2019年2月10日日曜日

囮捜査 2 1 - 5

 ケンウッドは長官執務室に入ると、すぐに遺伝子管理局長と保安課長に招集をかけた。彼等が顔を出す前に素早く出張記録をコンピューターに登録して、ゴーンと共に待っていると、夕食に出かける直前だったハイネと、まだ仕事中だったゴメスが急いでやって来た。
 ケンウッドは彼等が席に着くか着かないかの段階で喋り始めた。

「月でJJ・ベーリングが発見した女性誕生の鍵を発表して来た。これから各ドームと月の研究機関でその発見の検証とプログラムの修正に取り掛かる。
 詳細は今夜緊急執政官会議を開いて説明と今後の計画を話し合う。
 君達は遺伝学者ではないが、出席をお願いする。プログラム改正の場合、書き換えに君達に認証してもらわねばならない。恐らく1日仕事となるだろう。何時になるかわからないが、必ずある仕事だ。どうか覚悟してもらいたい。
 以上。」

 一気に喋ったので、口を閉じると息が弾んだ。ハイネが微笑した。いよいよですね、と
その目が言っていた。
 ゴメスは警備が仕事だ。会場で騒動が起きないよう、警戒しなければと思った。
 ケンウッドが彼等の表情を伺うと、ゴメスが言った。

「長官、我々はまだ失職する心配をしなくても良いのですね?」

 ケンウッドは微笑んだ。

「大丈夫だ、少佐。まだ2世代はこのまま続けないといけないんだ。私は引退を強いられるかも知れないがね。」
「2世代ですか・・・私も爺さんになりますな。」

 するとハイネが不満そうに呟いた。

「ここに本物の爺ィがいますけど、死ぬまで働けと言われていますよ。」

 ケンウッドとゴメスは顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
 ゴーンが咳払いした。男たちの注意を自身に向けると、彼女は言った。

「緊急会議の連絡をしておきます。開始時刻は午後9時でよろしいですか?」