2019年3月10日日曜日

囮捜査 2 2 - 10

 ロッシーニ・ドーマーはペルラ・ドーマーと年齢的に大きな差がないのだが、髪はまだ半分黒かった。毎日子供を相手にしているので若々しく見えた。ケンウッドは若いドーマーやコロニー人が踊り騒ぐ中をかき分け、彼が座っているテーブルになんとかたどり着いた。早速ウェイターロボットが来て注文を取った。ケンウッドは軽いフルーツサワーを注文した。
 
「お元気そうで、何よりです。」

とロッシーニが微笑みながら声をかけた。君もね、とケンウッドは返した。
 ステージでは南米系のドーマーのバンドが賑やかに演奏して歌っている。ケンウッドの飲み物が届けられてから、軽く乾杯をした。それからロッシーニが顔を近づけ、いきなり本題に入った。

「副長官とダリル・セイヤーズの急接近の情報は長官のお耳に入っておりますか?」

 ケンウッドは苦笑した。年配者達は皆あの有名な男と美しい副長官を心配しているのだ。

「うん・・・実はゴーン本人から聞いた。」
「そうでしたか。」

 ロッシーニは安心した表情になった。ラナ・ゴーン自ら長官に報告したと言うなら、彼女にはしっかりと分別があるのだ。

「内務捜査班に探られるような状況ではないですよね?」
「庭園のベンチに座って互いの家族の話や、セイヤーズの逃亡中の生活の話をしているのだそうだ。それぞれ母親と父親だからね、子供の成長やこれからの生活の心配が主に会話の中心だそうだよ。」
「それは、要らぬ詮索をされる前に副長官が予防線を貼られたと考えて宜しいですか?」
「それもあるだろうし、私が現在携わっている仕事の障害にならぬよう配慮してくれたとも思っている。」

 ロッシーニが、体を退いた。ケンウッドをじっと見つめた。

「貴方が現在関わっておられるお仕事ですって?」

 ケンウッドはハッとした。ドーマー達には、まだ女性誕生の鍵が発見されたと公表していない。知っているのはローガン・ハイネぐらいだ。だがロッシーニには言っても良いだろう。口の固さは世界一だろうから。
 ケンウッドは彼が唇の動きを読めることを思い出した。だから、声を出さずに言った。

 もうすぐ地球人類復活委員会から発表がある。女性誕生の鍵が見つかった。

 ジャン=カルロス・ロッシーニがビックリ仰天するなんてあっただろうか? ケンウッドは冷静沈着なこの男が目を丸くして口をあんぐり開けたのを、逆に呆然として見つめた。

「本当に?」

とロッシーニが掠れ声で呟いた。

「本当なのですか?」

 そしてケンウッドが頷くと、彼はいきなり長官の手を取った。そして激しく揺すった。

「有り難うございます、ケンウッド博士!」

 ケンウッドはロッシーニの目に涙が浮かぶのを目撃した。