2016年11月23日水曜日

囮捜査 1

 ポール・レイン・ドーマーがローズタウン支局長トーマス・クーパー元ドーマーと共にドームの外へ出かけて行った。
 留守番のダリルはいつもの仕事をこなし、余った時間で調べ物をした。クローン収容所から少年達が攫われた当時の資料を閲覧したのだ。これは違反行為をしなくてもドーム外の新聞記事や警察発表等を検索すれば直ぐに見つかった。
 死体で見つかった少年の名前はロバート・セレックと言った。彼は何処かのメーカーが創った単純クローン、つまり核を取り除いた卵子に父親の遺伝子を入れて発生させたクローンとして生まれた。17歳になった直後に父親共々遺伝子管理局に逮捕された。密告があったのだ。ドーム外の情報源には密告者の正体は記録されていなかった。
 父親のナサニエル・セレックは懲役2年の刑を宣告されて刑務所に収監された。少年はクローン収容所に収容された。技術の未熟なメーカーが製造したクローンにありがちなひ弱な体で、収容所は彼を医療監視に置き、父親が出所する迄保護することにした。違法クローン製造は、親の罪であるが子供に罪はないと言う考え方で、刑罰を与えられるのは親のみ、収容所は親が刑期を終える迄子供を預かる訳だ。
 ロバートは消化器系統に問題があり、収容所は医療手術を受けさせることにした。FOKが襲撃したのは、手術の前日だった。当時収容されていた子供は5名、うちティーンエイジャーはロバートを入れて2名だった。FOKはその2名だけを誘拐した。

 FOKは実験体の調達に施設を襲ったのだ。成人に近い体格の子供だけを狙い、拉致した。クローンの解放なんて嘘っぱちだ。

 次に少年の検屍報告書を読んだ。画像は飛ばして文章だけ目を通した。
 少年の脳が取り出された後の頭蓋の空間は綺麗だったと言う。脳を戻せる状態にしてあったのだ。殺人者は誰かの脳をロバートの頭に移植するつもりだったのだろうか。それとも少年の脳をもう1人の実験体の頭部に移し、移植手術の練習をしたのだろうか。いずれにせよ、ロバートの脳は元の場所に戻してもらえなかった。
 ダリルは資料を閉じて、暫く自身の目も閉じていた。刑務所の中にいる父親は息子の死を知らされたはずだ。どんなに悔しいだろう。哀しいだろう。報告書は親子の生活をうかがわせる記事を載せていなかった。ただ、ナサニエルの職業は渡りの設計技師だと記載されていた。恐らく息子がクローンであることがばれないように、旅をしながら育てていたのだろう。
 ダリルはハイネ局長に電話をかけた。

「FOKに殺害されたと思われるロバート・セレックの父親、ナサニエル・セレックに面会したいのですが?」
「何の為に?」
「どこで息子がクローンだとばれてしまったのか、心当たりがないか、聞きたいのです。遺伝子管理局は密告を受けたが、密告者が何故ロバートがクローンであると知ったのか調べていないでしょう? セレック親子は旅をして暮らしていました。周囲の人間にすぐには子供の出生の秘密を知られるとは思えません。」
「密告者とFOKの接点を探ろうと言うのか?」
「警察の仕事だなんて仰らないで下さい。警察は密告者の身元を調べもしていないのです。」

 局長は少し黙ってから、質問した。

「日帰りで行ける距離か?」
「早朝に出かければ充分です。心配でしたら、チーフ・ドーソンの班に同行します。」
「では、明日行ってこい。刑務所には私から連絡を入れておいてやろう。道草は食うなよ。」