2017年3月5日日曜日

オリジン 15

 ダリルは息子が小さい方の寝室で眠ってしまうとアパートを出た。1人で夜道をブラブラ歩いて森へ行くと、ギリシア風の東屋がある場所に出た。土曜日の夜だがドームに曜日は関係ない。森は閑かで木立の向こうの出産管理区が明るく見える。
 ダリルは東屋のベンチに座って夜空をぼんやりと見上げている男を見つけ、近づいた。

「眠れないのか、ジェリー?」

 ジェリー・パーカーが振り向いた。声を掛けてきたのがダリルだと気が付いて、ちょっと微笑した。

「そっちも眠れないんじゃないのか? この時間は既におねんねしているはずだろ?」
「いろいろと頭の中を整理したくてね。」

 ダリルは同席の許可を求め、ジェリーは少し移動してベンチに空きを作った。腰を下ろすダリルを見て、彼が呟いた。

「おまえはいつも優雅な身のこなしをするんだな。」
「そんなことを言われたのは初めてだ。」

 2人は暫くぼーっと夜の森を眺めていた。人工の森の中は、微風が吹いていて、気温も人間が快適に感じる温度に調整してある。彼等は眠気が訪れるのを待っていた。しかし一向にその気配がなかったので、ダリルが沈黙を破った。

「ジェリー、君の博士を救えなくて申し訳なかった。」

 ジェリーが少しだけ首を動かして彼を見た。

「今頃なんだ? 」
「君と博士は親子だったんだな、と思ったら、急にすまないと感じたんだ。」
「博士を親と思ったことはなかったぜ。」

 とジェリーが前を向き直った。

「だが、確かに信頼出来る大好きな人だった。亡くなるところを見ずに済んで良かったと思っている。」
「まだ彼を殺害した真犯人は判明していない。」
「トーラス野生動物保護団体の連中さ。誰がなんて、俺はどうでも良い。あの組織が滅茶苦茶になれば良いとだけ思っている。ただ・・・」
「ただ?」
「博士を裏切ったヤツがいるはずだ。つまり、反重力サスペンダーに実際に細工したヤツだ。博士はあの機械を他人に触らせなかった。俺すら滅多に触ったことがなかった。トーラスの連中に触らせるはずがない。だから、博士の部下の誰か、博士の機械を触ることが許された誰かがやったのさ。」
「しかし、セント・アイブスに博士と行ったのはシェイと運転手だけだろう? あの2人に私は会ったが、重力サスペンダーに細工出来るような人とは思えないんだ。技術的にも人柄的にも・・・。」
「運転手と言うのは、ネルソンだったか、確か・・・」
「ネルソンだ。」
「ジェシー・ガーではなかったんだな?」
「そんな男は知らない。」
「ネルソンとシェイはガーの話はしなかったのか?」
「私は聞いていない。」

 ジェリーが自分の膝を手で打った。

「あいつか・・・」
「運転手は2人いたのか?」
「ニューシカゴからセント・アイブスまでは1人で運転出来る距離じゃない。ガーは1人で先に農場を出て、途中のドライブイン迄の安全を確認して休み、後から来た博士の一行に合流したはずだ。ネルソンと交代で運転したんだ。」
「何故ネルソンとシェイは彼の存在を当局に話さなかったんだ?」
「シェイは聞かれないことは喋らない。ネルソンはシェイが喋らなければ黙っている。」
「そうか・・・もう1人いたのか・・・」
「彼が重力サスペンダーに細工したとは限らないぞ。」

 しかし、ジェリー・パーカーはそれ以上推理をすることを止めた。

「今夜はぐっすり眠れそうだ、ありがとよ、『脱走ドーマー』君。」

 ダリルはいきなり抱き寄せられ、キスされた。本当に速攻だったので、ジェリーを殴れなかった。