2019年2月13日水曜日

囮捜査 2 1 - 6

 軽く夕食を摂った後、ケンウッドは会議場へ向かった。執政官達は殆ど全員出席を要求されたので、ゆっくり夜を過ごすつもりだった者達は不満顔だった。ケンウッドの補佐はJJ・ベーリングの能力をテストしたクローン製造部の執政官達や古顔の学者達だ。
 ケンウッドが壇上に上がると、末席に地球人が2人いた。一人は会議への出席を常時義務付けられている遺伝子管理局長だ。もう一人は珍しく出席を請われたドーム維持班総代表だ。ちょっと緊張していたが、執政官達が彼に気がついていないと知ると、逆に安堵した様子だ。隣のハイネにコソコソと話しかけ、ハイネも同様にコソコソと答えていた。
 ケンウッドは副長官の開会の宣言の後、直ぐに月で講義した内容を語り始めた。JJの能力の噂を聞いて知っていた執政官達は、なるほどと言う顔をした。初耳の者は衝撃を受けた。月での講義と違っていたのは、共同研究した学者達が途中でケンウッドと交代してより詳細な説明をしてくれたことだ。おかげでケンウッドは会場からの質問攻めに遭うことを回避出来た。

「今後の職場に変化があるかと問われれば、あると答えます。しかし、あなた方にはまだやらねばならない研究がいっぱいあります。今までの研究とは方向が変わりますが、仕事がなくなることはありません。却って増える方もいるでしょう。これだけは言えます。
失職はありません。」

 ケンウッドの言葉に、会場内から笑いが起きた。安堵の笑いだろう。ドーマー達もこれまで通り働くのだ。ただ・・・

「ドーマー達の生活にも少し変化が出ます。今迄外に出る必要がなかったドーマー達にも外出の機会を作り、少しずつ外の生活に慣れてもらうことになるでしょう。まだ1世代は取り替え子を行わなければなりません。消毒も必要です。だから、最初は希望者から順番に社会勉強の形で外に慣れさせます。具体的な計画はこれから維持班のチーフ達と話し合いを重ねて行きます。」

 ケンウッドは壇上から総代ターナー・ドーマーを見た。

「ターナー、これから君には余計な仕事が増えるが、どうか協力してもらいたい。」
「承知しました。」

 ジョアン・ターナーは、恐らくこの議事場内で一番年少だった筈だが、若い執政官達に気後れを感じさせる威厳を漂わせて頷いた。後に彼がヘンリー・パーシバルに語ったところによると、彼は事前にローガン・ハイネから「堂々と振る舞え。若いコロニー人達は君が強気に出れば及び腰になる。」とアドバイスを受けていたのだと言う。
 会議は混乱することなく、無事終了し、ケンウッドはハイネの居眠りを見ずに済んだ。