気が重いフライトだった。ポールは誰とも口を利かなかった。ダリルが送迎のヘリのパイロットと航空免許取得の相談をしても、聞こえないふりをしていた。ヘリはフラネリー家の別荘のヘリポートに着陸した。
出迎えたのは中年の女性だった。アーシュラ・R・L・フラネリーによく似ていた。それもそのはずで、アーシュラのオリジナルとなったコロニー人女性の娘が更にオリジナルとして卵子を提供したクローン、フランシス・フラネリーだからだ。父親はポール・フラネリーではないが、遺伝子的にはアーシュラの娘と同じ、と言うことになる。
ポールにもその仕組みはわかっていたから、彼は不思議なものを見る気分で、遺伝子的妹を眺めた。何も知らないはずのフランシスは、しかし、彼が何者なのかわかっている気配だった。接触テレパスの因子はX染色体上に存在し、女はX染色体がホモにならなければ発現しないから、彼女は母親と兄の会話から知ってしまったのだろう。
俺の取り替え子
ポールは何だか初対面のこの美しい女性が愛おしく思えた。
「フランシス?」( Francis )
とフランシスが声を掛けた。
「それともポールと呼んだ方が良いかしら?」
「ポール」
とポールは言った。
「君の名前だ、フランシス。」( Frances )
そして彼は尋ねた。
「ハグしても良いか?」
「ええ! 喜んで!」
ダリルは遺伝子的兄妹が抱き合うのを眺めた。出迎えたのがフランシスで良かった、と心から安堵した。ハロルド・フラネリー大統領が以前会った時に、ダリルに言った言葉が思い出された。「私は双子の妹と弟がいるのだと思っているよ」とポールとフランシスの兄は言ったのだ。
ポールとフランシスは初対面で意気投合した様子だった。ダリルは兄妹がいるポールをちょっと羨ましく思った。
やがて体を離したフランシスは、ポールとダリルを別荘へ案内した。
「父はもう長くありません。」
と彼女は感情を抑えて語った。
「やりたいことは精一杯やったので、満足して死ねると言っています。ただ、一つだけ心残りがあるので、それだけはすっきりさせたいと・・・」
ポールは息子を取引に使った詫びをしたいのかと皮肉を言おうと思ったが、理性的に控えた。
別荘の屋敷の中にいたのはポール・フラネリーの親族だけだった。大統領の護衛や側近達は控え室やキッチンにいるのだろう。大きな別荘なので、ダリルには見当がつかない。
彼は自身が「他人」だと承知していたので、居間にいたフラネリー家の人々に挨拶をすると、自身の身を何処に置こうかと考えた。するとアメリア・ドッティが気を利かせて書斎に連れて行ってくれた。
「ヘリコプターの中で待っていても良いのですが」
とダリルが言うと、彼女は肩をすくめた。
「そんなことをすると、私が夫に叱られます。私の命の恩人ですのに。」
暫くして、海運王アルバート・ドッティが入室してきた。
「やぁ、我が細君の恩人にやっとお会い出来ましたね!」
逞しい海の男と呼べそうな、よく日焼けしたがっしりとした男性だった。夫妻は、ダリルが退屈しないよう、相手をしてくれた。
出迎えたのは中年の女性だった。アーシュラ・R・L・フラネリーによく似ていた。それもそのはずで、アーシュラのオリジナルとなったコロニー人女性の娘が更にオリジナルとして卵子を提供したクローン、フランシス・フラネリーだからだ。父親はポール・フラネリーではないが、遺伝子的にはアーシュラの娘と同じ、と言うことになる。
ポールにもその仕組みはわかっていたから、彼は不思議なものを見る気分で、遺伝子的妹を眺めた。何も知らないはずのフランシスは、しかし、彼が何者なのかわかっている気配だった。接触テレパスの因子はX染色体上に存在し、女はX染色体がホモにならなければ発現しないから、彼女は母親と兄の会話から知ってしまったのだろう。
俺の取り替え子
ポールは何だか初対面のこの美しい女性が愛おしく思えた。
「フランシス?」( Francis )
とフランシスが声を掛けた。
「それともポールと呼んだ方が良いかしら?」
「ポール」
とポールは言った。
「君の名前だ、フランシス。」( Frances )
そして彼は尋ねた。
「ハグしても良いか?」
「ええ! 喜んで!」
ダリルは遺伝子的兄妹が抱き合うのを眺めた。出迎えたのがフランシスで良かった、と心から安堵した。ハロルド・フラネリー大統領が以前会った時に、ダリルに言った言葉が思い出された。「私は双子の妹と弟がいるのだと思っているよ」とポールとフランシスの兄は言ったのだ。
ポールとフランシスは初対面で意気投合した様子だった。ダリルは兄妹がいるポールをちょっと羨ましく思った。
やがて体を離したフランシスは、ポールとダリルを別荘へ案内した。
「父はもう長くありません。」
と彼女は感情を抑えて語った。
「やりたいことは精一杯やったので、満足して死ねると言っています。ただ、一つだけ心残りがあるので、それだけはすっきりさせたいと・・・」
ポールは息子を取引に使った詫びをしたいのかと皮肉を言おうと思ったが、理性的に控えた。
別荘の屋敷の中にいたのはポール・フラネリーの親族だけだった。大統領の護衛や側近達は控え室やキッチンにいるのだろう。大きな別荘なので、ダリルには見当がつかない。
彼は自身が「他人」だと承知していたので、居間にいたフラネリー家の人々に挨拶をすると、自身の身を何処に置こうかと考えた。するとアメリア・ドッティが気を利かせて書斎に連れて行ってくれた。
「ヘリコプターの中で待っていても良いのですが」
とダリルが言うと、彼女は肩をすくめた。
「そんなことをすると、私が夫に叱られます。私の命の恩人ですのに。」
暫くして、海運王アルバート・ドッティが入室してきた。
「やぁ、我が細君の恩人にやっとお会い出来ましたね!」
逞しい海の男と呼べそうな、よく日焼けしたがっしりとした男性だった。夫妻は、ダリルが退屈しないよう、相手をしてくれた。