ドームに帰投したのは昼過ぎだった。ハイネ局長にナサニエル・セレックの証言を報告すると、それを文書にするよう命じられた。1人でオフィスで作業をして、午前中に溜まった仕事をすると昼食を食べ損なった。
ポールは休憩スペースにお茶をストックしているが食べ物は置いていない。お茶菓子ぐらい置いておけば良いのに、と心の中で愚痴りながらも猛スピードで仕事をやっつけた。
やっとコンピュータから解放され、オフィスの外に出たところで、端末にポールから連絡が入った。午後5時過ぎに戻るから夕食を一緒に取ろうと言うものだ。
そんなに待てるか!
ダリルは空腹だったので、食堂へ向かった。パンケーキと珈琲でなんとか繋いでいると、ジェリー・パーカーが現れた。少し離れてついて来るのは監視のアキ・サルバトーレだ。ジェリーはダリルを見つけると、周囲を見回した。ポールがいないことを確認してからテーブルにやって来た。
「1人か?」
「うん。ちょっと外に出ていたんで、昼飯を食い損なって、今やっとお八つにありついたところだ。」
「おまえが外へ?」
ジェリーが少しびっくりした。外出禁止のドーマーが外出したので驚いたのだ。
「必要があれば、ドームは誰でも利用するさ。君だって、そのうち外に出かける用事が出来るかも知れない。遊ぶ暇はないけどね。」
「ふーん・・・」
ジェリーは窓の外を見た。ドームの壁越しに空が見える。外は雪が舞っていたが、ドームの中は常春だ。ジェリー・パーカーは自由に出かけたことがあったのだろうか、とダリルはふと思った。ラムゼイ博士にとって、大事な地球人の遺伝子をストックした人間だ。何か事故に遭ったりしたら大変だ。
「ジェリー、君はセント・アイブス・メディカル・カレッジのミナ・アン・ダウン博士を知っているかい?」
「俺はセント・アイブスには行かなかったんだ。博士はあの街の遺伝子学者達に俺を逢わせたくなかったんだ。」
「そうだったな・・・博士はトーラス野生動物保護団体の人間達を信用していた訳じゃなかった。君を奪われたくなかったのだ。君は、ダウン博士とは面識はない・・・か。」
「女だな? その女博士がどうした?」
それでダリルはセレック親子の身に起きた悲劇を語って聞かせた。ジェリーは聞いているうちに不機嫌になった。彼はメーカーだ。メーカーは違法なクローン製造業者だが、命を創る商売をしているのであって、命を奪う仕事はしない。クローンの子供を殺害して医療実験に使ったと言う話は、彼に怒りの感情を沸き立たせた。
「許せない・・・ラムゼイ博士だって、脳移植は考えていたが、クローンの命を奪うことには抵抗を持っていた。だから、クローンを意識を持たせずにある年齢の大きさ迄培養して使うと言う博士の考えは机上の空論で、本人も実現は無理だと言っていた。あの人は、おまえ達がどう思っているか知らないが、本当に人を殺すのは嫌いだったんだ。」
「トーラスとFOKが繋がっていると言う説はどう思う?」
「トーラスの連中全員ではないだろう。金持ちの年寄りの自己中が、偽テロリストと手を組んでいると考えた方が良いかも知れないな。」
「つまり、トーラスの会員でない人間もいると?」
「ああ。」
「なんとかそいつらが事件と関係していると言う証拠を得られないものかな?」
「おまえ、いつから刑事になったんだ? 遺伝子管理局の仕事はメーカーの摘発だろう?」
「だが、襲われているのは、遺伝子管理局が保護したクローン達なんだ。他人事ではない。」
ジェリーはダリルを眺めた。
「つまり、おまえは、ライサンダーが心配なんだ。」
ずばり本心を言い当てられて、ダリルはどきりとした。行方不明の息子がFOKに捕まっていたらと想像すると、いてもたってもいられない。
「連中はドーマーの細胞が欲しいだろうな。」
とジェリー。
「健康で綺麗な容姿の男達のクローンを創れたら、ヤツらは大喜びだろう。誰かがちょっとだけ捕まってやって、連中の尻尾を掴めたら良いんじゃないか?」
「囮を出せってか?」
「ラムゼイ博士が連中と何処まで親しくしていたのか知らないが、仲間の子種を持ち出して脱走したドーマーの話程度はしているかもな。」
「私が囮に?」
「別におまえじゃなくても良いだろ?」
ポールは休憩スペースにお茶をストックしているが食べ物は置いていない。お茶菓子ぐらい置いておけば良いのに、と心の中で愚痴りながらも猛スピードで仕事をやっつけた。
やっとコンピュータから解放され、オフィスの外に出たところで、端末にポールから連絡が入った。午後5時過ぎに戻るから夕食を一緒に取ろうと言うものだ。
そんなに待てるか!
