短い昼寝の後、ハイネは報告書が届き始める時間帯迄軽く運動することにした。運動施設に行ってジムで歩行トレーニングマシンを使っていると、ダリル・セイヤーズ・ドーマーがやって来て隣のマシンに乗った。部下がこんな行動を取る時は、何か訴えたいことがある時だ。ハイネはちらりと彼を見た。
「話でもあるのか?」
セイヤーズが「しめた!」と言う顔をした。
「セレック親子の話をジェリー・パーカーにしてみたのですが、パーカーが囮捜査を提案したのです。」
「駄目だ。」
ハイネは即座に却下した。セイヤーズが囮になりたいと言いそうな気がした。セイヤーズは不満気な表情を見せた。やはり囮になりたいか、とハイネは思った。
「ドーマーはそんな任務の為に育てられるのではない。」
「ですが、遺伝子管理局が保護したクローンばかり狙われているのですよ!」
「警察の仕事にドームは介入しない。」
「捜査協力はするでしょう? メーカーの摘発は合同の仕事じゃないですか。」
「メーカーの摘発は遺伝子管理局の仕事だ。殺人事件の捜査は警察の縄張りだ。」
ハイネはトレーニング装置のスイッチを切った。セイヤーズも機械を止めた。
「セレック親子と自分を重ね合わせたか、セイヤーズ?」
「それは・・・」
「息子がFOKに襲われたらと心配なのだろう?」
「正直に言えば、はい。」
「北米北部班に、君の息子を捜索させている。見つけ次第、本人の意志と無関係にドームに収容する。」
「何時からそんなことを?」
「君の息子が逃げて以来だ。南部班では、頼りない。流石のレインも我が子には甘いようだ。」
ハイネはセイヤーズとケンウッド長官との約束など完全に無視するつもりだ。セイヤーズが挑むような目で言った。
「息子が逃げてから既に3ヶ月経つのに、まだ見つけられないのですね?」
「君は18年間隠れ通したじゃないか。」
「しかし・・・何故北部班なのです? 息子は南部にいるのでは?」
「北部でそれらしい少年が目撃されている。不確定だが。」
セイヤーズはFOKの活動が北部で目立っていることを思い、気が重くなったようだ。口を閉じてしまった。
ハイネは心の中で溜め息をついた。セイヤーズの親心はわからいでもない。ハイネも自身で育てた経験はないが、娘のことはいつも気になっていた。彼女に我が子だと認めないと釣れない態度を見せていたが、心の奥底では彼女の存在が嬉しかったし、男ばかりの世界での勤務が心配でもあった。今だって、宇宙空間の向こうにいる彼女を思わない日はない。
ハイネはセイヤーズに少しだけ理解を示してやることにした。
「囮捜査の件は考えてみよう。しかし、ドーマーは使わない。外の警察機関には囮捜査官がいるはずだし、これはあっちの仕事だ。外にこの案を提案しておくから、君はこれ以上口出しするな。これは命令だ。」
セイヤーズは渋々ながらも、局長の気持ちを囮捜査に向けた成果を持って本部へ戻って行った。ハイネは彼の背を眺め、それからロッカールームに行くと、自身の端末を取り出した。レインに急いでメールを送った。
ーーセイヤーズから目を離すな。また無茶をする恐れがある。
部下だって、一人残らず彼の大事な子供だった。
「話でもあるのか?」
セイヤーズが「しめた!」と言う顔をした。
「セレック親子の話をジェリー・パーカーにしてみたのですが、パーカーが囮捜査を提案したのです。」
「駄目だ。」
ハイネは即座に却下した。セイヤーズが囮になりたいと言いそうな気がした。セイヤーズは不満気な表情を見せた。やはり囮になりたいか、とハイネは思った。
「ドーマーはそんな任務の為に育てられるのではない。」
「ですが、遺伝子管理局が保護したクローンばかり狙われているのですよ!」
「警察の仕事にドームは介入しない。」
「捜査協力はするでしょう? メーカーの摘発は合同の仕事じゃないですか。」
「メーカーの摘発は遺伝子管理局の仕事だ。殺人事件の捜査は警察の縄張りだ。」
ハイネはトレーニング装置のスイッチを切った。セイヤーズも機械を止めた。
「セレック親子と自分を重ね合わせたか、セイヤーズ?」
「それは・・・」
「息子がFOKに襲われたらと心配なのだろう?」
「正直に言えば、はい。」
「北米北部班に、君の息子を捜索させている。見つけ次第、本人の意志と無関係にドームに収容する。」
「何時からそんなことを?」
「君の息子が逃げて以来だ。南部班では、頼りない。流石のレインも我が子には甘いようだ。」
ハイネはセイヤーズとケンウッド長官との約束など完全に無視するつもりだ。セイヤーズが挑むような目で言った。
「息子が逃げてから既に3ヶ月経つのに、まだ見つけられないのですね?」
「君は18年間隠れ通したじゃないか。」
「しかし・・・何故北部班なのです? 息子は南部にいるのでは?」
「北部でそれらしい少年が目撃されている。不確定だが。」
セイヤーズはFOKの活動が北部で目立っていることを思い、気が重くなったようだ。口を閉じてしまった。
ハイネは心の中で溜め息をついた。セイヤーズの親心はわからいでもない。ハイネも自身で育てた経験はないが、娘のことはいつも気になっていた。彼女に我が子だと認めないと釣れない態度を見せていたが、心の奥底では彼女の存在が嬉しかったし、男ばかりの世界での勤務が心配でもあった。今だって、宇宙空間の向こうにいる彼女を思わない日はない。
ハイネはセイヤーズに少しだけ理解を示してやることにした。
「囮捜査の件は考えてみよう。しかし、ドーマーは使わない。外の警察機関には囮捜査官がいるはずだし、これはあっちの仕事だ。外にこの案を提案しておくから、君はこれ以上口出しするな。これは命令だ。」
セイヤーズは渋々ながらも、局長の気持ちを囮捜査に向けた成果を持って本部へ戻って行った。ハイネは彼の背を眺め、それからロッカールームに行くと、自身の端末を取り出した。レインに急いでメールを送った。
ーーセイヤーズから目を離すな。また無茶をする恐れがある。
部下だって、一人残らず彼の大事な子供だった。