2019年2月24日日曜日

囮捜査 2 2 - 6

 昼食を終えてケンウッドと別れると、ハイネ局長は昼寝のために庭園に行った。ベンチに座って端末を出すと、北米南部班チーフ、ポール・レイン・ドーマーに電話をかけた。レインはすぐに出た。

「レインです。」
「ハイネだ。囮捜査官の件をケンウッド長官に漏らしたのは誰だ?」

 勿論、ハイネはレインが口を滑らせたとは思っていない。レインは無口だし、上司に自分から業務内容をペラペラ喋る男ではない。特にコロニー人には用心深い。若い頃の苦い経験から、彼はコロニー人科学者達に警戒心を抱いている。例えケンウッド長官を信頼していても、仲間内の秘密を明かしたりしないのだ。ハイネは別の人物に疑いを抱いていた。
 レインが驚いたような声で、「お待ち下さい」と言って、暫し音声が途切れた。彼は部下達と一緒にいた様子だったので、仲間に質問したのだろう。やがて不意に微かな雑音が聞こえ、セイヤーズの声が聞こえて来た。

「それは私です、局長。」

 申し訳なさそうな声だ。ハイネは溜め息をついた。

「君か、セイヤーズ! 言い訳出来るのか? コロニー人には内緒の作戦だったはずだぞ。」
「ええ・・・それは・・・その・・・ギル博士がヒギンズ捜査官に興味を抱いたので、近づかないよう予防線を張ったつもりでした。連邦捜査局から研修に来ている人なので、手出し無用と言っておいたのですが・・・。」

 セイヤーズの言い訳はこうだ。昼休みにクロエルがヒギンズ捜査官にアイスクリームの大食い競争を挑んだ。(これを聞いたハイネは熱が出そうな気がした。)ハイネとケンウッドが食事に来る前の話だ。食堂内にちょっとした騒ぎが起きて、そこにアナトリー・ギル博士が現れた。レインの大ファンだからレインに会いに来たのだろうが、生憎その場にレインはいなかった。ギルはクロエルと騒いでいるセイヤーズに似た男の存在に気付き、これまた偶然近くに居合わせたセイヤーズに、あれは誰かと尋ねたのだ。

「セイヤーズ、クロエルと遊んでいる男は誰だ? 君によく似ているが・・・」
「彼は外からのゲストだ。ドームの外でクローンの子供が襲われる事件が連続して起きたので、彼が遺伝子管理局の局員を装って犯行グループと接触を図ることになった。それで管理局の業務研修に来ている。一時的な滞在だから、あまり多くの人と接触させたくない。」
「当然だ。ドームの業務を全部知られる訳にはいかないからな。」

 セイヤーズはギルが素直に納得してくれたと思ったのだが、ギルはケンウッド長官にご注進に及んだらしい。
 ハイネはまた溜め息をついた。

「ギルは口が軽い。あの男にはもっと注意し給え。ケンウッド長官は殺人事件を知らなかったので、非常に驚いておられる。コロニー人には関係ない事件だがな。」
「あの人は命を粗末にする人間は許せないんですよ。」

 セイヤーズはケンウッドの人柄をちゃんと理解している。ギルの人柄も理解して欲しいものだ。ハイネは若い部下に注意を与えた。

「今、執政官達はマザーコンピュータの再構築で忙しい。余計なことで時間を取って欲しくない。地球人の問題は地球人で解決する。」

 彼は「話す相手に気をつけろよ」と釘を刺して電話を切った。それからクロエルにも電話をかけて、囮捜査官に目立つ行動を取らせるなと注意しておいた。それでなくても、クロエル自身が目立つのだから。