2019年2月24日日曜日

囮捜査 2 2 - 4

「ガブリエル・モアと言う男に、死亡した遺伝子管理局タンブルウィード支局長のIDカードを盗んだ疑いがかかっていますが、彼と兄のジョン・モアがミナ・アン・ダウンの教え子でした。彼等は大学卒業後も教授のセミナーに通っていたことがわかっています。」

 レインが説明した。

「モアが盗んだIDが、クローン収容所襲撃に使用されたことがわかっていますから、兄弟がFOKと関係があることは否定出来ません。」

 アメリカ側の捜査官が言った。

「ダウン教授がリンゼイと名乗っていたメーカーのラムゼイと親しかったことは多くの人間から証言を得ています。リンゼイの遺品を調べたところ、ある人物の遺伝子に彼が非常に興味を抱いていたことがわかりました。」

 遺伝子管理局側に一気に緊張の波が走った。その時、ハイネ局長が初めて口を挟んだ。

「それはダリル・セイヤーズと言う男の遺伝子ですな?」

 局員達は努力して局長を振り返るまいとした。局長が打ち合わせなしに発言する時は、局長の出方に臨機応変に合わさねばならない。先方が頷いた。

「そうです。」
「その男は当局の元局員です。珍しい遺伝子を保有していますので、メーカーをおびき出すのに彼の遺伝子を使用しました。ラムゼイが食いついたのですが、残念なことに逮捕する寸前で死なせてしまいました。ダウンはセイヤーズの遺伝子の情報をラムゼイから得ていたのでしょうか?」
「そのようです。クローンは男性ばかりなのですが、ダウンはそのセイヤーズと言う男の遺伝子から女性クローンを製造出来ると確信しているようで、彼を探していると言う情報があります。」
「セイヤーズは現在事務方に転属しています。捜査協力はしますが、情報分析の面で働くだけです。」
「セイヤーズ氏に出てきてもらう必要はありません。」

と外の捜査官達はそう言って、遺伝子管理局を安心させた。

「セイヤーズ氏と似た人物を使って囮捜査を行うつもりです。それで、遺伝子管理局にお願いしたいのは、囮捜査官に局員の教育を施して、それらしい人間に仕立て上げていただきたいのです。」

 チーフ達は、局長がお気軽な口調で「良いですよ」と請け合うのを聞いた。

「但し、局員達は通常2名1組で支局巡りをしています。囮捜査官は1名ですね?」
「そうです。」
「では、もう1名は局員を使います。教育係りと護衛を兼ねさせましょう。」

 ハイネ局長はチーフに声をかけた。

「ドーソン君、詳細な打ち合わせを頼むよ。敵は残酷な手口を使って人の命を奪うことをなんとも思っていない連中だ。囮捜査官と局員の安全第一で活動するよう、熟慮してくれ。」

 クリスチャン・ドーソン・ドーマーが「承知しました」と応えた。