夜中に部下から呼び出しをくらうのは、ドームでは珍しくない。ローガン・ハイネ局長にとっても珍しくないことだ。但し、普段夜中に連絡を入れて来るのは外で活動している職員だ。しかし、その夜彼を呼び出した部下が、ダリル・セイヤーズ・ドーマーだったので、要件は見当がついた。セイヤーズはレインと共に夕方保安課の情報管理室を訪れていたのだ。
2人は殆ど同時に局長室の前に到着した。ハイネは私服で、セイヤーズはまだスーツのままだった。
「まだ仕事をしていたのか?」
「なんとなく、流れで・・・」
彼等は部屋に入った。真っ直ぐ局長執務机に向かい、机をはさんで座った。
「FOKの情報源が判明したか?」
「はい、死亡したレイ・ハリス元中西部支局長のIDが使用されていました。」
ハイネは心の奥で、ちぇっと呟いた。あの酔っ払いコロニー人は死んでもなおドームを引っ掻き回すのか?
「無効処理はしていなかったのか?」
「いえ、IDを回収したワグナーが情報管理室に無効通知を出していたのですが、コンピュータのソフトに穴がありました。」
「穴?」
「セキュリティソフトが不完全で、死者のIDを通したのです。」
ハイネは苦虫を潰した様な顔をした。ソフトの開発はコロニー側に責任がある。しかし、IDをFOKが手に入れたいきさつの方は・・・?
「何故、FOKがハリスのIDを持っていたのだ?」
「ワグナーが、ローズタウンの空港で盗まれたらしいのです。紛失に気づいたのが、ドームに帰投した後だったので、具体的なことは不明ですが、手荷物検査の時に一瞬検査カウンターから目を離したそうです。その機会以外に盗難に遭う可能性は考えられません。」
「すると、盗んだのは支局の職員と言うことになるのか?」
「他に考えられません。」
ハイネはローズタウン支局の支局長が誰だったかと考えた。元ドーマーだ。その男が雇った現地採用の一般人が職員になる訳だが、身元がしっかりしている人間しか雇わない。
しかし、FOKは、「身元がしっかりしている」良家の子弟がメンバーになっている組織だ。
「敵は手強いな。」
と彼は呟いた。
「ローズタウン支局長のクーパー元ドーマーを明日召還する。彼にスパイの洗い出しをさせる。」
「ワグナーの処分はどうされます? 彼は紛失を報告するのを忘れていました。盗難に遭ったとは思わなかったらしいのですが・・・」
可愛い弟分に厳しい処分が出なければ良いが、とセイヤーズは案じた。
局長は彼をジロリと見た。
「ワグナーは紛失に気づいた時点で無効通知を出したのだな?」
「そう言っています。」
「情報管理室で調べれば、何時出したかはわかる。少なくとも、彼は必要な処理はした訳だ。」
「はい。」
「この件は、当然、レインも知っているのだな?」
「彼がワグナーを問い詰めました。」
「ならば、ワグナーの処分はレインに任せる。厳重注意で十分だと思うが、レイン次第だ。」
「わかりました、チーフ・レインにそう伝えておきます。」
ハイネ局長は、素早く明日の朝一番にすることをメモした。
「もう帰って良いぞ、君もレインもくたびれているだろうから、早く休め。」
「はい・・・お休みなさい。」
セイヤーズは局長室を退出した。
ハイネはこの問題を執政官に報告すべきか否か考えた。ケンウッドも博士達も皆、今は女性誕生の鍵を発見したことで浮き足立っている。地球上の殺人事件やテロ事件に巻き込むことは出来ないし、彼等には関係ないことだ。これは地球人の問題だ。
ハイネは結局執政官に報告することを止めることに決めた。少なくとも、今は言うべきではない、と。
2人は殆ど同時に局長室の前に到着した。ハイネは私服で、セイヤーズはまだスーツのままだった。
「まだ仕事をしていたのか?」
「なんとなく、流れで・・・」
彼等は部屋に入った。真っ直ぐ局長執務机に向かい、机をはさんで座った。
「FOKの情報源が判明したか?」
「はい、死亡したレイ・ハリス元中西部支局長のIDが使用されていました。」
ハイネは心の奥で、ちぇっと呟いた。あの酔っ払いコロニー人は死んでもなおドームを引っ掻き回すのか?
「無効処理はしていなかったのか?」
「いえ、IDを回収したワグナーが情報管理室に無効通知を出していたのですが、コンピュータのソフトに穴がありました。」
「穴?」
「セキュリティソフトが不完全で、死者のIDを通したのです。」
ハイネは苦虫を潰した様な顔をした。ソフトの開発はコロニー側に責任がある。しかし、IDをFOKが手に入れたいきさつの方は・・・?
「何故、FOKがハリスのIDを持っていたのだ?」
「ワグナーが、ローズタウンの空港で盗まれたらしいのです。紛失に気づいたのが、ドームに帰投した後だったので、具体的なことは不明ですが、手荷物検査の時に一瞬検査カウンターから目を離したそうです。その機会以外に盗難に遭う可能性は考えられません。」
「すると、盗んだのは支局の職員と言うことになるのか?」
「他に考えられません。」
ハイネはローズタウン支局の支局長が誰だったかと考えた。元ドーマーだ。その男が雇った現地採用の一般人が職員になる訳だが、身元がしっかりしている人間しか雇わない。
しかし、FOKは、「身元がしっかりしている」良家の子弟がメンバーになっている組織だ。
「敵は手強いな。」
と彼は呟いた。
「ローズタウン支局長のクーパー元ドーマーを明日召還する。彼にスパイの洗い出しをさせる。」
「ワグナーの処分はどうされます? 彼は紛失を報告するのを忘れていました。盗難に遭ったとは思わなかったらしいのですが・・・」
可愛い弟分に厳しい処分が出なければ良いが、とセイヤーズは案じた。
局長は彼をジロリと見た。
「ワグナーは紛失に気づいた時点で無効通知を出したのだな?」
「そう言っています。」
「情報管理室で調べれば、何時出したかはわかる。少なくとも、彼は必要な処理はした訳だ。」
「はい。」
「この件は、当然、レインも知っているのだな?」
「彼がワグナーを問い詰めました。」
「ならば、ワグナーの処分はレインに任せる。厳重注意で十分だと思うが、レイン次第だ。」
「わかりました、チーフ・レインにそう伝えておきます。」
ハイネ局長は、素早く明日の朝一番にすることをメモした。
「もう帰って良いぞ、君もレインもくたびれているだろうから、早く休め。」
「はい・・・お休みなさい。」
セイヤーズは局長室を退出した。
ハイネはこの問題を執政官に報告すべきか否か考えた。ケンウッドも博士達も皆、今は女性誕生の鍵を発見したことで浮き足立っている。地球上の殺人事件やテロ事件に巻き込むことは出来ないし、彼等には関係ないことだ。これは地球人の問題だ。
ハイネは結局執政官に報告することを止めることに決めた。少なくとも、今は言うべきではない、と。