2019年2月4日月曜日

囮捜査 2 1 - 2

 ハイネの昼食が終わる頃に、セイヤーズから報告書が届いた。あの男、昼飯はまだなんじゃないのか、と思いつつ、ハイネは食器を返却してまた席に戻った。端末を見ると、セイヤーズがいつものまとまりの良い詳細な文章を書いていた。
 海岸で惨死体で発見されたロバート・セレックの父親ナサニエル・セレックは、渡の設計技師だった。息子がクローンであることを世間に知られないよう、頻繁に住居を替えていたのだ。
 昨年、セント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンでセレックはクローン救済基金と言う団体のオフィスビルの設計に携わった。団体の代表は、大学教授で医学博士のミナ・アン・ダウンだった。セレックはクローン救済基金と言う団体名に気を許し、息子がクローンであることをダウンに打ち明けた。
 その時期にロバート・セレックは風邪をこじらせ、危険な状態に陥った。クローン特有の虚弱体質で、彼は心臓が生まれつき弱かった。ロバートは遺伝子管理リストには記載されていない違法出生児だから、巷の病院に連れて行っても遺伝子履歴がコンピュータに入っていない。薬の処方などに時間がかかる。更に悪くすると病院から警察に通報が行く。
 セレックは息子を助けて下さい、と医学博士のダウン教授に頼んだ。ロバートを最初に見せた町医者は、入院させろと言ったが、それにはIDが必要だった。クローンの子供がIDをもらえるのは、18歳になった時だが、ロバートはまだその年齢に達していなかった。 
 ダウン教授はオフィスの設計をしてくれた礼だと言って、病院に話をつけてくれた。お陰でロバートは一命を取り留めた。

ーーセレックは、メーカーから赤ん坊のロバートを受け取って以来、後にも先にも息子がクローンであることを打ち明けた相手は、ミナ・アン・ダウン唯一人だと証言した。

 ハイネは端末でミナ・アン・ダウンの遺伝子履歴を検索した。結果はすぐに出てきた。彼女は今年で59歳、外の地球人だから、外観は70近く見えるだろう。経歴は輝かしく、セント・アイブス・メディカル・カレッジの医学部長を勤めている。