴染なので、相手の怒りの度合いを心得ている。
「今夜は部下を休ませて、明日早朝に作戦を開始します。できれば朝飯前に終わらせるつもりです。」
「了解した。」
「お休みなさい。」
「お休み。」
通話を終えると、ケンウッドが見つめていた。ハイネは覚悟した。彼が釈明しようとしたその時、ヤマザキ・ケンタロウが現れた。
「ヤァ、お揃いだな?」
陽気な医者は空いた席に座った。
「ハイネ、胃薬の用意をしておいた。急病の部下はいつ帰る?」
「胃薬?」
ケンウッドがヤマザキを見た。ヤマザキは謎の微笑を浮かべて遺伝子管理局長を見ただけだった。