2019年3月31日日曜日

誘拐 2 2 - 2

 ダルフーム博士の後ろ姿が食堂の建物から消え去ると、ドーマーらしくローガン・ハイネは去り行くコロニー人のことを忘れた。料理を取ってテーブルに着き、食事を始めた。頭痛は博士との会話で少し和らいだので、食欲も少し出てきた。半分迄食べた頃、入り口にケンウッドとヤマザキの姿が見えた。昨夜よりはましな顔になっているかな、とハイネは自身の顔を手で撫でてみた。その時、端末に電話が着信した。レインからだった。

「おはようございます。作戦は成功しました。」

 ハイネが出るなり、レインはそう言った。ハイネは時計を見た。

「早かったな。」
「先方も油断している時間でしたから。」
「全員無事か?」
「はい。タンも保護しました。怪我をしているので出来る限り早めに帰還させます。」
「了解した。良くやった。」

 執政官達が近くに来たので、ハイネは通話を終えた。気分はかなり楽になっていた。だから笑顔でケンウッドに朝の挨拶をした。ヤマザキがニヤニヤしながら腰を下ろした。

「頭痛はどうだい? 今日は軽いかな?」
「いつもよりはね。」

 ハイネはケンウッドに向かって言った。

「先程ダルフーム博士からご挨拶を頂きました。」
「そうか・・・」

 ケンウッドが寂しそうな顔をした。先輩が辞めていくのが寂しいのだ。彼より古い科学者はもう数が少なくなった。ヤマザキはハイネの皿を見て、奪う物がないなぁと思いながら、ケンウッドに言った。

「彼は離任式をせずに行くそうだね。」
「うん。柄じゃないと言ってね・・・。」
「確かに、大勢に拍手で送られるのを好む様な人じゃないがね。だが慣例を無視するのはあの人らしくないな。」
「照れ臭いんだろうなぁ。」

 ケンウッドとヤマザキが先輩の思い出話を始めたので、その間にハイネは朝食を終えて「お先に失礼します」と立ち上がった。ヤマザキが思い出した様に尋ねた。

「具合が悪くなった部下は何時頃帰って来る?」
「昼前でしょう。」

 ハイネはレインの報告からヘリの速度と給油時間を予想して答えた。セイヤーズは勝手に一人でヘリを操縦して出かけた。救出されたパトリック・タンは負傷しているとレインが言った。タンはヘリで帰される筈で、セイヤーズしか操縦士はいないから、セイヤーズは真っ直ぐ帰って来る筈だ。今回は身勝手な捜査活動は出来ない。