ケンウッドは久しぶりに元長官秘書ジャン=カルロス・ロッシーニ・ドーマーから連絡をもらった。
ロッシーニは遺伝子管理局内務捜査班の前チーフだ。隠密活動でコロニー人学者達が本来の研究から外れてしまわないよう監視する仕事に就き、ユリアン・リプリー博士の研究室で助手として働いていた。真面目で誠実な働きぶりが気に入られ、リプリーがアメリカ・ドーム副長官に就任した時に秘書に採用された。ドーマーが執政官の秘書になるのは珍しく、ロッシーニは正体を隠したままドーム幹部達の内状を探っていたのだが、リプリーが思いがけず長官になってしまい、彼も秘書業が多忙になってしまった。それで結局内務捜査班の業務は副官のビル・フォーリー・ドーマーが引き受ける形となった。リプリーは長官職を5年で辞める約束だったので、ロッシーニはそれを機に正体を明かして遺伝子管理局本部に戻るつもりだった。ところが、リプリーはケンウッドに長官職の後任を託す時に、ロッシーニを「実に優秀な秘書なので」と推薦してしまった。
ケンウッドはひょんなことからロッシーニの正体を知ってしまっていた。だから内務捜査班のチーフを秘書に押し付けられてびっくりしたのだが、長官業務をよく知っている秘書は頼もしく思えたので、彼を引き受けてしまったのだ。実際、ロッシーニはケンウッドをよく助けてくれた。そして本来の上司である遺伝子管理局長ローガン・ハイネ・ドーマーとの連携もスムーズに行くよう支えてくれたのだ。
ロッシーニが秘書と遺伝子管理局を引退したのは年齢のせいで、ケンウッドとしてはもう少し残って欲しかったのだが、彼は養育棟で子供のドーマーに英語を教える教官になった。それから滅多に顔を合わせる機会がなく、ケンウッドも多忙で会いに行けなかったのだ。だから・・・
「長官、もし宜しければ今夜半時間ほどお会いできませんか?」
ドーマー達は時候の挨拶とか、元気だったかとか、そんな社交辞令はしない。いきなり用件に入る。ケンウッドはその愛想のなさに苦笑しながら、カレンダーを確認した。
「今日は金曜日だったね。もし良ければ、バーで飲まないかね?」
ロッシーニが飲酒するかどうか覚えていない。だが金曜日はドーマーがバーを利用することが許される日だ。
ロッシーニが電話の向こうで笑った。
「静かに語り合える場所ではないですね。」
「そうかい?」
「長官、最近バーに行かれたことがないのではありませんか?」
ケンウッドは最後に行ったのはいつだろうと考えた。バーに行かないことはないが、金曜日には行っていないのではないか?
「金曜日のバーは静かではないのか?」
「バーと言うよりライブハウスですね。」
「ドーマーのアマチュアバンドが演奏するのは、昔からの伝統だろう?」
「そのバンドが様変わりしましてね、毎週お祭り騒ぎです。」
そしてロッシーニは囁いた。
「騒がしい方が、内緒話に適しているかも知れません。」
ロッシーニは遺伝子管理局内務捜査班の前チーフだ。隠密活動でコロニー人学者達が本来の研究から外れてしまわないよう監視する仕事に就き、ユリアン・リプリー博士の研究室で助手として働いていた。真面目で誠実な働きぶりが気に入られ、リプリーがアメリカ・ドーム副長官に就任した時に秘書に採用された。ドーマーが執政官の秘書になるのは珍しく、ロッシーニは正体を隠したままドーム幹部達の内状を探っていたのだが、リプリーが思いがけず長官になってしまい、彼も秘書業が多忙になってしまった。それで結局内務捜査班の業務は副官のビル・フォーリー・ドーマーが引き受ける形となった。リプリーは長官職を5年で辞める約束だったので、ロッシーニはそれを機に正体を明かして遺伝子管理局本部に戻るつもりだった。ところが、リプリーはケンウッドに長官職の後任を託す時に、ロッシーニを「実に優秀な秘書なので」と推薦してしまった。
ケンウッドはひょんなことからロッシーニの正体を知ってしまっていた。だから内務捜査班のチーフを秘書に押し付けられてびっくりしたのだが、長官業務をよく知っている秘書は頼もしく思えたので、彼を引き受けてしまったのだ。実際、ロッシーニはケンウッドをよく助けてくれた。そして本来の上司である遺伝子管理局長ローガン・ハイネ・ドーマーとの連携もスムーズに行くよう支えてくれたのだ。
ロッシーニが秘書と遺伝子管理局を引退したのは年齢のせいで、ケンウッドとしてはもう少し残って欲しかったのだが、彼は養育棟で子供のドーマーに英語を教える教官になった。それから滅多に顔を合わせる機会がなく、ケンウッドも多忙で会いに行けなかったのだ。だから・・・
「長官、もし宜しければ今夜半時間ほどお会いできませんか?」
ドーマー達は時候の挨拶とか、元気だったかとか、そんな社交辞令はしない。いきなり用件に入る。ケンウッドはその愛想のなさに苦笑しながら、カレンダーを確認した。
「今日は金曜日だったね。もし良ければ、バーで飲まないかね?」
ロッシーニが飲酒するかどうか覚えていない。だが金曜日はドーマーがバーを利用することが許される日だ。
ロッシーニが電話の向こうで笑った。
「静かに語り合える場所ではないですね。」
「そうかい?」
「長官、最近バーに行かれたことがないのではありませんか?」
ケンウッドは最後に行ったのはいつだろうと考えた。バーに行かないことはないが、金曜日には行っていないのではないか?
「金曜日のバーは静かではないのか?」
「バーと言うよりライブハウスですね。」
「ドーマーのアマチュアバンドが演奏するのは、昔からの伝統だろう?」
「そのバンドが様変わりしましてね、毎週お祭り騒ぎです。」
そしてロッシーニは囁いた。
「騒がしい方が、内緒話に適しているかも知れません。」