2019年2月17日日曜日

囮捜査 2 2 - 2

 翌日の打ち合わせ会は早々に終わった。前夜の会議で大方の話が終わっていたし、ケンウッドは流石に疲れが出たのか、昼食も早く済ませて昼寝してくるとアパートに帰ってしまった。それでハイネも彼にしては早い昼食を済ませてしまい、図書館で少し居眠りをしてから執務室に戻った。
 秘書達はチーフ会議の準備をしていた。外部通信回路を開き、保安課に傍受必要なしと告げる。保安課は記録を録るが内容確認はしないのだ。
 早々に顔を出したのは一番遠くから戻ってきた南米班のホアン・ドルスコ・ドーマーだった。ハイネは思わず申し訳なさそうに言った。

「北米で起きている事件の対策を話し合う。君には無駄足を運ばせたかも知れない。」

 ドルスコはちょっと傷ついたふりをして見せた。

「嫌ですよ、局長。僕を仲間外れにしないで下さい。」

 2人は思わずクスッと笑い合った。そこへバタバタといつも通り賑やかにクロエル・ドーマーが現れた。ドルスコが座っているのを見て、がっかりした。

「僕ちゃんが一番じゃなかったすね!」
「残念だったな、クロエル。」

 ドルスコは自身の向かいの席に座った中米班チーフに笑いかけた。

「こう言うことは、一番遠い場所にいる人間が一番早く来るのさ。」

 第2秘書のアルジャーノン・キンスキー・ドーマーがカメラの調整をしていた。局長を一番奥の位置になるようにして、焦点は手前の若いチーフ達に置く。そうやって若さを保つ局長の姿を出来るだけぼかして撮影するのだ。先方はハイネ局長が100歳だと知っているが、今日の局長は疲れて老いて見える、と言っても、どう見ても50歳そこそこだ。もし会議中に議事内容に大いに興味を抱いて生気が湧いて出たら、30代に若返ってしまう。そんな特殊な体質を保つ地球人を、外の世界の地球人が同胞と受け入れるだろうか。
だから、キンスキーはカメラの焦点を調整するのだ。第1秘書のネピア・ドーマーはありのままの局長を見せたがるので、部下の気遣いが不満なのだが、執政官達もキンスキーの考え方を支持しているので何も言えない。
 ハイネはそんな部下達の葛藤を何処吹く風で、ドーソンから先に送られてきた資料に目を通していた。
 ポール・レイン・ドーマーとクリスチャン・ドーソン・ドーマーが前後して入室してきた。入り口で出会ったらしい。全員が揃ったので、ドーソンが同僚達に手短に会議の目的を説明した。そして局長が頷くのを見て、カナダの連邦捜査局へ通信を繋いだ。