2016年11月27日日曜日

囮捜査 5

  お八つの後、ダリルは本部に戻り、局長の手が空いているかどうか秘書に尋ねてみた。すると局長はジムに出かけたとのことだったので、自身もジムへ行った。
ローガン・ハイネ局長は素晴らしい体をTシャツ1枚とトレーニングパンツだけで包んで歩行トレーニングをしていた。ダリルも着替えて局長の隣に並んだ。ちらりと彼を見て、局長が尋ねた。

「話でもあるのか?」
「セレック親子の話をジェリー・パーカーにしてみたのですが、パーカーが囮捜査を提案したのです。」
「駄目だ。」

 局長は即座に却下した。

「ドーマーはそんな任務の為に育てられるのではない。」
「ですが、遺伝子管理局が保護したクローンばかり狙われているのですよ!」
「警察の仕事にドームは介入しない。」
「捜査協力はするでしょう? メーカーの摘発は合同の仕事じゃないですか。」
「メーカーの摘発は遺伝子管理局の仕事だ。殺人事件の捜査は警察の縄張りだ。」

 局長はトレーニング装置のスイッチを切った。ダリルも機械を止めた。

「セレック親子と自分を重ね合わせたか、セイヤーズ?」
「それは・・・」
「息子がFOKに襲われたらと心配なのだろう?」
「正直に言えば、はい。」
「北米北部班に、君の息子を捜索させている。見つけ次第、本人の意志と無関係にドームに収容する。」
「何時からそんなことを?」
「君の息子が逃げて以来だ。南部班では、頼りない。流石のレインも我が子には甘いようだ。」

 ドームは、と言うより、遺伝子管理局はライサンダーを諦めていなかったのだ。ローガン・ハイネ・ドーマーは、ダリルとケンウッド長官との約束など完全に無視するつもりだ。

「息子が逃げてから既に3ヶ月経つのに、まだ見つけられないのですね?」
「君は18年間隠れ通したじゃないか。」
「しかし・・・何故北部班なのです? 息子は南部にいるのでは?」
「北部でそれらしい少年が目撃されている。不確定だが。」

 ダリルはFOKの活動が北部で目立っていることを思い、気が重くなった。

「囮捜査の件は考えてみよう。しかし、ドーマーは使わない。外の警察機関には囮捜査官がいるはずだし、これはあっちの仕事だ。外にこの案を提案しておくから、君はこれ以上口出しするな。これは命令だ。」

 ダリルは渋々わかりましたと言って、ロッカールームに引き揚げた。端末にポールから連絡が入ってた。
 消毒が終わったのでオフィスに居ると言う。夕食前に報告書をまとめてしまうのだ。
彼はモア兄弟に逃げられてしまった。FOKは支局にスパイを送り込んでいたと思われる。
ダリルは、それだけでもドームが捜査に参加する理由になるのに、と思った。
 オフィスに入ると、ポールが執務机の向こうで仕事をしていた。今回は激務ではなかったので、疲れは見られない。むしろダリルの方が精神的に疲れた。
 ダリルが休憩スペースでポールの仕事が終わるのを待っていると、ポールが手を止めた。

「へたっているのか?」
「うん・・・ちょっとね。」

 ポールはそれ以上尋ねずに、再び作業を始めた。何があったのか、触ればわかるので、それ以上は質問しない。それに、ダリルが部屋に戻って来る前に、局長からメールが来ていた。

ーーセイヤーズから目を離すな。また無茶をする恐れがある。