ダリルは空腹だったので、食堂へ向かった。パンケーキと珈琲でなんとか繋いでいると、ジェリー・パーカーが現れた。少し離れてついて来るのは監視のアキ・サルバトーレだ。ジェリーはダリルを見つけると、周囲を見回した。ポールがいないことを確認してからテーブルにやって来た。
「1人か?」
「うん。ちょっと外に出ていたんで、昼飯を食い損なって、今やっとお八つにありついたところだ。」
「おまえが外へ?」
ジェリーが少しびっくりした。外出禁止のドーマーが外出したので驚いたのだ。
「必要があれば、ドームは誰でも利用するさ。君だって、そのうち外に出かける用事が出来るかも知れない。遊ぶ暇はないけどね。」
「ふーん・・・」
ジェリーは窓の外を見た。ドームの壁越しに空が見える。外は雪が舞っていたが、ドームの中は常春だ。ジェリー・パーカーは自由に出かけたことがあったのだろうか、とダリルはふと思った。ラムゼイ博士にとって、大事な地球人の遺伝子をストックした人間だ。何か事故に遭ったりしたら大変だ。
「ジェリー、君はセント・アイブス・メディカル・カレッジのミナ・アン・ダウン博士を知っているかい?」
「俺はセント・アイブスには行かなかったんだ。博士はあの街の遺伝子学者達に俺を逢わせたくなかったんだ。」
「そうだったな・・・博士はトーラス野生動物保護団体の人間達を信用していた訳じゃなかった。君を奪われたくなかったのだ。君は、ダウン博士とは面識はない・・・か。」
「女だな? その女博士がどうした?」
それでダリルはセレック親子の身に起きた悲劇を語って聞かせた。ジェリーは聞いているうちに不機嫌になった。彼はメーカーだ。メーカーは違法なクローン製造業者だが、命を創る商売をしているのであって、命を奪う仕事はしない。クローンの子供を殺害して医療実験に使ったと言う話は、彼に怒りの感情を沸き立たせた。
「許せない・・・ラムゼイ博士だって、脳移植は考えていたが、クローンの命を奪うことには抵抗を持っていた。だから、クローンを意識を持たせずにある年齢の大きさ迄培養して使うと言う博士の考えは机上の空論で、本人も実現は無理だと言っていた。あの人は、おまえ達がどう思っているか知らないが、本当に人を殺すのは嫌いだったんだ。」
「トーラスとFOKが繋がっていると言う説はどう思う?」
「トーラスの連中全員ではないだろう。金持ちの年寄りの自己中が、偽テロリストと手を組んでいると考えた方が良いかも知れないな。」
「つまり、トーラスの会員でない人間もいると?」
「ああ。」
「なんとかそいつらが事件と関係していると言う証拠を得られないものかな?」
「おまえ、いつから刑事になったんだ? 遺伝子管理局の仕事はメーカーの摘発だろう?」
「だが、襲われているのは、遺伝子管理局が保護したクローン達なんだ。他人事ではない。」
ジェリーはダリルを眺めた。
「つまり、おまえは、ライサンダーが心配なんだ。」
ずばり本心を言い当てられて、ダリルはどきりとした。行方不明の息子がFOKに捕まっていたらと想像すると、いてもたってもいられない。
「連中はドーマーの細胞が欲しいだろうな。」
とジェリー。
「健康で綺麗な容姿の男達のクローンを創れたら、ヤツらは大喜びだろう。誰かがちょっとだけ捕まってやって、連中の尻尾を掴めたら良いんじゃないか?」
「囮を出せってか?」
「ラムゼイ博士が連中と何処まで親しくしていたのか知らないが、仲間の子種を持ち出して脱走したドーマーの話程度はしているかもな。」
「私が囮に?」
「別におまえじゃなくても良いだろ?」